「樹はさ、ホントに誰かを好きになれないヤツだったからさ。正直オレは心配で、どうにかしてやりたかったんだよね。それはこいつの両親だったり家庭環境が関係してるのも知ってたんだけど、そこはオレにもどうしようもなくて」
「唯一昔から知ってくれてる修さんには、ホント全部知られてますからね」
「だから、こいつ救うのはどうすればいいかオレも一時期わからなくてさ。手を焼いてた時に救世主として現れたのが透子ちゃんだったってワケ」
「私?」
「そう。ずっとこいつフラフラしてて、何に対しても誰に対しても真剣になったり夢中になるってことなくてさ。そんな時偶然出会った透子ちゃんがそんなコイツを変えてくれた」
「オレさ、修さんにその当時”いつまでもそんなフラフラせずに、誰かを本気で好きになれ” ”誰かを本気で好きになれば、その人を守りたいと思うようになって、その人のために頑張れる自分になれる”って言われたことあって。でも、オレその時その意味全然わかんなくてさ」
「あ~オレ樹にそんなこと言ってたな」
「そもそも誰かを本気で好きになれなかったし、それが出来ないのにそういう気持ちとかマジでわからなかった」
「お前ずっとそれ愚痴ってたもんな」
「でもさ。それ透子好きになって初めてその意味がわかった。透子の存在で頑張れる自分になれた」
「樹の変わりようホントすごかったよ。好きな女出来たら、こんなに変われるもんなんだなって、はっぱをかけたオレが一番ビックリしてたよ」
自分が変われるなんて思ってなかった。
それほど自分が変われるほど好きになれる相手なんて出会わないと思っていた。
誰かのために頑張るとか想像出来なかった。
だけど、透子に出会ったら一瞬だった。
一瞬でオレの考えが、人生が、価値観がすべてが変わった。
ただ好きでいれるだけで、そんな存在があるだけで、それだけで幸せだと思える。
「透子に出会えたおかげでさ。両親とも初めてちゃんと向き合えた」
きっと透子に出会わなげは一生向き合えなかった。
ただ好きになっただけだったのに、その人は自分にとって支えになってくれる人で救ってくれる人で。
言葉では表せないほどに、オレにとって大切なモノを与えてくれる人。
「うん。それは私も嬉しかった。今までの樹のツラさとかはわかってあげることは出来ないけど、でも今苦しんでることは私にも分けてほしいし、一緒にこれからはちゃんと解決していきたい」
そう。こうやって何よりもオレのことを考えて寄り添ってくれる。
言葉を交わすたび、一緒の時間が増えていくたび、自分にとってどれほど大切な人なのかを実感する。
「ありがと透子。これからはそうする」
だからオレはそのたびに、透子に感謝する。
そしてその感謝の数だけ、また透子への愛しさも大きくなり続ける。
「透子ちゃんがまさかそこの問題も解決しちゃうとはね」
「そう。だから、透子は初めてオレが真剣になれて夢中になれた人。オレにすべての希望を与えてくれた人」
こんな言葉だけではきっとオレの想いはまだまだ伝わらない。
そんな言葉だけで表せないほど、透子はオレにとって大きすぎる存在。
「ホントビックリするほど樹はどんどん変わっていったからさ。透子ちゃんがコイツの運命の相手かもな~ってオレも密かに思ってた」
「修ちゃんそうだったの? そんなの一言も言わなかったのに」
「そりゃ言えないよ。コイツにずっと口止めされてたし。男の一世一代の恋愛をオレも邪魔したくなかったからさ」
「大袈裟だよ修ちゃん(笑)」
いつだってそうやって透子は言うけど、ホントに大袈裟でもなんでもなくて。
オレにとって透子がどれだけの存在なのかが、透子はわかってなさすぎる。
「ねぇ~修さ~ん。透子、いつも大袈裟っていうんだよ。オレが大真面目で真剣な気持ち伝えても、すぐ大袈裟って言って返してくんの」
だから今日はあえてわざとらしく修さんに泣きつくふりをして言ってみる。
「ハハッ。透子ちゃんらしいな」
「いや、だってなんかどれも大袈裟に樹言うからさ~」
「オレはどれも大袈裟なんて感じたことないけど」
「まぁそれだけコイツの愛が重いってことだよ透子ちゃん(笑)」
「そう。そういうこと。これからオレの奧さんになるんだから、そんな重い愛もちゃんと受け取ってもらわなきゃ困る」
透子はどれだけの存在で、どれだけオレに愛されてるのかもっと実感してもらわないと。
オレだけの一方的な想いだけでは、もうさすがにオレも我慢出来そうにないから。
「わかった。これからはちゃんと受け止める」
するとさすがに今回はその想いが伝わったのか、珍しく透子も素直に応える。
「よろしい」
そう伝えたオレの言葉を聞いて、嬉しそうに透子が微笑む。
「樹くん。透子のことよろしくね」
そしてそんなオレたちを見て、美咲さんが伝える。
「はい」
「透子はさ、素直じゃないけど、ホントはすごくいろいろ考えてる子でさ。なんでも自分一人で頑張っちゃって、時には無理しちゃうことあるから、ちゃんと樹くん支えてやってね」
「はい」
「ホントはすごく愛情深い子だから、素直にならなくても、うーんと愛してやって」
「はい。もちろん。喜んで愛しまくります」
透子にとって美咲さんはきっとなんでも言い合える関係で、きっとオレの知らないところで、ずっと支えてくれた人。
そしてきっと誰より透子の幸せを願ってる人。
オレが片想いしていた時、そんな透子が相手だから、美咲さんは最初オレのことは賛成してくれなかった。
美咲さんは今までのどうしようもないオレを修さんと同じように見て来た人だったから。
そりゃ大事な親友をそんな男に渡したくないと思うのは当然。
きっとオレでも同じ立場ならそうしてると思う。
だけど、実際透子を好きになって、少しずつ変わって行くオレを見て、美咲さんは少しずつオレを受け入れてくれるようになって。
今になってやっと美咲さんからもこうやって嬉しい言葉をもらえるようになった。
今まで誰かの目を気にするとか、好かれたいだとか思うことなんてなかったけど。
透子と出会って、透子だけじゃなく、透子が大切だと思ってる人にも好かれたいって思った。
透子が大切に思っている美咲さんにも、いつか心からオレを認めてもらえて祝福してほしいと、願っていた。
そんな目の見えない大切なモノを、透子と出会えたことで数えきれないくらい透子からもらえてる。
「でもよかった。今の樹くんなら誰より透子幸せにしてくれそうだから私も安心して任せられる」
「それは自信持って約束します。透子幸せに出来るのは世界中でオレだけなんで」
美咲さんからの今までで一番嬉しい言葉。
その言葉にオレも堂々と伝える。
透子を幸せに出来るのは世界中でオレだけしかいないし。
オレが幸せになれるのも透子しかいない。
透子に出会うまで、こんな簡単に”幸せ”だなんて言葉、口にしなかった。
いや、言いたくても言えなかった。
今までそんな気持ち感じたことがなかったから。
オレにとっての幸せは何かもわからなかった。
だけど透子と出会ってから、オレはこんなにも自分の中で当たり前のように、とめどなく溢れて来る幸せという感情が存在してるのを知った。
透子をこの店で見かけ始めて、ずっと透子を想い続けていたあの頃のオレに今伝えてやりたい。
今はそんな風にただ見つめてるだけの遠い存在だけど。
お前が死ぬほど頑張れば、その人との幸せな未来が待っているんだぞって。
こんなにも想い焦がれた人が、いつか自分のモノになって、一生隣にいてくれるようになるんだと。
その時にようやくきっと本当の幸せというモノがわかるのだと・・・。
この店から繋がった透子との出会いは、これからは二人で作っていく幸せな未来へと続いていく。
きっとずっと今より幸せな未来に・・・。
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