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私が思わずお母様に手を伸ばそうとすると、緩やかに杜若様が手を掴んで顔を横に振った。
──私の言葉はお母様に届かない。
そんな風に言われた気分になって、前に伸ばした手はお母様に届くことはなかった、
そして杜若様の言葉は止まらなかった。
「ここで美醜について論じるつもりはありません。それよりも、禍々しい力とは実に興味深い。かつて、私も幼少時代は己の力をちゃんと扱えず。妬み嫉みもあり、周囲から化け物などと呼ばれた過去があります。人は自分とは違う生き物を見ると、蔑む習性があるのでしょう。浄化を得意とする雪華家も実に人間らしい、サガをお持ちのようですね」
その言葉に反応したのは今まで、沈黙していたお父様だった。
「なっ、ぶ、無礼でないか!? これは家族の問題だ! 君達、五家とは違って我々には我々の理由があるっ」
「あぁ、そうでしたか失礼。私には環の面倒を唯一見てくれた、ばあやと言う方だけが環の家族だと思っていました」
「杜若様……!」
思わず名を呼んでしまう。
私の味方はこの世界に、ばあやだけだと思っていた。
それがまさか今日出会った、杜若様に私を庇うような言葉を言われるとは思ってみなかった。
前世のことがなければ、胸がキュンとしてしまっていたかもしれない。
でも、この胸には暖かさが確かに広がっていた。
「では此度の婚姻は環との結婚と言うことで、よろしいですね。後ほどちゃんと結納金もお渡しします。そのあとは我々の新婚家庭には何も、口を出さないで頂きたい」
「ふざけないで下さい!」
杜若さまの声を遮ったのは姉だった。
勢いよく立ち上がり、手を前にして朱色の着物の袖を激しく揺らした。
「そんな出来損ないの環と子を成しても、杜若家の汚点になるだけですわよっ!」
「……汚点。ふっ。笑わせるな」
「!?」
今まで優雅だった杜若様の物言いが、一気に絶対零度の声色に変わった。
その豹変にさすがの姉も顔色を青くした。
「忌み子と称して、お前達は実の妹を虐めてきたのだろう。それぐらい事前の内偵調査で把握している」
杜若様の言葉に姉の表情がますます硬くなる。
「内偵調査ですって……?」
「そうだ。こちらにも色々と事情があって、調べたまでのこと。身内を虐める者に無礼と言われる筋合いはない。お前達がウリにしている十年前の奇跡の浄化。それは姉ではなく。妹の環の|御技《みわざ》だろう」
十年前の奇跡の浄化。
なんのことだろうと、姉や両親の顔を盗み見るがなんともバツの悪そうな顔をしていたが、私にはその真意が分からなかった。
それよりも杜若様の鋭い言葉が広間を駆け抜ける。
「そうやって両親共々、醜悪な態度を晒すのもいい加減にしろ!」
杜若様の檄が飛んだ瞬間「ひっ」と腰を抜かす姉。
それに目もくれず、杜若様は黒い隊服を来た人達に目を向けた。
「もういい。茶番も飽きた。皆の者待たせてしまった。当初の目的通り環を娶り、ここにはもう用がない。帰還する」
「はっ!」
黒い隊服の人達の声がびしっと揃った。
一糸乱れぬ動きで広間から出ていく人達。
まるで軍のようだ。これが妖祓いの専門家、杜若家。その実力を目のあたりにしたかのように感じた。
さぁ、行こうかと杜若様に手を引かれたとき、足が進まなかった。
杜若様がなぜ? と言わんばかりにぴくりと愁眉を跳ねさせた。