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一日の授業を終えて放課後を迎えたある日の事 氷鷹北斗は近々、演劇部で公演する演目 悲喜劇のロミオとジュリエットを練習する為に部室に向かった。
演劇部が使っている部屋の扉を開くと誰も居ないのか静かだった。その状況を珍しく思いつつ早速練習する為に台本を開いた。
開かれたページには愛するジュリエット姫が毒殺され、抑えきれない哀しみと想いを吐露するという場面だった。
その場面は変態仮面もとい日々樹渉から「イマイチ感情移入されてない為か観客に伝わらない」と指摘を受けた所だったのでそこを重点的に練習する事にした。
北斗は周りの音を遮断して意識をロミオに集中した。
〜悲喜劇 ロミオとジュリエット〜
ロミオはその日の仕事を手早く済ませ帰宅した後、代わり映えのない家族との時間を過ごした。そうしていつも通り寝静まった夜、ジュリエット姫との待ち合わせ場所に急いだ。でもいくら待っても来ていない恋人に不安を感じていた時、キャピュレット家に潜入させていた間者が現れた。
「ロミオ様、大変申し訳ありません。ジュリエット様がある者により殺されました」
それを聞いたロミオは動揺を抑えつつも間者にジュリエット姫に起こった事、全てを報告する様に命じた。
「夕食前までは特に動きはありませんでした。ですが夕食後のお茶の際にジュリエット様のカップに無味無臭の毒を盛っていた人物がおりました」
さっきよりも落ち着きを取り戻したロミオはなるべく怒気を抑えつつ聞いた。
「私の愛しい恋人に毒を盛ったのは誰だ?身内の誰かか?私と秘密で逢瀬を重ねている事を不愉快に思っていただろうからな」
間者はあくまでも冷静に主に報告する。 「毒を盛ったのはキャピュレット家の当主とその奥方の命令を受けた侍女長です。 深夜にジュリエット様が部屋に居ない事を知った侍女長は音を立てない様にしながら探し回っていました。屋敷内には居ないと悟った侍女長は唯一両家が繋がっている噴水にジュリエット様が向かったと確信したのです。 前からお二人の関係を疑っていた様子でしたし仲睦まじい光景を見てキャピュレット家への最大の裏切り行為だと思い、当主に報告したのです。いくらジュリエット様にも仕えているとはいえ雇い主はキャピュレット家の当主ですから。 それからジュリエット様の遺体の傍に毒薬の瓶が落ちていました。 もう一つご報告があります。モンタギュー家でもロミオ様を暗殺しようとする動きがございます」
報告を終え毒薬の瓶をロミオに渡し、次の命令を待った。 ロミオはしばらく毒薬の瓶を眺めていたが間者にジュリエット姫の遺体を安全な場所に運び、誰にも触れさせぬ様にする事としばらく一人になりたいから呼ぶまで下がってくれと頼んだ。
間者はロミオの心中を察し「かしこまりました、我が主」と言って消えた 。
間者の気配が消えたのを確認した後、ロミオは毒薬の瓶を眺め抑えていた哀しみが溢れ雫が零れた。
「ジュリエット姫…貴女自身と美しい月に生涯を掛けて守ると約束したのに違えてしまって済まない…。貴女が宿敵の娘だと知りながら一目で恋に落ち罪を背負ってでも貴女が欲しいと望んだ。 貴女に僕の気持ちを打ち明けた時、受け入れてくれた事が嬉しかった…。ジュリエット…貴女を守れなかった僕が言う資格など無いかもしれないがどうか言わせてくれ。 ……初めて逢った日からずっと貴女だけを愛している。そしてもう一つ謝らせてくれ…僕からジュリエットを奪った人間を一人残らず始末する。だから一緒に天国には行けないんだ、済まない」
覚悟を決めたロミオは間者を呼び寄せた。
「我が主、お呼びでしょうか?」
「これからジュリエットを奪った人間を一人残らず始末する。だがその前にジュリエットの葬式をするから花畑に連れて来てくれ」
「ロミオ様ならばそうなさると思っておりましたのでお連れしました」
そうしてジュリエットの遺体を地面に埋めて2人だけで葬式を行った。 ロミオは完全にジュリエットを埋める前に大事にしていた仮面を取り出しそっと置いた。
「優しいロミオは今、ジュリエットと共に死んだ。これから僕がする事は貴女を悲しませるかもしれない……憎まれるかもしれない。だがそれでもジュリエットを殺したキャピュレット家の人間を許す事は出来ない。僕と出逢ってくれてありがとう。貴女に愛して貰えて幸せだ。 …だからどうか安らかに眠ってくれ。 愛しているジュリエット」
そう言い残し、完全に埋葬した。 朝を迎える前に間者に命令をした。
「この街に住んでいるキャピュレット家の人間とモンタギュー家の人間に無味無臭の毒薬を盛って殺せ。 バレない様に少しずつ数を減らし最後に当主達を殺る。頼んだぞ」
「承りました、我が主」
間者はそう言って早速準備に取り掛かった。 ロミオは何も無かった様に無表情で屋敷の自室に戻った。計画を悟られない様にいつもの優しいロミオを演じ続けて。
そしてモンタギュー家とキャピュレット家の人間が少しずつ殺されているという噂が静かに街で囁かれていた。それを知った両家で働く使用人達はこのままそこで働いていたら自分も殺されるかもしれないという恐怖を感じ次々と辞めていった。 最後に残ったのは当主と奥方、それに侍女長だけだった。だが当主は何かを察して観念したのか静かに奥方と侍女長に言った。
「身内が次々と亡くなった時からこうなる事は薄々感じていた…モンタギュー家の人間と恋仲になったと知り家の恥だとジュリエットを殺したあの日から。」
「そうですわね、あの子を始末した日からずっと私は罰が下る日に怯えながら過ごしておりましたわ。もうキャピュレット家の権力など地に堕ちたも同然…モンタギュー家も同じく。ジュリエットの死を知ったロミオ モンタギューは二大貴族の争いを憎み全てを終わらせる為にモンタギュー家とキャピュレット家の人間を全員殺したのね。そして最後は私達…そうよねあなた?」
「ああ、もし此処で私達がこれを飲まなくても彼の間者が私達を始末しに現れるだろう。ならばせめて苦しまずに命を終わらせよう」
「ええ、覚悟はもう出来ておりますわ。最後に一つ良いかしら?侍女長、キャピュレット家の問題に貴女を巻き込んでしまってごめんなさい」
「いえ、奥様が謝られる事はありません。例えご命令が無くとも私はジュリエット様をこの手で殺していたと思います。宿敵の男と恋仲になったなど許せなかったのですから」
「さぁそろそろおしゃべりを止めて終わらせましょう。全てを」
そうして三人は同時に毒入りのワインを飲みキャピュレット家の歴史に幕を閉じた 。
その頃モンタギュー家では家族揃って夕食を摂っていた。それが最後の晩餐と知らずに…。
「ねぇロミオ?最近浮かない顔をしているけれど何か辛い事でもあったのかしら?」
心配そうにしている母親を鬱陶しく思いつつ何も無いと笑顔で答えた。
当主は世間話をしつつロミオの婚約者が決まった事を告げ、ロミオは当主の長くつまらない話にうんざりしていたが表情に出ない様気をつけ耐えた。
デザートを食べる前に二人は毒入りワインを飲み倒れた。 ロミオはデザートが出る前に退出し侍女長に解雇を告げて自室に戻った。 屋敷に残っていた料理長と侍女長は悟った様に仕事を終えてから全ての荷物を持ちモンタギュー家を去った。
ロミオは短剣を持って神父のいる協会に急いだ 。
神父はロミオのした事を察しながらもロミオが亡くなった後について話し、街が平和でいられる様に尽力してくれると約束してくれた。
ロミオはようやく安心しジュリエットとの思い出の花畑に急いだ。 既にそこには間者が待っていた。
「ロミオ様、お待ちしておりました。無事に終わった様で何よりです」
そう言った間者は今までの事を振り返っているのか長い溜め息をついた。
間者の様子に苦笑しつつロミオは今まで自分に仕えてくれていたお礼を言って最後の命令を伝える。
「今まで傍で仕えてくれてありがとう…これでもうお前は自由だ。だがもしお前が僕の最期の願いを聞いてくれるならばどうかこの街がいつまでも争うこと無く平和でい続けられる様に力を尽くして欲しい」
間者も今までの事を思い出し感慨に耽っていたがこれで自害する主に最初で最後の本音を伝えた。
「貴女に出逢いこれまでお仕え出来た事を誇りに思っております。こちらこそありがとうございました…最後のご命令、しっかりと承りました」
そう言って間者はロミオに深く頭を下げた。 ロミオは懐から短剣を取り出し鞘を抜いた。そしてジュリエットに向けて想いを呟く。
「ジュリエット…ようやく君を死なせた奴らを始末して後を追える。この日をずっと待ち侘びていたよ。だが僕は地獄に落ちる…君への想いを永遠に抱きながら」
そう言ってロミオは躊躇いもせずに自分の心臓を短剣で貫いた。勢い良く血が飛び散り美しい花を染めていった。
主の最期を見届けた間者は複雑な表情で呟いた。
「ロミオ様、ジュリエット様…お二人の愛は生きている限りでは結ばれる事はありませんでした。ですが死してようやくお互いを得られました…冥界を統べる王の慈悲によって。冥界の地ではありますがどうかお幸せに…私がお仕えした最初で最後の人間の主達」
間者の声は花吹雪に消えていった。そしてロミオの最期の願いを実行に移すべく行動を起こした。その結果、何百年もの間その街に住んでいた住人は不幸に落ちる事は無くむしろ生活が豊かになった事で人々に余裕が生まれ笑顔溢れる素晴らしい街になっていた。それを見届けた間者は本来居るべき場所…地獄に消えていった。
一方、ロミオは彼岸花が咲き乱れる場所に突っ立っていた。辺りを見渡し誰も見当たらない為歩いていた。そしてそこに居るはずではないジュリエットの姿を見つけ驚いた。
「ジュリエット…何故君がここに居るんだ?何も罪を犯してはいないはずだ。天国で暮らしていたんじゃなかったのか?」
ジュリエットは覚悟を決めてロミオに願った。
「ロミオ様…貴女が犯した罪、どうか私にも背負わせて下さい」
そう言い切ったジュリエットには迷いの色など一切見られなかった。 それに対しロミオは愛するジュリエットにこれから受けるであろう数々の罰を背負わせる事など出来ないと言ったがジュリエットは頑として譲らなかった。
そこに音を立てずに冥界を統べる王が現れた。
「娘…お前は何の罪も犯してはいない。それなのに自ら地獄に落ち、永遠の苦しみを味わう事を望むのか?なんと愚かな…」
ジュリエットは突然現れた冥界の王に怯む事無く毅然とした態度で告げた。
「誰も愛していない貴方の眼には私のしようとしている事などさぞ愚かで理解できない事でしょうね。ですが私は愛するロミオ様が私の為に罪を犯し、苦しんでいるのを知りながら平気な顔をして幸せに暮らす事など出来ません」
ジュリエットがロミオに示した覚悟を聴き、冥界を統べる王は従者に二人同じ罰を受けさせる様に命じ玉座に戻った。
ロミオとジュリエットは従者がかつて仕えてくれていた間者だったということに気付く事は無かった。
そして二人は同時に地獄の業火に放り込まれたが寄り添い合いながら幸せそうに微笑んでいた。
「ロミオ様…今私は幸せです。地獄の業火に焼かれていようと貴女と共に居られるのですから。現世では決して結ばれる事はありませんでしたが同じ罪を背負い、同じ罰を受けている…共に過ごせる幸せがあるからどんな事でも耐えられます。愛しています…私のロミオ様」
「僕もだ…ジュリエット。これからは本当の意味で永遠に一緒だ…僕のジュリエット」
そうして二人は激しい炎に包まれ、消えていった。
北斗は演じつつ読み終えた台本をじっと見つめロミオとジュリエットはこれで本当に幸せだったのだろうかと考えていた。
そこにいつも通り煩い変態仮面が現れた。
「今日も宇宙に愛の囁きを…あなたの日々樹渉です☆」
変態仮面の決まり文句を鬱陶しく思いつつ北斗は何時から居たかを聞いた。
「おやまぁ気づいてなかったんですか?ずっと部室に居ましたよ北斗君が来る前から」
そう言って笑っていた変態仮面に苛つきながら北斗は演技について聞いてみた。
「部長…今のロミオの演技はどうでしたか?」
日々樹は考えるフリをしてにっこり笑ってまだまだだと言った。
「以前よりかはマシになりましたがまだロミオの激情が露になる部分の迫力が足りません。まだまだ練習を重ねていかないといけませんね?…余り時間がありませんので私が徹底的に指導して差し上げましょう。覚悟を決めて下さい?北斗君」
変態仮面の予告でこれから地獄の演技指導が行われると知って北斗は溜め息を零しつつ青ざめた。 そして変態仮面は静かに告げる。
…ロミオとジュリエットが辿ったこの結末も一つの愛の形なのだとー。
コメント
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うわあ、第1話からすごく重くて切ないお話でしたね…「哀しみの毒」っていうタイトルがもう、ずしんと心に響きました。ロミオが愛するジュリエットを失って、復讐の道を選ぶところ、すごく苦しかったです。特に最後に地獄の業火の中で二人が寄り添って微笑むシーンが、悲しいのに美しくて…涙が出そうになりました。北斗くんの演技練習っていう現実パートとの対比も効いてて、物語の中に入り込んでしまいました。続きが気になります🌙