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【彼女がキスを焦らしたら】
夕方、彼の部屋。
並んで座っているのに、妙に落ち着かない空気が流れていた。
理由はわかっている。
――今日は、私が意地悪をする番だから。
彼が何か話しかけてきても、返事は短く、でも視線は外さない。
わざと唇に触れるように指先で髪をかき上げたり、
近づいてはふっと離れたり。
「……なに、それ」
とうとう彼が低い声を出す。
その声色が、いつもより少しだけ掠れているのがわかる。
「なにって……?」
小首をかしげて笑うと、彼の視線がじっと唇に落ちた。
距離を詰める――かと思わせて、寸前で離れる。
そのたびに彼の眉間がわずかに寄っていくのが面白くて、
つい何度も繰り返してしまう。
「……焦らしてる?」
その一言に、悪戯がバレたとわかっても、口元は緩んだままだった。
そして次の瞬間、彼が低く笑って私を引き寄せる。
「いい度胸だね。じゃあ、こっちの番」
逃げる暇なんてなく、唇を奪われる。
一瞬で、主導権は彼のものになった。
唇を奪った彼は、離れたと思ったらすぐにまた深く重ねる。
逃げ場を与えないキスに、呼吸が乱れていく。
「さっきまで余裕そうだったのに……もう声、出てるよ」
耳元で囁く声が低く、熱を帯びている。
そのまま首筋にかすかに触れられ、背筋が震えた。
「焦らすって、こういうことだよ」
そう言って、わざと寸前で唇を離す。
でも、次の瞬間にはすぐ近づいて――また離れる。
「ほら、我慢できないだろ?」
片手で顎を軽く持ち上げられ、視線を絡め取られる。
逃げられない距離で見つめられると、心臓が壊れそうになる。
「次は……ちゃんと俺の名前呼んで」
そう告げると同時に、再び熱い口づけが落ちる。
呼吸も、思考も、全部彼のペース。
離れたあと、彼は満足そうに笑った。
「やっぱり、こうしてるほうが似合ってる」
完全に、彼の手の中だった。
キスの余韻で息が上がったままの私を見下ろし、
彼はゆっくりと耳元に顔を近づけた。
「……そんなに赤くなって、どうしたの?」
吐息が耳にかかるたび、背筋がぞくりとする。
「もしかして……さっきの焦らし、まだ忘れてない?」
わざと低く、ゆっくりと囁く声に、心臓が早鐘を打つ。
そのまま、彼の指が顎を軽くなぞる。
「……あのさ」
囁くように続けたかと思えば、口元に小さな笑みを浮かべた。
「もし俺が、他の女の子にこんなふうにしたら……どうする?」
――一瞬で胸がざわめく。
彼の言葉は冗談だとわかっていても、心臓を掴まれたみたいに熱くなる。
黙っていると、彼はすぐに笑みを深めた。
「ほら、顔に出てる。……やっぱり嫉妬してる」
耳元でその言葉を聞いた瞬間、
彼の手が後頭部に添えられ、強く引き寄せられる。
今度のキスは、最初から甘く、深く――そして長い。
息を奪われながらも、離れたくないと思ってしまう。
「大丈夫。……俺がこうするのは、○○ だけだから」
その囁きに、胸のざわめきは甘い熱に変わっていった。
「……やっぱり離せないな」
低く囁いた彼の声は、もう甘さと独占欲が混じっていた。
次の瞬間、腰に回された腕が強く引き寄せ、
そのまま歩かされるようにしてベッドへと運ばれる。
背中が柔らかなシーツに触れた瞬間、
彼がすぐに覆いかぶさってきた。
視界は彼でいっぱいになり、逃げ場はどこにもない。
「さっき嫉妬させたから……ちゃんと埋め合わせする」
その言葉と同時に、頬から首筋、鎖骨へと唇が落ちていく。
声が漏れそうになるたび、耳元で意地悪く囁かれる。
「我慢するなって言ったよね」
指先が髪をそっとかき上げ、視線が絡まる。
その瞳に映っているのは、私だけ。
「……もう今日は、どこにも行かせない」
最後の一言と共に、深い口づけが落とされる。
その夜、彼の腕の中から逃げ出すことは、一度もできなかった。
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