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新人たちが「どうする? 帰っても大丈夫かな?」「でも……先輩たちが二次会行くって話してるのに俺たちだけ抜けるとかあり?」と話しているのを小耳に挟んだ晴永は、彼らが帰りやすいように皆へ声をかける。
「帰りたい奴は自由に帰れー。俺も今日は帰る」
実際は小笹や木嶋、それから日下(!)の同期組がどう動くのか気になっている晴永だったが、なんとなくの流れでそう言わざるを得なくなってしまった。
これで小笹が日下とともに二次会へ参加するとなったら、気になって仕方がないではないか。
なにしろ小笹は酒を飲むのが嫌いじゃない。行かないと答えることはない気がした。
(バカなのか、俺は!)
だが、晴永の言葉にパァッと明るい顔で「じゃあ、俺たちこれで帰ります」とホッとした様子になる新人たちを見て、これも上司としての勤めだと、懸命に自分を宥める。
会計を終えて外へ出てみるとまだみんな店の外にたむろしていた。晴永たち幹事が出てくるのを一応に待ってくれていたらしい。
「よーしみんな揃ったな? 二次会行くやつらはこっちに集まれー。行かないやつはここでお別れだー」
瀬戸部長の声に、「お疲れ様でしたぁー!」と手を振って夜の街へ消えていく者、「行きまーす!」と手を挙げて部長のそばへ寄って行く者。バラバラと人の波がばらけ始める。
晴永はキョロキョロと辺りを見回して瑠璃香を探した。
(いた!)
視線の先、一際背の高い男――日下が目印になって、同期三人で固まっているなかに瑠璃香の姿を見つけた晴永である。
「二次会どうする?」
木嶋がチラチラと日下を気にしながら問えば、
「俺はもうちょっと飲みてぇーかな? もちろん小笹もあんぐれーじゃ全然飲み足んねえだろ?」
日下が、まるで瑠璃香が来ることは必然とでも言いたげな口調で瑠璃香へ問いかけている。
瑠璃香が酒好きなことは晴永だって知っていることだ。同期の日下が知らないはずがなかった。
「日下もああ言ってるし、瑠璃香も来るよね?」
彼女がこなければ日下も帰ると言い始めるかもしれない。そう思ったんだろう。木嶋が縋るような目で瑠璃香を見つめた。
(クソッ。これ、絶対行きます! って流れじゃねぇか)
新人たちがサッサと引き上げてくれていれば、しれっと前言撤回で二次会に混ざろうかと思ったりした晴永だが、どうやら新人たちは晴永が帰るまでは自分達も帰れないと思っているみたいだ。
「課長、タクシー捕まえましょうか」
なんて甲斐甲斐しくそんなことを聞いてくる。
(ああ、俺強制退場の流れじゃねぇか)
そう思いつつ、「いや、俺のことは気にせず帰っていいぞ」と言ってみたのだが――。
「このぐらいやらせてください!」
やけに田貫が張り切っていて、断りづらい。
「あ、ああ、だったら頼む……」
言いながら、心の中で『小笹ぁぁぁ、頼むからお前も行くなぁぁぁ』と未練たらしく叫んでいたりする。
と――。
「……ごめん。今日は私、帰ろっかなって思ってて」
申し訳なさげに同期らへ頭を下げるその声は、あんなに飲んだはずなのに全然酔っている気配はなくて……それより少しだけ疲れているように聞こえた。
(そういやぁ小笹、いつも会社の飲みで乱れてんの、見たことねぇな?)
ザル、なのかもしれない。毎回酔い潰れやしないかと心配になる晴永なのだが、実際瑠璃香がそうなったところを見たことがないことに気がついた。
だからこそ、今まで自分にも瑠璃香を介抱するチャンスが巡って来なかったわけだが――。
(って、重要なのはそこじゃなく!)
今、確かに瑠璃香は〝帰る〟と言わなかっただろうか?
晴永の胸が、わずかにざわめく。
「えー、小笹、帰んの? じゃあ俺、駅まで送るよ」
そんな瑠璃香へ、二次会に行く気満々だったくせに、日下が当然のようにそんなことを言い出す。
(いや、お前は二次会へ行け! 男がコロコロ意見を変えるな!)
さっき、あわよくば自分も意見を翻して〝参加〟にしようと思っていたくせに、晴永はしっかりきっちり自分のことは棚上げして、そんなことを思う。
だがそんな日下の申し出に、瑠璃香はやんわり笑って首を振った。
コメント
1件
可愛いぞ、課長(笑)