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「んぅっ……ぁっ、はっ……新藤さ……ん……」
激しく口づけされ、指が絡み合い、厭らしい声が勝手に漏れた。
濃いブラウンで出来た開放的な木の手すりに押し付けられ、そこから二階の階段下まで落ちそうになる。
大丈夫だろうけれど気を抜くと本当に落ちてしまいそうで、必死に目の前の彼にしがみついた。悪い顔を見せながら、この人は私が怖がる様子を愉しんでいる。
「やめて、こわ……ぃっ、あう、んっ、は、っ……!」
濃紺のスーツから微かに漂う、男物のコロンの香りが鼻腔をつく。
長身の彼は私を落としたりしないよう、しっかりと抱き留めてくれている。
これは私に罰を与えようと、ほんの少し意地悪をしているように思えた。高い所は苦手ではないけれど、落ちそうになると流石に怖い。三階から見下ろす二階へと続く階段下は、思いのほか高かった。
「へえ、これかぁ。律が気に入ったソファーって」
三階の手すりから丁度見える、真正面の一番奥の廊下に佇む赤いソファーを見た新藤さんが笑った。
普段の装いと違うから、どうしても恥ずかしくてつい、新藤さんと呼んでしまう。
「それでは、インタビューを始めましょうか、律さん」
新藤さんと言ってしまったものだから、わざと『律さん』と呼んでくる。
彼の最後の仕事――マイホームに添えるエピソードについてのインタビューを始められた。次の顧客の為に、自ら担当し、建設までに至った経緯・空間・壁紙等の紹介をするのに、簡単なアピール文がいるらしい。それらを私に質問して答えを引き出し、簡単なレポートにまとめていく。
手に入れたばかりのマイホームの三階スペースは、この家一番のこだわり。
結構な値段はしたけれど、本好きの私がくつろげるために四方を本棚に囲まれた空間に鎮座するソファーは、光貴と様々見て回って、ようやく手に入れたもの。渋いワインレッドのベロア生地で、手触りも良いから一目で気に入った。
狭い廊下部分を囲うようにして作った本棚に沢山の本を収納し、ベンチの代わりにこの赤いソファーを置いた。壁紙もシックなダークグレーを採用して、古代図書館のような雰囲気になっている。
赤いソファーは、まるでこの家の為に作られたかのように丁度よいサイズで、廊下の隅の本棚スペースに余すことなく収まり、開放的なブラウンの手すりから存在感をアピールして、赤が良く映えていた。
想像以上の空間の出来栄え。お気に入りのこの場所は、まるでアーティストがポーズをつけて、CDのジャケット写真にでも使えそうな、妖艶で映える雰囲気がある。
だからこの空間と壁紙に大変満足している、素晴らしいハウスメーカーで家を建てる事が出来て良かったと、インタビューを締めくくった。
「オーケー。これを提出して終わり。それよりこのソファー、いつ買った?」
「あ。少し前かな。昨日届いたばかりなの」
「うん。めっちゃいいな、このソファー。だったら、ここでシようか、律」
「えっ……?」
「早く俺の傍に来い」
腕を引っ張られた。