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#佐久間担
yuka🌃🪽💎@猫化中
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第五十六章 飲み込んだ言葉
ラウ🤍「それで?あの子は粗相なく?」
蓮 🖤「勿論です」
亮平💚「患者にはちょっと近過ぎます」
ラウ🤍「貴方がたは、翔太に近付き過ぎです」
蓮 🖤「それはどういう意味ですか?看護師長として……それとも」
〝一人の人間としてだ〟
それまで一度も揺れなかった声が、その一言だけ僅かに低くなった。
それまでの凛とした佇まいとは打って変わって、少し余裕のないその言い方に、蓮と亮平は思わず顔を見合わせた。
蓮🖤「そうですか」
一拍。
蓮 🖤「安心しました」
ラウールが少し眉を動かす。
蓮🖤「看護師長としてだけなら、ここまで感情的にはならないでしょうから」
亮平💚「ちょっとやめなさいよ」
蓮を制するように腕を掴んだ亮平は、一瞬でいつものように凛とした姿に戻ったラウールに息を呑んだ。
真っ白なズボンに身を包んだ長い二本の足。長身の二人をも上から見下ろす師長の威圧感。思わず蓮の肩越しに身を寄せた亮平を、ラウールは冷ややかな目付きで一瞥すると、二人を交互に見つめた。
ラウ🤍「……二人、よりを戻したのですか?」
蓮 🖤「答える所以はない」
ラウ🤍「何か勘違いされてるみたいですけど、大事な私の部下を悲しませるようなら……」
蓮 🖤「悲しませた覚えはない。それは今後も変わらないし、彼が笑っている理由くらい、私は分かっていますから」
ラウールの指先がピクリと震えた。次の瞬間には指先は閉じられ、キツく握り締められた拳。静かに怒っているように見てとれた。
ラウ🤍「そうでしょうか?この閉鎖された雪達磨大学附属病院では、何が起こるか予測不能です。その時、貴方方が常に翔太の傍にいられるとは限りません」
亮平💚「誰かが何かするって言ってるの?」
長い睫毛を伏せたラウールは、苦虫を噛み潰したように顔を顰めた。カチカチと秒針の音だけが時の経過を告げた。
ラウ🤍「とにかく、彼が傷付く時……俺は黙っていません」
その顔は最早看護師長ではなかった。
蓮 🖤「ご忠告、ありがとうございます。ですが守るべきはルールではなく、彼の笑顔です。そのためなら私は——」
ラウ🤍「彼の笑顔……ですか。ルールを破ったこと、必ず後悔する時がきます」
静まり返る部屋に、廊下を行き交うスタッフの足音が響いた。
ラウールは二人を見つめる。
そして、
ラウ🤍「……話は変わりますが、阿部先生。教授戦を下りるとか。本当ですか?」
亮平💚「えっ……なぜそれを?」
廊下の向こう側。
コツコツと近付くヒール音。
ラウールは話はこれでおしまいとばかりに、颯爽と部屋を出て行った。その後を追うように、ヒール音が遠ざかって行く。
亮平💚「どういうことだろ?」
蓮 🖤「さぁな……俺たちも仕事に戻るぞ。おい、くっ付くなよ」
亮平💚「より戻したのか?だって♡対外的にもその方が、翔太を守りやすいかもよ?」
蓮 🖤「相変わらず能天気なやつめ」
肩を寄せ合って歩く二人。
パタパタと廊下を走る可愛らしい足音に、二人同時に振り返ると愛くるしい笑顔で駆け寄った雪うさぎは、二人の間に割って入ると、上目遣いで交互に二人を見やった。
翔太💙「それで、わんちゃん見つかったの?いつ会える?」
蓮 🖤「あ?キャンキャンうるさいぞ。さっさと持ち場に戻れ」
亮平💚「今晩、うちにおいで。可愛い子に会わせてあげる」
翔太💙「ヤッタァ//約束だよ?」
亮平💚「勿論。約束する」
またパタパタと可愛らしい音が遠ざかる。
ラウール師長が大きな声で〝翔太!廊下走らないの〟と言うと、遠くで〝ごめんなさぁい〟と叫んだ翔太の声は、弾んで聞こえ、思わず二人はクスッと笑った。
その無邪気な笑顔が、さっきまでの重苦しい空気さえ一瞬で吹き飛ばしてしまうことを、本人だけはまだ知らない。
◇
◇
翔太💙「ごめんなさぁい」
先輩看護師がクスクス笑いながら翔太の横を通り過ぎて行った。軽く会釈し、スカートの裾を整える。窓の外では、蝉の声がけたたましく鳴り響き、本格的な夏を告げている。
じわりと滲む額の汗を拭き取ると、気を取り直してゆっくりと歩を前へと進めた。
曲がり角を曲るところで、胸ポケットのスマホが震えた。
画面に浮かんだ通知を確認する間もなく──
ドン。
翔太💙「いたたっ……す、すみません!」
「ごめんなさい、大丈夫?」
視線に入ったブランド物の高いヒール。綺麗に磨かれた靴。品のある香水の香り。
そして足首で揺れる、見慣れたアンクレット。
ラウ子🤍「あらっゆきちゃん。久しぶりね」
翔太💙「っ……」
反射的に半歩後ろへ下がると、首を傾げながら近づいたラウ子の手が翔太の腕を捉えた。震える指先に気付かれないようにグッと握り拳を作った。
ラウ子🤍「ユキ?……あらっ嫌われちゃった?」
翔太💙「……ゆきじゃない」
ラウ子🤍「あぁ。ここでは翔太くんだったね」
廊下を行き交うスタッフ。ストレッチャーの音。
二人だけが静かな世界に取り残されたみたいに、何も聞こえない。
翔太💙「あの……」
クスッと笑ったラウ子。
翔太が言いたいことを分かっているように、遮った。
ラウ子🤍「大丈夫。まだバレてない。安心して、私に任せておけば全てうまくいくから」
腕を掴んでいた手は、いつしか翔太の手の甲を両手で包みながら撫で、〝翔太の手冷たいね〟なんて向けられた彼女の笑顔は美しく可愛いはずなのに、翔太はその笑顔すらも、怖いと感じた。
翔太を捉えて離さないラウ子の視線に、抗うことができず、呼吸の仕方を忘れてしまったかのように、息を呑んで佇む翔太。
ラウ子🤍「ショウタくん?大丈夫?顔色悪いけど……」
翔太💙「息が……」
深い海へ落ちていくみたいに、息を吸おうとしても胸まで届かない。
ラウ男🤍「ゆっくり吸いなさい。大丈夫だから」
翔太は震える肩を押さえながら、小さく息を吸った。ラウ男は翔太を抱き抱えながら優しく背中をトントンと弾いた。
ラウ子はその様子を少しだけ見つめ、ふっと笑う。
ラウ子🤍「良かった。少し落ち着いたみたい」
翔太💙「……」
ラウ子🤍「じゃあ、仕事の邪魔しちゃ悪いわね」
踵を返しかけたラウ子が、ふと思い出したように振り返る。
ラウ子🤍「あっ、そうだ」
「仕事が終わったら、私の部屋に来て」
翔太💙「……え?」
ラウ子🤍「話があるの」
それだけ言うと、返事を待つこともなくヒールを鳴らして歩き出した。
ラウ男🤍「……行かなくていい」
翔太は小さく笑ってみせた。
翔太💙「……大丈夫。大丈夫」
自分に言い聞かせるように放った言葉。一歩踏み出しかける。
ラウ男🤍「うさぎ」
足が止まる。
ラウ男🤍「今、何を飲み込んだ?」
翔太💙「……え?」
ラウ男🤍「言いかけてやめたね」
沈黙。
翔太はぎゅっと唇を噛み、小さく首を横へ振った。
翔太💙「何でも……ない」
ラウ男はそれ以上追及しなかった。
ただ、翔太の震える指先だけを静かに見つめていた。
ラウ男🤍「迷ったら、僕のところへおいで。クレーンゲームの極意、特別に雪うさぎにだけ教えてあげる」
翔太💙「ふふっ……ありがとう」
恥ずかしそうに後頭部をボリボリと掻きながら、白衣を靡かせて歩く背中は静かに廊下の向こうへ消えていった。
思わず翔太の口元が緩む。
胸ポケットからスマホを取り出す。
📩〝本日二十時出勤 ユキちゃん〟
また、あの場所からだ。
翔太はそっと画面を閉じた。
スマホを胸ポケットへ戻す。
小さく息を吐いて歩き出した。
ペタ……ペタ…………ペタ。
涼太❤️「今日は元気ない?」
翔太💙「えっ」
325号室。
気付けば宮舘さんの部屋の前。
南から吹き込む湿った風が翔太の頰を撫でる。
穏やかなその声に吸い寄せられるように、足は彼のもとへ向かっていた。
コメント
4件

でた。 痔男🤣🤣🤣
うわ、今回は重かったですね……ラウール師長の「怒りを飲み込んだような」雰囲気、そしてラウ子さんの登場で一気に不穏な空気に。翔太くんが「ゆきじゃない」って否定するのに、ラウ子さんが「ここでは」って返すところ、ぞっとしました。ラウ男さんの「今、何を飲み込んだ?」の問いかけがすごく心に残ってます。翔太くんの震えと強がりが切ない…でも最後に涼太さんが優しく声をかけてくれて、少し救われました。花凜さん、続きが気になります!