TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

血脈の誓約

一覧ページ

「血脈の誓約」のメインビジュアル

血脈の誓約

9 - 第9章:影喰らいの降誕(Birth of the Shadow-Eater)

2025年11月20日

シェアするシェアする
報告する



空が裂けた。

ひび割れた赤月の向こうから、暗い闇の奔流が世界へと溢れ出す。

その中心に――“それ”はいた。


影喰らいの獣《シャドウイーター》。


夜の王が恐れ、千年前の吸血種たちが総力を挙げて封じた、夜そのものを喰う古代の災厄。


世界が揺れた。

地面に広がる影がざわめき、崩れた城壁の破片が宙に浮き上がる。


リリスはカイラスに抱きとめられたまま、その巨大な影の姿を見つめた。


獣の体は輪郭が定まらず、常に揺れ、渦を巻き、形を変え続けている。

黒い霧の奥で、巨大な瞳だけが赤い光を宿していた。


その瞳が――リリスを見つめる。


呼吸が止まった。


(……呼んでる……?)


耳の奥で、誰かが囁いたような気がした。


――“来い”――


「…………ッ」


身体が勝手に前へ動きそうになり、リリスは震えた。

その瞬間、カイラスが強く腕を回す。


「リリス、離れるな」

「カイラス……あれ……何か……私の中に……」

「感じろ。おまえの血は“鍵”だ。あいつが目覚めたのも、おまえの力のせいじゃない」


カイラスはリリスの額に触れ、視線を鋭く獣に向けた。


「だが、おまえがいるからこそ――封じることもできるはずだ」


その言葉と同時に、影喰らいが咆哮した。


音ではない。

空気を裂き、魂を震わせる“衝撃”だった。


都全体が震え、吸血種たちが悲鳴を上げる。


宴の余韻は完全に吹き飛んだ。

祝祭は終わり、代わりに“永夜の終わり”が始まった。



獣の影が都へ落ちてくる。

黒い波のように押し寄せ、建物を呑み込み、街灯を折り曲げ、人影を覆い隠していく。


「来るぞ――離れろ、リリス!」


カイラスはリリスの手を強く引き、影の波を跳び越える。

しかし、その影は地面に接した瞬間、別の“口”となって二人を噛み砕こうと迫ってきた。


「クソッ……!」


カイラスは牙を剥き、影の口へ飛び込むように拳を叩き込む。

衝撃で影が霧散するが、すぐに別の影が再構築される。


影喰らいは“形”を持たない。

破壊すれば分裂し、斬れば増える。


それは、まるで世界から“夜”だけを切り取って生まれた怪物。


「カイラス! どうすれば……!」

「まだだ……まだリリスが全部の力を使ってない」


その言葉に、リリスの咬痕が赤く光った。


あの日、カイラスに噛まれた跡。

運命を刻み、血で結びついた証。


その咬痕が、獣の怒りに呼応するように熱を帯びる。


「ねぇ……カイラス。影喰らいは……私を狙ってる。どうして?」


「たぶん――おまえの血が“完全じゃない”からだ」

「……完全じゃない?」

「血誓はまだ途中だ。王の影を倒し、契約を深めても……おまえの力はまだ“未開”。本当の赤の巫女になっていない」


影喰らいが再び咆哮する。

建物が一斉に崩れ落ちる。


リリスの身体が震えた。


「じゃあ……私が“完全”になったら……?」

「影喰らいは必ず倒せる」

カイラスは迷いのない目で言った。

「だけど――同時に、おまえの身体はもう人じゃなくなる」


リリスは唇を噛んだ。


人間か。

吸血種か。

それとも、もっと別の存在か。


選ばなければならない。



影喰らいの影が波となり、二人へ迫る。

避け続ける戦いは限界に近い。


リリスは息を整え、決意を固めた。


「カイラス……もう一度……私に噛んで」


カイラスの目が大きく開く。

「リリス……それは……!」

「あなたの血で、私の血を“完全”にして。そうしなきゃ、あれは倒せない」


咬痕が赤く燃える。

二人の血が共鳴し、激しく疼く。


「でも……」

カイラスは苦しげに言葉を漏らす。

「一度の咬み痕なら、ただの契約の証。二度目は――完全な“血誓”になる。おまえの魂は俺のものになる」


「いいよ」

リリスは迷いなく言った。

「もう……あなたなしじゃ、息もできない」


その言葉は、影喰らいの咆哮よりも強烈に、

カイラスの心臓を揺らした。


獣の影が再び迫る。


カイラスはリリスを抱き寄せ、耳元で低く囁いた。


「……本当にいいんだな?」

「うん……カイラスに喰われたい」


その瞬間、彼の瞳から理性の光が消えた。


吸血種の王の牙が現れ、リリスの咬痕へ――深く、ゆっくりと沈んだ。


「――ッ!!」


熱い疼痛が走り、全身が痺れる。

血が混じり、世界が赤と黒の光に弾けた。


影喰らいが苦しげに咆哮する。


空が裂け、赤い光が二人を包んだ。



痛みはすぐに快楽へ変わり、快楽は力へ変わる。

リリスの身体が光に包まれ、肌に赤い紋様が浮かび上がる。


その紋様は、まるで赤い月の裂け目が彼女の中に刻まれたようだった。


リリスが静かに目を開ける。


瞳は――完全に“赤”だった。


カイラスが息を呑む。


「……リリス……」

「大丈夫。あなたの血が……私を“完成”させた」


影喰らいが怯えたように一歩退く。

その反応に、都の吸血種たちがざわついた。


「赤の巫女が……完全に目覚めた……?」

「予言が……現実に……!」

「影喰らいすら恐れる存在……!」


リリスは影喰らいへ歩みだした。


影が彼女に襲いかかるが、近づく前に赤い光が弾き返す。


まるで彼女自身が“闇を焼く炎”になったかのようだった。



リリスは影喰らいの巨大な瞳を見つめた。


「……私を探してたんだね」


獣の影が震える。


――“おまえの血を喰らえば、夜を支配できる”

――“世界を闇で満たせる”


声なき声が、直接脳へ響く。


リリスは静かに首を横へ振った。


「私の血は……カイラスのためにある。あなたにはあげない」


影喰らいが怒号をあげて飛びかかる。

世界が黒く染まり、空間が歪む。


だが、その瞬間――。


「リリス! 行くぞ!!」


カイラスが飛び込み、リリスの手を掴む。

二人の血が共鳴し、赤黒い光が爆ぜた。


影喰らいの体が貫かれ、断末魔が世界中に響き渡る。


リリスは腕を振り、赤い刃を生み出した。

それを影喰らいの中心――“核”へ向けて放つ。


「カイラスと生きる未来を……奪わせない!!」


刃が影喰らいの胸に突き刺さる。

世界が赤と黒に染まり、獣の形が崩れ始めた。



獣の身体が黒い霧となり、夜空へ昇っていく。

赤月の裂け目が閉じ、空が静かに戻っていった。


都に――本当の静寂が訪れた。


リリスは膝から崩れ落ちそうになる。

カイラスが支え、そっと抱き寄せた。


「よくやった……リリス。おまえの血が、この世界を救った」


「ううん……カイラスがいたから……私……」


リリスの瞳が揺れる。

彼女の内側ではまだ、残った力が渦巻いていた。


「ねぇ……カイラス」

「なんだ?」

「私、もう……完全に吸血種になったの?」


カイラスは少しだけ困った顔で微笑んだ。


「いや……違う」

「え……?」

「おまえは“吸血種を超えた存在”だ」

リリスの手を包み、彼ははっきりと告げる。

「おまえは――“永夜の巫女”。俺と、この世界と、未来を繋ぐ唯一の鍵だ」


リリスの胸が高鳴る。


その時、老吸血種が膝をつき、深く頭を下げた。


「新しき夜の王よ……そして、赤の巫女よ。影喰らいの封印は成功しましたが……」


「……まだ何かあるのか?」

カイラスが問い返す。


老吸血種は震える声で告げた。


「影喰らいは――“三つの影”の一つにすぎませぬ」


リリスの背筋が凍る。


老吸血種は続けた。


「残る二つが……もう間もなく……目覚めましょう」


風が吹き、赤月が再び震えた。


カイラスはリリスへ視線を向ける。


「リリス……まだ、終わりじゃないらしい」


リリスはカイラスの手を強く握った。


「うん……一緒に戦おう」


二人の咬痕が赤く輝いた。


その光は、夜空のどんな星よりも強く――二人の未来を照らしていた。




この作品はいかがでしたか?

0

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚