「透子。オレから修さん達に伝えていい?」
「ん? 何を?」
「オレたち結婚すること」
「あっ、うん。お願いします」
今日ここに来た目的をまずは実行しないと。
オレがずっとこの店で透子を想い続けていた時間分、見守って来てくれた修さんたちに、一番嬉しい報告を今日は伝えに来たのだから。
「修さん!美咲さんもちょっと時間空いたら話したいことあるんですけど」
「ん?話? 今なら大丈夫だぞ」
「どしたの? 改まって」
そして修さんと美咲さんがオレ達の方に近寄る。
「修さん。美咲さん。オレ達、結婚することになりました」
まさかこんな報告出来るなんて思わなかった。
だけど、二人に誰よりも早く伝えたかった。
「おー!そうかー!」
「よかったねー!」
そして二人がその報告を笑顔でまた受け入れてくれる。
「ありがとう。ホント二人にはいろいろ心配かけちゃって」
「長かったな、樹。ここまで」
「ハイ。ようやくここまで辿り着きました」
唯一オレが透子を好きになる前からずっと相談に乗ってくれてたのが修さんで。
ホントあれからもう何年経ったのだろう。
「でも昔から見て来てるお前がさ。透子ちゃんと出会うまではどうしようもなかったのに、ホントここまで来れるなんて正直思わなかったよ」
そう言って来る修さんの言葉に、正直オレも心の中で大きく頷く。
透子にはどうしようもなかった昔のオレとか実際知られたくなくて。
透子と出会ってからのオレは、明らか好かれるために変わったから。
昔のオレなんて知ったら、きっと透子は幻滅してしまうんじゃないかと思うほど。
「修ちゃん。樹、そんなに昔酷かったの?」
「まぁ。それなりに?(笑)」
「いや・・ ・修さん。勘弁してください」
「ハハッ。こいつ透子ちゃんに昔の過去バラされるのが一番嫌がるからオレにしたら面白くてさ(笑)」
「何? 樹、そんなに昔すごかったの?」
興味津々で聞いて来る透子。
「いや。透子まで勘弁してよ。別に透子知らなくてもいい過去だから」
だけどそんなオレを知られたくなくてつい誤魔化してしまう。
「なんで? 私は樹のすべて知りたいけど。過去も悩んでることもなんだって」
「透子・・・」
なのに、透子はオレの思ってる真反対のことを何気なしに言う。
きっとそれが透子の優しさで、透子の普通で。
きっともっと昔に透子に出会っていたら、きっともっと早くにオレはその優しさに救われて、どうしようもなかったオレにならなくて済んでいたかもしれない。
「いや、でもまぁ・・他の誰か別の女性の話は、あんまり聞きたくないけど・・・」
だけどすぐにそんな可愛いことを呟く声が聞こえてくる。
「えっ、何? 透子、オレの過去にヤキモチ妬いてくれるの?」
だからオレはすぐその気になって透子の気持ちをもっと引き出したくなる。
「ヤキモチっていうか・・なんか、それは別に知りたくないっていうか・・」
透子もそんな風に思ったりしてくれるんだ。
嬉しくてちょっとニヤける。
「なんか嬉しいね。オレの過去に嫉妬してくれるとか。こんな姿見れるなら昔のオレも悪くなかったみたいな?」
「ちょっと!」
「嘘。冗談。大丈夫。透子ほど好きになった人他にいないから」
今まで出会って来た女性の数も経験も、オレにとっては、なんの自慢にもなんの記憶にも残らないようなこと。
その中で出会って来た誰にも心惹かれることもなかったし、心許すこともなかった。
だけど、透子に出会って、それがどれだけ本当に意味のなかったことか、虚しかったことなのかが今になればわかる。
そしてそれと同時に本当に心惹かれて心動かされた人には、オレはこんな簡単にも気持ちが持ってかれて、ずっと夢中になって、こんなにも心が満たされるのだと知った。
「っていうか。ここまで好きになったのは透子ただ一人」
そんな風に思えたのは、透子だけで。
透子以外そんな気持ちになれなくて。
自分が自分じゃなくなるくらいになって。
どうしようもなく心乱されて。
オレにとって、透子だけが特別。
他の女性なんて比べモノにならない特別な存在。