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えっと……すごく、苦しくて、温かいお話でしたね。特に図書室でライが百年前を思い出すシーン、あの夕焼けと病室が重なる描写に息が詰まりました。マナが「ライ見てると苦しくなる」って言うところ、魂がちゃんと覚えてるんだなって思えて……最後の夢の温度、まだ手に残ってる感じが伝わってきました。続き、気になりますね🤍
「……で、聞いてる? ライ」
「聞いてる」
「絶対聞いてないじゃん」
昼休みの教室。
机を向かい合わせにして弁当を食べながら、緋八マナはむっと頬を膨らませた。
ライはそんな顔を見て、少しだけ口元を緩める。
「聞いてる。購買の焼きそばパン争奪戦に負けた話」
「そう! めっちゃ悔しくない!?」
「毎日やってるじゃん」
「青春だから!」
「意味わかんない」
呆れたように返しながらも、ライの声は柔らかかった。
マナは最近、それに気づき始めていた。
伊波ライは、一見冷たい。
静かで、表情もあまり変わらない。
けれど、自分に向けられる視線だけは妙に優しい。
まるでずっと前から知っているみたいな目をする。
「……ライってさ」
「ん?」
「俺のこと、前から知ってた?」
ぴたり、とライの箸が止まった。
ほんの一瞬だけ。
それから何事もなかったように弁当を閉じる。
「なんで」
「いや、なんか」
マナは頬杖をついた。
「たまにさ、俺見る目が変なんだよね」
「変って」
「懐かしそうっていうか……大事そうっていうか」
その言葉に、ライの心臓が強く鳴った。
百年間、会いたかった。
忘れられなかった。
何度生まれ変わっても、もう一度会いたかった。
そんな感情を隠しきれていなかったのかもしれない。
ライは視線を逸らす。
「気のせい」
「ふーん……?」
納得していない顔。
けれどマナは、それ以上追及しなかった。
放課後。
今日は委員会があるというマナを待つため、ライは図書室にいた。
静かな空間。
ページをめくる音だけが響く。
だがライの視線は、ほとんど本を読めていなかった。
ふと窓の外を見る。
夕焼け。
百年前も、こんな色だった。
病室の窓から見える空を、マナと二人で眺めたことを思い出す。
『退院したらさ』
ベッドの上で、マナが笑っていた。
『海行きたい』
『うん』
『あと、お祭りも』
『うん』
『いっぱいデートしたい』
その夢は、叶わなかった。
病気は思ったより早くマナを奪っていった。
日に日に痩せていく身体。
苦しそうな呼吸。
それでもマナは最後まで笑っていた。
『泣くなよ、ライ』
『……泣いてない』
『嘘つき』
弱った手で、ライの頬を撫でて。
『来世でまた会えるなら、次はいっぱい幸せになろ』
その言葉だけを残して、マナは眠るように息を引き取った。
ライは今でも、あの日の温度を忘れられない。
「ライ!」
突然、図書室の扉が開いた。
息を切らしたマナが顔を出す。
「終わった〜!」
「うるさい」
「図書室だった」
小声で謝りながら、マナはライの隣に座った。
「待たせた?」
「別に」
「ありがと」
そう言って笑う。
その瞬間、ライは少し目を見開いた。
夕焼けが差し込む横顔。
百年前の記憶と重なる。
胸が痛くなるほど、愛しい。
「……マナ」
「ん?」
無意識に名前を呼んでいた。
マナが顔を近づける。
「どした?」
近い。
睫毛まで見える距離。
ライは思わず息を止めた。
するとマナが突然、ライの顔をじっと見つめた。
「……やっぱり」
「?」
「なんか、ライ見てると苦しくなる」
ライの鼓動が跳ねる。
「え」
「嫌とかじゃなくて!」
慌てて手を振るマナ。
「なんだろ……会ったばっかなのに、ずっと前から知ってる気がして」
そう言って、自分の胸元をぎゅっと掴む。
「ここが変になる」
ライは言葉を失った。
思い出しかけている。
少しずつ。
確実に。
その事実が嬉しくて、怖かった。
もし全部思い出したら。
マナは、自分が死んだ記憶まで思い出してしまうのだろうか。
苦しんでいた記憶を。
最後の別れを。
それでも。
それでもライは、知ってほしかった。
自分たちが、どれほど愛し合っていたかを。
帰り道。
空はすっかり暗くなっていた。
「コンビニ寄っていい?」
「ん」
二人で並んで歩く。
マナはアイスコーナーの前で悩み始めた。
「うわ〜どうしよ」
「早くして」
「待って待って、こういうの大事だから」
真剣な顔に、ライは思わず笑ってしまう。
「……ふは」
「え!?」
マナが勢いよく振り返った。
「今笑った!?」
「笑ってない」
「笑ったって!」
「気のせい」
「うわ絶対笑った〜!」
騒ぐマナを見ながら、ライは静かに目を細める。
こんな何気ない時間が、前世では叶わなかった。
だから今は、一秒でも長く隣にいたいと思った。
その夜。
マナはまた夢を見た。
白い病室。
窓辺の椅子に座る青年。
黒髪。
静かな目。
でも今より少し大人びている。
『ライ』
自分が名前を呼ぶ。
すると青年が振り返った。
泣きそうな顔だった。
『……置いてかないで』
その声があまりにも苦しくて、マナの胸が締め付けられる。
夢の中の自分は、弱々しく笑った。
『また会えるよ』
『嫌だ』
『ライ』
『やっと好きになれたのに』
その言葉と同時に、マナの目から涙が零れた。
そこで目が覚める。
「……っは」
呼吸が浅い。
頬が濡れていた。
どうして泣いているのかわからない。
けれど胸の奥が、どうしようもなく痛かった。
そして。
夢の中で自分が握っていた手の温度だけが、妙にリアルに残っていた。