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「うん? ここは……シロ?」
私は立ち上がり、シロを持ち上げあたりを見まわした。
そこは、小島に浮かぶ白い花畑だった……。
「火端さん?」
布袋から浄玻璃の鏡を取り出しながら、呼んでみた。
けれども、火端さんは近くにはいない。
ソワソワと東の方から心地よい風が吹く。この白い花畑で、私はしばらく佇んだ。
すると、違う風が吹いていることがわかる。
風に潮風に乗って、熱い空気が混じっていた。
「あら? あそこの洞穴から風が吹いているのですね」
私は、火端さんが大焦熱地獄まで一人で行ってしまったことを、確認することもなく。一度、シロを連れて大叫喚地獄まで戻ることにした。
急いで、あの男に会わないといけない。 広大な大叫喚地獄で、広部 康介たった一人を探すのは、本当に難しいことだけど、どうしても行かないといけない。
「あら?」
この小島から、焦熱地獄の火炎が噴出している危険地帯までかなりの距離があった。危険地帯を通らないと、大叫喚地獄まで行けない。
でも、どうやって、私たちはここへ来たのか?
いえ、運ばれてきたのでしょう?
もしかしたら、火端さんが一人で……私とシロを?
いえ、違うと思う。
火端さんがここの白い花畑で、倒れていた形跡があります。それに、焦熱地獄では気を失って倒れてしまったのを、この目でしっかりと見ているから。
それでは……弥生さんが?
でも、それも違う。
弥生さんが、よほどの怪力でない限り。こんな小島まで二人と一匹を運べないはず。怪力? ……そうですね。恐らくは、獄卒が運んでくれたのでしょう。
「さあ、シロ行きますよ!」
シロは海沿いにボッカリと空いた洞穴を、じっと見つめていたけれど、諦めてこっちへと歩いて来てくれた。
まずは、焦熱地獄までどうにか戻って危険地帯を通らないといけない。
危険地帯を通ることも命懸けだが、それよりどうやって、この小島から戻ればいいのか……? 私はしばらくソワソワと吹く心地良い風を受けながら、歩きながら考えていた。と、シロが突然、ニャーと鳴いて下方に広がる海へ首を向けた。
「? シロ? 何があるんです? ハッ!」
そこには、ニョッキリと浮き出た岩の端に、小さな渡し船が浮いていた。急いで、白い花畑から砂の地面まで走り、渡し船に乗ると、シロもちょこんと船に飛びこんできた。
オールもちゃんとあるので、漕いでみようと、舟の腰掛けに腰を降ろすと、一冊の本に気が付いた。
本の表紙を広げてみると、幼い女性の字で、こう書かれていた。
(兄貴へ ここから帰ったら、親へ伝えてくれ。おれの元恋人の広部 康介が家の借金を肩代わりしてくれるといっている。そして、北茨城の山城叔父さんの借金も肩代わりしてくれるってさ。これで、ほんとスッキリできるな。広部の奴は、地獄。家は天国。 弥生)
「これ、弥生さんの本だったんだ……火端さんに書いてくれていたんだ。弥生さんは、ここから帰るようにと……切に願って……。でも、火端さんも気がつかなかったんだ」
私も急がないと、二人は大焦熱地獄へ行ったんだ。
オールを力を入れて漕いで、火炎が迸る沖を目指す。はるか遠くで、大きな音と共に噴火のような灼熱が天高く舞い上がっていた。