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【彼が焦らしてきた】
夜、彼の部屋。
ソファで並んで映画を観ていたはずなのに、
途中から物語の内容なんて頭に入らなくなっていた。
なぜなら――亮くんが、やたらと距離を詰めてくるから。
指先が髪を軽く触れ、肩に落ちたそれを直すふりをして、頬に近づく。
唇が触れるか触れないかの距離。
息が混ざるほど近いのに――彼は笑って離れる。
「……何、その顔」
意地悪そうに目を細めて、またすぐ近づく。
鼻先が触れそうで触れない。
「ねえ……待つの、嫌い?」
わざと低い声で囁かれ、胸がぎゅっと締め付けられる。
焦らされるほど、余計に欲しくなるのが悔しい。
でも、その笑みと視線に抗えない。
「……亮くん」
名前を呼んだ瞬間、彼の唇がほんの一瞬だけ触れて――すぐに離れた。
「まだ」
その一言が、さらに胸を熱くする。
じれったさで泣きそうになったとき、彼はやっと笑って距離を詰めた。
「じゃあ、もう我慢しなくていいよ」
唇が重なった瞬間、それまでのじれったさが一気に溶けていく。
さっきまで軽く触れるだけだった口づけは、今度は深く、逃げ場を与えない。
背中に回された腕が、私をさらに引き寄せる。
呼吸が追いつかなくなるほど近くて、視界は彼の影でいっぱいになる。
「……やっと、声出してくれた」
唇を離したあとも、額をぴたりと合わせて囁く。
耳の奥まで響く声に、鼓動がまた速くなる。
「我慢してる顔、可愛かったけど……やっぱり俺は、全部欲しい」
その言葉と同時に、再び唇が重なった。
今度は焦らす気なんて微塵もなく、ひたすら甘く、長く。
頭がぼんやりして、名前を呼ぶのもやっとになる。
それを聞いた彼は、嬉しそうに口角を上げた。
「ほら、やっぱり……こうなる」
その夜、焦らされた時間すら愛おしく思えるほど、
彼の腕の中は甘くて熱かった。