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芙月みひろ
92
#王子
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――これは、いったい何のバグだ……!?
エンジニアとして、僕は常に論理的(ロジカル)でありたいと思っている。元々、性的な欲求は薄い方だ。20代の頃は嗜む程度にAVを見ることもあったが、30代になってからは、そんな気分になるのは「月一回のシステム更新」よりも稀だったはずなのに。
(なんで今、こんなところで『フル稼働』し始めるんだよ……!)
中学生じゃないんだぞ。しかも今は、部長も役員も揃っている重要なシステム統合に向けた進捗会議の真っ最中だ。
原因のログを辿れば、心当たりは過剰なほどにある。連日、白石さんから提供される精力つく系のメニュー(すっぽん、うなぎ等)と、栄養ドリンク(マムシドリンク)。
さらには、連日の「お家デート」で執拗に施される鼠径部中心のリンパマッサージ。そして最終的に、彼女に文字通り「完食」されてしまうルーチン。
(もはや健康管理の域を超えている。僕は白石さんに、限界を超えて『オーバークロック』されているんじゃ……!)
「どうか、僕を指名しないでくれ。今は『非公開設定』なんだ……」
祈りも虚しく、部長の視線が僕をロックオンした。
「春川。進捗状況、お前の口から皆に説明してやってくれ」
絶望だ。僕はノートPCを「物理的な防壁」として必死に股へ押し当て、ハードウェアの突出を隠蔽しながら立ち上がった。
「ええと……現在のステータスですが……」
常務と涼香が現場をひっかき回したせいで、改修作業は山積み。報告すべきことは山ほどあるのに、意識の半分は下半身のシャットダウンに注がれていた。
(いい加減に鎮まれ……今すぐに! でないと僕の社会的信用がデリートされる!)
ここで僕は、古来より伝わる最終兵器『マザー・イメージ・タクティクス(母さんの顔作戦)』を発動した。僕の母。性格はおおらかで気立てが良いが、見た目は鼻の低い、色黒の小太りのおばちゃんだ。
(……よし母さんの豚鼻。三段どころか四段腹。一気に強制冷却されてきたぞ。母さん、今まで育ててくれてありがとう。今、僕の危機を救っているのは母さんのお陰……!)
安堵した、その瞬間だった。隠蔽工作に使っていたノートPCが、不意に手元から滑り落ちた。
「あっ――」
慌ててそれを押さえ込もうと、膝に力を入れ、前のめりになった拍子。 ――ゴンッ!! 勢いよく、股間を会議室のデスクの角に、真っ向から強打した。
(いっ、ぎ、……あ、あ、あああぁぁ…………!!)
声にならない、断末魔のような悲鳴。脳内で火花が散る。鎮まるどころか、激痛で「瀕死」状態だ。
「春川……!? どうした、急に悶絶して」
「……ううっ、……い、いえ。……諸々の問題が、……『物理解決(クリーンアップ)』しました。……もう、大丈夫です……」
「……? そうか、ならいいが」
僕は涙目で、白石さんの重すぎる愛の恐ろしさを、改めて骨身に(物理的に)刻んだのだった。