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#timelesz
いちごみるく
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#菊池風磨
いちごみるく
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#紅一点
いちごみるく
1,365
1,910
朝。
カーテンの隙間から光が差し込んで、部屋が少しずつ明るくなる。
〇〇「……ん」
ゆっくり目を開ける。
まだぼんやりした頭のまま、天井を見上げる。
〇〇「……え、ここどこ」
一拍。
〇〇「……あ、家か」
思い出して、少しだけ体を起こす。
バスローブのまま。
〇〇「……ん?」
自分の格好に気づいて、首をかしげる。
〇〇「なんでバスローブ……」
ゆっくり視線を横に向けると、北斗がまだ少し寝ている。
腕を額に乗せたまま、静かに呼吸してる。
〇〇「……」
数秒見つめる。
〇〇「……あれ」
記憶が曖昧に繋がっていく。
外食、帰宅、お風呂、眠気——
〇〇「……やば」
小さく呟く。
その時、北斗がゆっくり目を開ける。
北斗「……起きたか」
〇〇「……おはよ」
北斗「おはよ」
声がまだ少し低い。
〇〇「私さ」
北斗「ん」
〇〇「お風呂で寝た?」
北斗「寝た」
即答。
〇〇「……最悪」
北斗「ほんとそれな」
淡々と返す。
〇〇「え、どうやって出たの」
北斗「出した」
〇〇「……」
北斗「覚えてねぇだろ」
〇〇「うん」
即答。
北斗「だと思った」
少し間。
〇〇「バスローブも?」
北斗「着せた」
〇〇「……」
北斗「あといろいろ」
〇〇「いろいろって何」
北斗「気にすんな」
〇〇「気になるんだけど」
北斗「気にすんな」
軽く流される。
〇〇はそのまま布団に沈む。
〇〇「……終わった」
北斗「お前がな」
〇〇「怒ってる?」
北斗「呆れてる」
即答。
でも少しだけ口元はゆるい。
〇〇「ごめん」
北斗「次は風呂で寝るな」
〇〇「努力する」
北斗「努力の問題じゃねぇ」
少しだけ沈黙。
朝の光の中で、空気は静か。
〇〇「……でも」
北斗「ん」
〇〇「楽しかった」
北斗「……」
一瞬止まる。
北斗「……それはよかったな」
短く返す。
〇〇は小さく笑う。
まだ少しぼんやりしたまま、
でもちゃんといつもの朝に戻っていく。
北斗は横で天井を見ながら、
小さく息を吐いた。
北斗「……ほんと調子狂う」
そう言いながらも、
その声はもう昨日より少し柔らかかった。
〇〇「……」
一瞬フリーズ。
〇〇「……え」
自分の格好を見る。
バスローブ。
〇〇「……え、ちょっと待って」
記憶をたどる。
お風呂、眠気、そのまま——
〇〇「……え」
顔が固まる。
〇〇「私さ」
北斗「ん」
〇〇「お風呂で寝たんだよね」
北斗「言っただろ」
〇〇「その時さ」
北斗「ん」
〇〇「……何も着てなかったよね」
一瞬の沈黙。
北斗「……」
北斗は少しだけ目を閉じる。
北斗「……まぁな」
〇〇「……」
〇〇「え、じゃあさ」
〇〇「バスローブ……」
北斗「着せた」
即答。
〇〇「……」
完全に固まる。
〇〇「……終わった」
北斗「だから言っただろ」
〇〇「いや聞いてない」
〇〇「え、ちょっと待って無理なんだけど」
布団をかぶる。
〇〇「無理無理無理」
北斗「落ち着け」
〇〇「無理!!」
北斗「見てねぇって」
〇〇「絶対見てるでしょ!」
北斗「見てねぇ」
〇〇「嘘!」
北斗「ほんとに見てねぇ」
少し強めに言う。
〇〇「……ほんとに?」
北斗「……必要なことしかしてない」
〇〇「必要なことって何」
北斗「風呂から出して、バスローブ着せて、寝かせた」
〇〇「……」
北斗「それだけ」
〇〇「……」
少しだけ静かになる。
でも顔は真っ赤。
〇〇「……ごめん」
北斗「謝るとこそこじゃねぇ」
〇〇「え、じゃあどこ」
北斗「風呂で寝たとこ」
〇〇「それはほんとにごめん」
北斗「だろうな」
少し間。
〇〇「……ほんとに見てない?」
北斗「……」
一瞬だけ間ができる。
北斗「見てねぇって言ってんだろ」
〇〇「……」
まだ疑ってる顔。
北斗「お前さ」
〇〇「ん」
北斗「こっちの気持ちも考えろ」
〇〇「……」
その一言で、少しだけ空気が変わる。
〇〇「……ごめん」
今度は少し小さい声。
北斗「……次から気をつけろ」
〇〇「うん」
少し沈黙。
でも、
〇〇はまだ布団にくるまったまま、
顔だけ出して北斗を見る。
〇〇「……ほんとにありがと」
北斗「……別に」
そっけない返事。
〇〇「……まじか」
布団の中で固まったまま動かない。
〇〇「……え、ほんとに?」
小さく呟く。
頭の中で状況を何回も整理しようとするけど、全然追いつかない。
〇〇「……いや無理」
布団をさらに引き上げる。
〇〇「無理無理無理」
北斗「だから落ち着けって」
〇〇「無理だって!」
北斗「うるせぇな朝から」
〇〇「だってさ!」
布団の中から顔だけ出す。
〇〇「普通に考えて無理じゃない?」
北斗「普通に考えて風呂で寝る方が無理だろ」
〇〇「それはそうなんだけど!」
北斗「だろ」
〇〇「でもさ!」
〇〇「その後が問題じゃん!」
北斗「問題起こしたのお前だからな」
〇〇「うわ最悪」
また布団に潜る。
〇〇「……ほんとやだ」
北斗「何が」
〇〇「全部」
北斗「大げさ」
〇〇「大げさじゃない!」
〇〇「記憶ないのに全部知られてるのやばい」
北斗「知られてねぇよ」
〇〇「いや知られてるでしょ!」
北斗「だから見てねぇって」
〇〇「でも状況的にアウトじゃん!」
北斗「アウトにしたのお前」
〇〇「うわあああ」
小さくうずくまる。
しばらくそのまま動かない。
北斗「……」
その様子を見て、少しだけため息。
北斗「……もういいだろ」
〇〇「よくない」
即答。
北斗「何がそんな無理なんだよ」
〇〇「全部だって」
〇〇「なんかもう顔見れない」
北斗「見てるだろ普通に」
〇〇「それは今だけ」
北斗「意味わかんねぇ」
〇〇「だってさ!」
〇〇「昨日まで普通だったのに!」
北斗「昨日も普通じゃねぇだろ」
〇〇「それはそう」
一瞬で認める。
北斗「だろ」
〇〇「でも無理なものは無理」
また布団に顔をうずめる。
〇〇「……はぁ」
深いため息。
〇〇「ほんとやらかした」
北斗「自覚あるだけマシ」
〇〇「慰めてる?」
北斗「してねぇ」
〇〇「冷た」
北斗「通常運転」
少しだけ間。
〇〇はまだ布団にくるまったまま。
全然切り替えられない。
北斗はそれを見ながら、小さく息を吐く。
北斗「……」
少しだけ声のトーンが落ちる。
北斗「別に変わんねぇよ」
〇〇「……え」
北斗「昨日と」
〇〇「……」
〇〇は少しだけ顔を上げる。
北斗はもう天井見てる。
〇〇「……」
完全には納得してないけど、
少しだけ空気が落ち着く。
それでも——
〇〇「……やっぱ無理」
また布団に戻る。
北斗「しつこい」
でもそのやり取りは、
どこか少しだけいつも通りに戻り始めていた。
スマホが震える。
〇〇「……ん」
布団の中から手だけ出して画面を見る。
〇〇「マネだ」
北斗「出ろよ」
〇〇「この状態で?」
北斗「知らねぇよ」
〇〇「……出る」
観念して通話ボタンを押す。
〇〇「もしもし」
マネ『おはよう、起きてた?』
〇〇「起きてる」
マネ『よかった、急ぎで話ある』
〇〇「なに?」
マネ『大きい仕事決まった』
〇〇「……え」
一気に声のトーンが変わる。
〇〇「なに?」
マネ『CanCam』
一瞬、時間が止まる。
〇〇「……え」
マネ『姫野〇〇SP、独占インタビュー』
〇〇「……は?」
マネ『表紙+巻頭特集』
〇〇「……」
言葉が出ない。
マネ『しかもロングインタビュー、私物、オフショット込み』
〇〇「……ちょっと待って」
布団を少し下げて、ちゃんと起き上がる。
〇〇「それほんと?」
マネ『ほんと』
〇〇「……」
マネ『前から何度も出てるけど、今回は完全に“〇〇単独”』
〇〇「……」
マネ『小さい頃から好きだったでしょ』
〇〇「……うん」
声が少しだけ小さくなる。
マネ『だから一番いいタイミングで来たと思う』
〇〇「……」
マネ『今日中に打ち合わせ入れる』
〇〇「わかった」
マネ『あとビジュアルもかなり作り込む』
〇〇「うん」
マネ『準備できる?』
〇〇「できる」
即答。
マネ『よし、また連絡する』
通話が切れる。
——
静か。
〇〇はスマホを見たまま動かない。
北斗「……なんだって」
〇〇「……CanCam」
北斗「……」
〇〇「SPで独占」
北斗「……」
〇〇「表紙と巻頭」
北斗「すげぇじゃん」
〇〇「……」
まだ現実味がない。
〇〇「……やば」
ぽつり。
〇〇「やばい」
もう一度。
北斗「やばいな」
〇〇「うん」
ゆっくり顔を上げる。
さっきまで布団にくるまってたのが嘘みたいに、目が覚めてる。
〇〇「……頑張る」
北斗「頑張れ」
短く返す。
〇〇は少しだけ息を吸う。
〇〇「……やばい」
でも今度は、さっきとは違う意味。
緊張と嬉しさが混ざった顔。
さっきまでの“無理”は、
一瞬でどこかに消えていた。
〇〇はスマホをぎゅっと握る。
〇〇「……よし」
さっきまでの混乱した顔が、すっと変わる。
〇〇「切り替えた」
北斗「早いな」
〇〇「仕事だから」
即答。
ベッドから立ち上がる。
さっきまで布団にくるまってたのが嘘みたいに、動きが軽い。
〇〇「CanCamだよ?」
北斗「聞いた」
〇〇「しかもSPで独占」
北斗「すげぇな」
〇〇「これはやばい」
北斗「顔がもう仕事の顔だな」
〇〇「当たり前」
鏡の方へ向かう。
髪を軽く整えながら、
〇〇「ビジュどうしよ」
〇〇「テーマも大事だし」
〇〇「インタビュー内容もちゃんと考えないと」
一気に思考が回り始める。
北斗「さっきまで“無理”って言ってたやつどこいった」
〇〇「知らない」
即答。
北斗「都合いいな」
〇〇「いいの」
振り返って笑う。
〇〇「仕事は別」
北斗「はいはい」
少し呆れながらも、どこか安心した顔。
〇〇は深呼吸する。
〇〇「……小さい頃から読んでたの」
北斗「知ってる」
〇〇「その中で特集組まれるとか普通に夢」
北斗「だろうな」
〇〇「絶対いいのにする」
目が真っ直ぐになる。
北斗「するだろ」
〇〇「する」
迷いなく言う。
さっきまでの空気は完全に消えて、
代わりに“仕事モード”の〇〇がそこにいる。
〇〇「今日打ち合わせでしょ」
〇〇「準備する」
北斗「朝飯は?」
〇〇「あとで」
北斗「食えよちゃんと」
〇〇「食べるって」
もう頭は完全に次の仕事へ。
北斗はその様子を見て、小さく息を吐く。
北斗「……ほんとすげぇな」
〇〇「なにが」
北斗「切り替え」
〇〇「普通」
北斗「普通じゃねぇよ」
でもその声は少しだけ柔らかい。
〇〇はそのまま動き出す。
さっきまでの夜の出来事も、
恥ずかしさも、
全部一旦置いて、
前だけを見る。
その姿は、完全に“仕事の〇〇”だった。
ーーーーーーーーー
北斗side
20:00。
楽屋。
仕事終わりの空気で、少しだけ気が抜けてる時間。
慎太郎「はぁー疲れた」
ジェシー「今日長かったね〜」
高地「おつかれ」
樹「水ある?」
きょも「あるよ」
いつものやり取り。
北斗はソファに座って、軽くスマホを見てる。
慎太郎「北斗今日静かじゃね?」
北斗「いつもだろ」
ジェシー「いや今日はちょっと違う」
北斗「気のせい」
樹「気のせいじゃねぇな」
チラッと北斗を見る。
北斗「なんだよ」
樹「いや別に」
きょも「……」
きょもは少しだけ様子を見てる。
高地「そういえばさ」
慎太郎「ん?」
高地「〇〇、今日打ち合わせって言ってなかった?」
ジェシー「あー言ってたね」
樹「CanCamのやつだろ」
慎太郎「やばくない?」
ジェシー「SPでしょ?」
きょも「すごいよね普通に」
北斗「……」
無言で聞いてる。
樹「小さい頃から読んでたって言ってたしな」
慎太郎「絶対気合い入ってるじゃん」
ジェシー「もうバチバチでしょ」
高地「楽しみだね」
きょも「うん」
少しだけ柔らかく笑う。
その中で、
北斗はスマホを閉じる。
北斗「……まぁ」
慎太郎「ん?」
北斗「やるだろ、あいつは」
樹「出た」
ジェシー「信頼〜」
慎太郎「好きじゃん」
北斗「違う」
即答。
でも否定が早すぎる。
きょも「……ふふ」
小さく笑う。
高地「でもほんとすごいよね」
樹「タイミングもいいしな」
慎太郎「絶対バズる」
ジェシー「表紙楽しみ〜」
きょも「うん」
少し間。
北斗は何も言わずに、軽く背もたれに寄りかかる。
頭の中に浮かぶのは、
昨日の夜と、今朝の顔。
北斗「……」
小さく息を吐く。
慎太郎「何その顔」
北斗「なんでもねぇ」
樹「絶対なんかある」
北斗「ねぇよ」
ジェシー「怪しい〜」
高地「まぁまぁ」
きょもはそのやり取りを見ながら、
少しだけ視線を逸らす。
きょも「……忙しくなりそうだね、〇〇」
誰にともなく言う。
北斗「……だろうな」
短く返す。
楽屋はいつも通りの空気。
でもその中で、
北斗だけがほんの少しだけ、
昨日と今日のことを引きずっていた。
慎太郎「……北斗」
北斗「ん」
慎太郎「なんかあった?」
北斗「別に」
慎太郎「いや絶対あるじゃん」
北斗「ねぇよ」
慎太郎「ある顔してる」
北斗「お前ら今日そればっかだな」
軽く流そうとする。
でも慎太郎は引かない。
慎太郎「昨日の夜だろ」
北斗「……」
一瞬止まる。
樹「お、来た」
ジェシー「なになに〜?」
高地「無理に聞かなくていいよ?」
きょも「……」
静かに様子を見る。
慎太郎「話せるやつ?」
北斗「……」
少しだけ迷う。
言いたくない。
でも——
北斗「……はぁ」
ため息。
北斗「別に大したことじゃねぇよ」
慎太郎「じゃあ言えるじゃん」
北斗「言えなくはねぇけど」
もう一度間。
北斗「……昨日さ」
全員ちょっとだけ前のめりになる。
北斗「〇〇、風呂で寝た」
慎太郎「は?」
ジェシー「え!?」
樹「またかよ」
高地「危ないじゃん」
きょも「……」
北斗「で、起きねぇから」
北斗「出した」
慎太郎「……」
ジェシー「……」
樹「……」
一瞬の静寂。
慎太郎「それは……」
ジェシー「……やばくない?」
樹「状況的にアウトだろ」
高地「北斗大変だったね……」
きょも「……」
北斗「だから言いたくなかったんだよ」
小さくぼやく。
慎太郎「いやそりゃそうなるって」
ジェシー「え、どうやって!?」
北斗「普通にだよ」
樹「普通とは」
北斗「タオル巻いて出して、寝かせた」
慎太郎「……」
ジェシー「……えぐ」
高地「大丈夫だった?」
北斗「何が」
高地「いろいろ」
北斗「……知らねぇ」
少しだけ視線を逸らす。
樹「いやそれさ」
樹「逆にすごくね」
北斗「何が」
樹「理性」
ジェシー「確かに」
慎太郎「普通無理じゃね?」
北斗「うるせぇ」
即答。
でも否定しきれてない。
きょもが小さく笑う。
きょも「……北斗らしい」
北斗「何がだよ」
きょも「ちゃんとやるとこ」
北斗「やらねぇと危ねぇだろ」
真顔。
慎太郎「でもさ」
北斗「ん」
慎太郎「それで今日その顔なんだ」
北斗「……別に」
ジェシー「いやなるって」
樹「そりゃなるわ」
高地「うん……」
きょも「……」
きょもは少しだけ視線を落とす。
慎太郎「〇〇は?」
北斗「何も覚えてねぇ」
ジェシー「それ一番きつい」
樹「お前だけ背負ってんじゃん」
北斗「……」
小さく息を吐く。
北斗「ほんとそれ」
慎太郎「大変だな」
北斗「ほんとだよ」
軽く笑う。
でもどこか力の抜けた笑い。
樹「まぁでも」
北斗「ん」
樹「それでもお前やるんだろ」
北斗「……何を」
樹「世話」
北斗「……」
一瞬だけ間。
北斗「……当たり前だろ」
さらっと言う。
その一言に、
全員少しだけ黙る。
きょもが小さく笑う。
きょも「……だよね」
楽屋の空気はまた少しだけ動き出す。
でもその中で、
北斗の中だけはまだ少しだけ、
昨日の夜が残っていた。
楽屋を出る。
樹「飯どうする?」
ジェシー「行く行く〜!」
慎太郎「腹減ったー」
高地「軽めにね」
きょも「うん」
いつもの流れで、みんなでエレベーターへ向かう。
北斗も後ろからついていく。
樹「北斗も来る?」
北斗「行く」
短く返す。
エレベーターの前。
ボタンを押して、少し待つ時間。
ジェシー「今日ほんと疲れた〜」
慎太郎「それな」
高地「明日も早いよ」
きょも「がんばろ」
チン、と音がしてドアが開く。
みんなで乗り込む。
狭い空間にいつもの空気。
慎太郎「でさっきの続きなんだけどさ」
ジェシー「風呂の話?」
北斗「蒸し返すな」
樹「いや普通に気になるだろ」
笑いが起きる。
エレベーターがゆっくり動き出す。
その時——
ふと、北斗の視線が外に流れる。
開いたままの廊下の奥。
人気の少ないエリア。
北斗「……」
一瞬、目が止まる。
そこに、
見慣れた後ろ姿。
〇〇。
北斗「……」
隣にもう一人。
男。
少し距離は近い。
何か話してる。
〇〇は仕事の顔で、ちゃんと向き合ってる。
北斗の中で一瞬だけ音が消える。
慎太郎「北斗?」
ジェシー「どうした?」
北斗「……」
何も言わない。
でも視線は一瞬だけ動かない。
樹もその違和感に気づく。
樹「……何見てんの」
北斗「……別に」
短く返す。
その瞬間、エレベーターのドアが閉まり始める。
最後の一瞬。
もう一度だけ視界に入る。
〇〇と、その男。
距離。
空気。
表情。
全部一瞬で焼き付く。
チン。
ドアが完全に閉まる。
中はまた、いつもの空気に戻る。
慎太郎「なんだったの」
北斗「……なんでもねぇ」
少しだけ声が低い。
ジェシー「絶対なんかあったじゃん」
北斗「気のせい」
樹「いや今のは違うだろ」
きょも「……」
きょもは何も言わずに、少しだけ北斗を見る。
高地も空気を感じ取る。
でも誰も深くは突っ込まない。
エレベーターはそのまま下へ。
北斗は前を見たまま。
頭の中には、
さっきの光景だけが残っている。
何も言わないまま、
ただ静かに、次の階へと降りていった。
エレベーターを降りる。
ロビーは少し人が減っていて、夜の落ち着いた空気。
樹「ここで待つ?」
ジェシー「あ、ちょっとマネに呼ばれた」
慎太郎「今?」
ジェシー「すぐ戻るって」
高地「じゃあここで待とうか」
きょも「うん」
みんなその場に残る。
北斗は少しだけ離れた位置に立つ。
さっきの光景が、まだ頭に残ってる。
北斗「……」
無意識に視線が動く。
エレベーターの方。
チン、と音がする。
ドアが開く。
そして——
降りてくる人影。
〇〇。
その隣に、
さっき見た男。
北斗「……」
一瞬で空気が変わる。
慎太郎「あ」
ジェシーはいない。
樹と高地も気づく。
きょもは静かに視線を向ける。
〇〇はまだ気づいてない。
男と何か話しながら歩いてる。
距離は近い。
仕事の空気ではあるけど、
自然に並んでる感じ。
北斗「……」
無言。
胸の奥が少しざわつく。
理由ははっきりしないのに、
はっきりしすぎてる感じ。
樹「……」
一瞬だけ北斗を見る。
何も言わない。
〇〇がふと顔を上げる。
そして気づく。
〇〇「……あ」
足が少し止まる。
〇〇「北斗」
名前を呼ぶ。
その声はいつも通り。
北斗「……」
少しだけ間。
北斗「おつかれ」
短く返す。
視線は一瞬だけ〇〇に向いて、
すぐ隣の男に流れる。
〇〇「おつかれ」
何も気にしてない様子。
〇〇「まだいたんだ」
樹「ちょっと待ってる」
高地「ジェシーがね」
きょも「おつかれ」
〇〇「おつかれ」
自然に会話に入る。
その横で、
北斗は何も言わない。
ただ、
さっき見た距離と今の距離を、
無意識に比べてしまう。
北斗「……」
小さく息を吐く。
でも誰にも聞こえないくらい小さい。
空気は普通。
でも北斗の中だけが、
少しだけ、いつもと違っていた。
男が少し離れて電話をしている。
〇〇「……」
その横で、〇〇は軽く待っているだけ。
北斗たちの視線も、なんとなくそっちに向く。
慎太郎「……誰だろ」
樹「関係者っぽいけどな」
高地「帽子深いね」
きょも「……」
北斗は無言で見ている。
さっきのモヤモヤがまだ消えてない。
その時——
男が「はい、ありがとうございます」と電話を切る。
スマホをポケットに入れて、顔を上げる。
キャップのつばが少し上がる。
その瞬間。
慎太郎「……え」
ジェシー(戻ってきた)「え、ちょっと待って」
樹「は?」
高地「……え?」
きょも「……」
全員、一瞬固まる。
北斗も、目を見開く。
そこにいたのは、
平野紫耀。
ジェシー「え!?しょ、しょう!?」
慎太郎「まじ!?」
樹「え、久しぶりすぎるだろ!」
高地「うわ……!」
きょも「……久しぶり」
一気に空気が変わる。
〇〇はその反応を見て、
〇〇「気づくの遅いって」
普通に笑う。
紫耀「いや帽子深くしてたからさ」
軽く笑う。
ジェシー「びっくりしたって!!」
慎太郎「何してんのここで!?」
紫耀「いや、社長に挨拶」
樹「あーそういうことか」
高地「なるほどね」
きょも「元気そうでよかった」
紫耀「元気だよ」
自然な会話。
でもテンションは少し上がってる。
ジェシー「今めっちゃ忙しいでしょ?」
紫耀「まぁね」
慎太郎「Number_iやばいもん」
紫耀「ありがと」
軽く笑う。
北斗は少しだけ後ろからその様子を見ている。
北斗「……」
さっきのモヤモヤが、
少しだけ違う感情に変わる。
“誰か”は分かった。
でも——
〇〇と並んでいた距離。
普通に話している空気。
それはそのまま残っている。
〇〇「ほんと久しぶり」
紫耀「だね」
自然に会話してる二人。
北斗「……」
小さく息を吐く。
樹が横で少しだけ北斗を見る。
何も言わない。
でも全部分かってる顔。
ロビーの空気は一気に明るくなって、
“久しぶり”の再会で盛り上がっていく。
その中で、
北斗だけが少しだけ静かだった。
ジェシー「ねぇさ!」
慎太郎「ん?」
ジェシー「これこのまま帰るのもったいなくない?」
樹「出た」
ジェシー「せっかくだしご飯行こうよ!」
慎太郎「いいじゃん!」
高地「遅くならないならね」
きょも「たまにはいいね」
一気に流れができる。
ジェシーがそのまま前に出る。
ジェシー「紫耀もさ!」
紫耀「え?」
ジェシー「久しぶりなんだし一緒に行こうよ!」
慎太郎「行こ行こ!」
樹「まぁタイミング的にもな」
高地「どう?」
きょも「無理しないでね」
自然な誘い。
場の空気も軽い。
紫耀は少しだけ考える。
紫耀「うーん……」
〇〇を見る。
〇〇「私は行けるよ」
あっさり。
紫耀「じゃあ俺も大丈夫」
ジェシー「よっしゃー!」
慎太郎「決まり!」
樹「店どうする?」
高地「静かなとこがいいね」
きょも「うん」
一気にいつもの流れに戻る。
でも——
北斗は少し遅れて口を開く。
北斗「……」
一瞬の間。
北斗「別にいいんじゃね」
短く。
いつも通りのトーン。
慎太郎「なんだよそのテンション」
ジェシー「さっきより低い!」
樹「分かりやすいな」
北斗「うるせぇ」
軽く返す。
でも視線は一瞬だけ、
〇〇と紫耀に向く。
またすぐ逸らす。
きょもはそれに気づいて、
小さく笑う。
きょも「じゃあ行こっか」
高地「移動しよ」
ぞろぞろと動き出す。
〇〇は自然にその中に入る。
紫耀も並ぶ。
北斗は少し後ろからついていく。
北斗「……」
さっきより賑やかな空気の中で、
胸の奥のモヤモヤだけは、
まだ消えずに残っていた。
外に出ると夜の空気。
ジェシー「どうする?タクシー分かれる?」
樹「だな、全員は無理だろ」
慎太郎「じゃあ4・5で分ける?」
高地「人数的にそれくらいだね」
きょも「決める?」
ジェシー「よし」
ジェシー「グッとパーで分かれましょ!」
慎太郎「懐かし!」
〇〇「いいねそれ」
紫耀「それでいくの?」
樹「早いからな」
全員で円になる。
ジェシー「いくよー!」
慎太郎「せーの!」
全員「グーとパーで分かれましょ!」
パッと手が開く。
——
グー組とパー組に分かれる。
樹「はいはい、こっち4人」
慎太郎「こっち5人だな」
ジェシー「どっちどっち〜?」
確認する流れ。
〇〇はパー。
紫耀もパー。
北斗「……」
自分の手を見る。
グー。
一瞬だけ止まる。
慎太郎「北斗こっちだな」
樹「はい4人組」
ジェシー「〇〇と紫耀そっちか」
〇〇「だね」
普通に笑う。
北斗「……」
ほんの一瞬だけ、視線がそっちに行く。
でもすぐ逸らす。
高地「じゃあタクシー呼ぶね」
きょも「ありがとう」
ジェシー「どっち先行く?」
樹「4人先でいいだろ」
慎太郎「おっけ」
〇〇「じゃあ後でね」
軽く手を振る。
紫耀も軽く頷く。
北斗「……」
何も言わないまま、グループの方へ向かう。
慎太郎「行くぞー」
樹「早く乗れ」
タクシーが止まる。
ドアが開く。
北斗は無言で乗り込む。
その瞬間、
ちらっと後ろを見る。
〇〇と紫耀。
並んで、何か話してる。
距離は変わらない。
北斗「……」
何も言わずに前を向く。
ドアが閉まる。
車が動き出す。
慎太郎「今日なんか濃かったな」
ジェシー「それな!」
樹「色々ありすぎ」
笑い声が上がる。
でも——
北斗だけは、
窓の外を見たまま。
夜の景色が流れていく中で、
さっきの光景だけが、頭に残り続けていた。
4人組のタクシーが先に到着する。
樹「ここだな」
慎太郎「いい感じじゃん」
ジェシー「雰囲気いい〜」
高地「落ち着いてるね」
北斗は何も言わずに先に降りる。
店の前。
夜の静けさと、少し暖かい灯り。
樹「とりあえず先入るか」
慎太郎「だな」
ジェシー「5人来るまで待つ?」
高地「中でいいんじゃない?」
北斗「……入ろ」
短く言う。
そのまま扉を開ける。
店内は広くて静か。
席に案内される。
まだ空いてる時間帯。
慎太郎「いいじゃんここ」
ジェシー「当たり〜」
樹「とりあえず水」
高地「ありがとう」
それぞれ座る。
北斗は端の席。
スマホをテーブルに置く。
でも見てない。
慎太郎「あとで5人来るんだよな」
樹「だな」
ジェシー「〇〇と紫耀も一緒だよね」
その名前が出る。
北斗「……」
ほんの一瞬だけ手が止まる。
でもすぐ戻る。
高地「久しぶりだよねほんと」
慎太郎「びっくりしたわ」
樹「タイミングすごいよな」
ジェシー「今日会うと思わなかった」
普通の会話。
北斗は何も入らない。
ただ静かに座ってる。
数分後——
店の扉が開く音。
チリン、と小さく鳴る。
慎太郎「来たんじゃね?」
ジェシー「きたきた!」
樹「おー」
高地「いらっしゃい」
視線が一斉に向く。
入ってくる5人。
〇〇。
その隣に、紫耀。
自然に並んでる。
〇〇「おまたせー」
紫耀「ごめん」
ジェシー「全然!」
慎太郎「こっちこっち!」
手を振る。
5人が席に近づく。
長方形のテーブル。
先に来ていた4人が片側に並び、向かいに5人が座る形。
自然と席が決まる。
〇〇と紫耀は隣同士。
その真正面に——北斗。
北斗「……」
位置関係が、はっきりする。
逃げ場がない。
視線を上げれば、正面に〇〇。
その隣に紫耀。
ジェシー「この席ちょうどよくない?」
慎太郎「話しやすいな」
樹「確かに」
高地「全員見えるしね」
きょも「うん」
賑やかな空気。
でも北斗だけ、少しだけ静か。
〇〇「何頼む?」
紫耀「どうする?」
メニューを二人で覗き込む。
距離が自然に近い。
〇〇「これ美味しそう」
紫耀「いいね」
〇〇「じゃあ頼む?」
紫耀「頼も」
さらっと決まる。
北斗「……」
グラスを持つ手が少しだけ止まる。
慎太郎「北斗なに飲んでんの?」
北斗「水」
慎太郎「嘘だろ」
ジェシー「珍しい!」
樹「今日おかしいって」
北斗「普通だって言ってんだろ」
少しだけ強め。
〇〇「ほんと?」
真正面から見てくる。
北斗「……普通」
目を逸らす。
〇〇「ふーん」
軽く流す。
でもまたすぐ紫耀との会話に戻る。
〇〇「最近どう?」
紫耀「忙しいよ」
〇〇「だよね」
紫耀「そっちは?」
〇〇「まぁいつも通り」
笑いながら話す。
自然。
違和感がないくらい自然。
北斗「……」
その光景を、
見たくないのに見えてしまう位置。
樹が横で小さく北斗を見る。
何も言わない。
でも気づいてる。
きょもも同じように空気を感じてる。
ジェシー「注文するよー!」
慎太郎「はーい!」
店員を呼ぶ。
その間も、
〇〇と紫耀は普通に会話を続けてる。
北斗は視線を落とす。
テーブルの木目。
グラスの水。
何でもいいからそっちを見る。
北斗「……」
小さく息を吐く。
にぎやかなはずの空間。
でも北斗の中だけ、
妙に静かで、
妙にざわついていた。
ジェシー「注文いいですかー!」
店員が来て、次々に頼んでいく。
慎太郎「とりあえず肉!」
樹「あとサラダ」
高地「軽めのもね」
きょも「ありがとう」
〇〇「これも頼んでいい?」
紫耀「いいよ」
さらっと決まる。
北斗「……」
最低限だけ注文して、また静かに戻る。
——
料理と飲み物が運ばれてくる。
ジェシー「きたきた!」
慎太郎「うまそ!」
樹「乾杯もう一回いく?」
高地「いこっか」
全員「乾杯!」
少しずつ空気がほぐれていく。
酒も入って、テンションが上がる。
慎太郎「なぁ紫耀さ」
紫耀「ん?」
慎太郎「昔さ、あの時覚えてる?」
紫耀「あーあれ?」
樹「懐かしいなそれ」
ジェシー「なになに!」
話題が一気に“昔”に流れる。
きょも「よく覚えてるね」
高地「ほんとだよ」
〇〇も笑いながら入る。
〇〇「それ私も聞いたことある」
紫耀「マジで?」
〇〇「うん」
自然に会話に混ざる。
北斗「……」
グラスに口をつける。
少しだけ飲む。
慎太郎「〇〇の昔話もやばいよな」
樹「あーわかる」
ジェシー「なにそれ!」
〇〇「やめてって」
紫耀「気になる」
〇〇「絶対言うなよ?」
慎太郎「言う」
〇〇「最悪」
笑いが起きる。
慎太郎「昔さ、〇〇めっちゃ——」
〇〇「待ってほんと無理!」
紫耀「そんな?」
〇〇「やばいの!」
楽しそうに止める。
そのやり取りも自然で、
距離もそのまま。
北斗「……」
箸を持つ手が少しだけ止まる。
でもすぐ料理を口に運ぶ。
樹「北斗も知ってるだろ?」
北斗「……まぁな」
短く。
慎太郎「じゃあ言えよ」
北斗「言わねぇよ」
〇〇が少しだけ見る。
〇〇「なんで」
北斗「別に」
〇〇「優しいじゃん」
軽く笑う。
北斗「……」
何も返さない。
ジェシー「ほら食べよ!」
高地「冷めちゃうよ」
きょも「いただきます」
食事も進む。
酒も進む。
笑い声も増える。
でも——
北斗は、
ちゃんとそこにいるのに、
どこか少しだけ距離がある。
正面にいる〇〇。
その隣にいる紫耀。
二人の“自然さ”。
それを見ないようにしても、
どうしても視界に入る。
北斗「……」
小さく息を吐く。
にぎやかな夜の中で、
北斗の中だけ、
まだ静かにざわつき続けていた。
食事も進んで、空気がだいぶ柔らぐ。
笑い声も増えて、グラスも何度か重なる。
その流れの中で——
紫耀「ねぇ」
ふと、少しだけトーンを落として切り出す。
〇〇「ん?」
自然に顔を向ける。
紫耀「〇〇ってさ」
〇〇「うん」
紫耀「好きな人いるの?」
一瞬。
空気がほんの少し止まる。
慎太郎「おっ」
ジェシー「きた!」
樹「急だな」
高地「恋バナだ」
きょも「……」
〇〇は一瞬だけ目を瞬かせる。
〇〇「なに急に」
少し笑う。
紫耀「昔から好きじゃん、こういう話」
〇〇「あーまぁね」
軽く肩をすくめる。
慎太郎「確かに」
ジェシー「〇〇恋バナ好きだよね」
樹「聞く側な」
〇〇「そうそう」
笑う。
でも——
北斗「……」
箸が止まる。
視線は落ちたまま。
耳だけが全部拾ってる。
紫耀「で、どうなの」
〇〇「どうだろ」
少し考える仕草。
〇〇「いないんじゃない?」
軽く言う。
紫耀「いるでしょ」
〇〇「いないって」
軽く流そうとする。
でも——
紫耀「嘘だわ」
一言。
空気が少し変わる。
紫耀「絶対いる」
〇〇「いないって」
少しだけ笑いが引きつる。
紫耀「誰?」
ストレート。
慎太郎「おお」
ジェシー「攻めるね〜」
樹「えぐ」
高地「大丈夫?」
きょも「……」
SixTONESのメンバーは一瞬だけ視線を合わせる。
全員、知ってる。
〇〇が好きなのは——
永瀬廉。
しかも紫耀とは元同じグループ。
空気的に、だいぶまずい。
〇〇「……いないってば」
少し強めに否定。
紫耀「いやいるでしょ」
引かない。
〇〇「ほんとにいない」
笑ってるけど、明らかに誤魔化してる。
ジェシー「まぁまぁ!」
急に明るく入る。
ジェシー「恋バナって言ってもさ!」
慎太郎「そうそう!」
慎太郎「いなくてもいいじゃん!」
樹「今は仕事だろ」
高地「無理に言わなくていいよ」
きょも「うん」
一気にフォローに回る。
自然に流れを変えようとする。
紫耀「えー気になるじゃん」
まだ少し食い下がる。
〇〇「気にならなくていい」
即答。
少しだけ強い。
一瞬、静かになる。
北斗「……」
ずっと黙ってる。
でも、
“誰か”が分かってるからこそ、
余計に何も言えない。
紫耀「……ふーん」
少しだけ引く。
でも納得はしてない顔。
ジェシー「ほら食べよ!」
慎太郎「そうそう!」
樹「冷めるぞ」
高地「ね」
きょも「うん」
無理やりじゃないけど、
自然に話題を戻す。
〇〇もすぐ乗る。
〇〇「これ美味しい」
紫耀「ほんとだ」
何事もなかったみたいに会話が戻る。
でも——
さっきの空気だけは、
少しだけ残ってる。
北斗はグラスを持ったまま、
静かに下を向く。
北斗「……」
“いない”
その言葉と、
“知ってる事実”が、
頭の中で重なる。
そして、
その場にいる全員が、
少しだけ気を使ってる空気の中で——
北斗だけは、
一番何も言えないまま、黙っていた。
ーーーーーーーーー
北斗side
向かいの席。
〇〇と紫耀。
距離が近い。
同じメニューを覗き込んで、笑って、軽く肩が触れる。
紫耀「これさ、昔も頼んでたよな」
〇〇「頼んでた!」
紫耀「懐かし」
〇〇「やばいね」
笑いながら、自然に腕に軽く触れる。
それも一瞬じゃなくて、流れの中の当たり前みたいな距離。
北斗「……」
グラスを持ったまま、視線だけが少し上がる。
全部見える位置。
見たくなくても入ってくる。
北斗「……」
小さく息を吐く。
樹が横でそれに気づく。
樹「北斗」
小声。
北斗「……ん」
樹「大丈夫か」
北斗「何が」
樹「いや別に」
それ以上は言わない。
北斗も何も言わない。
慎太郎「それでさ!」
ジェシー「まじで!?」
場は変わらず盛り上がってる。
高地もきょもも普通に会話してる。
〇〇「それはやばいって」
紫耀「だろ?」
また笑う。
距離も、そのまま。
北斗「……」
箸を持つ。
料理を口に運ぶ。
味は分からない。
ただ動作だけしてる感じ。
北斗「……仕方ねぇだろ」
小さく、ほぼ聞こえない声。
昔から仲いい。
分かってる。
頭ではちゃんと理解してる。
北斗「……」
それでも——
視界に入るたびに、
胸の奥が少しざわつく。
北斗「……」
グラスをもう一度持つ。
少し強めに。
慎太郎「北斗飲みすぎじゃね?」
北斗「飲んでねぇよ」
即答。
ジェシー「いや顔」
北斗「うるせぇ」
樹「分かりやす」
北斗「うるせぇって」
少しだけトーンが強い。
でも誰も深くは突っ込まない。
きょもは少しだけ視線を落として、
静かに空気を見てる。
北斗は前を見る。
〇〇と紫耀。
楽しそうに笑ってる。
自然で、当たり前みたいな距離。
北斗「……」
小さく目を伏せる。
分かってる。
でも、
分かってるのと、
平気なのは、
全然別だった。
料理も進んで、場の空気はだいぶラフ。
北斗の前のグラスだけ、明らかにペースが早い。
慎太郎「北斗さ」
北斗「ん」
慎太郎「ほんとに飲みすぎ」
北斗「飲んでねぇって」
樹「いや飲んでる」
ジェシー「顔赤いって」
高地「大丈夫?」
きょも「……」
北斗は軽く笑う。
北斗「大丈夫だって」
でも声は少し重い。
紫耀「そういえばさ」
〇〇「ん?」
紫耀「さっき言ってたやつ」
〇〇「……あー」
紫耀「変な人いるって」
〇〇「うん」
軽く頷く。
紫耀「大丈夫なのそれ」
〇〇「大丈夫」
〇〇「警備ついてるし」
紫耀「でも怖くない?」
〇〇「まぁ多少は」
〇〇「だから今日も控えてる」
グラスを少しだけ見せる。
紫耀「なるほどね」
少し真剣な顔。
紫耀「ちゃんと気をつけてよ」
〇〇「気をつけてるって」
〇〇「マネにもめっちゃ言われてるし」
紫耀「そりゃ言うわ」
〇〇「でしょ」
軽く笑う。
樹「北斗」
北斗「……ん」
樹「聞いてる?」
北斗「聞いてる」
低い声。
慎太郎「なら飲むなって」
北斗「関係ねぇだろ」
少し強い。
ジェシー「いや関係あるだろ」
高地「心配してるんだよ」
きょも「……」
北斗は一瞬だけ顔を上げる。
〇〇を見る。
そのまま紫耀も視界に入る。
すぐ視線を落とす。
北斗「……」
グラスを持つ。
でも飲まない。
そのままテーブルに置く。
胸の中で、
モヤモヤと一緒に、はっきりとした心配が広がっていく。
でも、
それを口に出すことはしない。
ただ静かに、
その場に座っている。
ーーーー
🌙時計を見ると、23:00。
樹「……そろそろ出るか」
慎太郎「だな」
ジェシー「いい時間」
高地「明日もあるしね」
きょも「うん」
自然と解散の流れになる。
〇〇「帰ろ」
紫耀「だね」
立ち上がる。
北斗も少し遅れて立つ。
慎太郎「北斗行くぞ」
北斗「……ああ」
一歩出た瞬間、少しだけふらつく。
樹「おい」
すぐ腕を掴む。
樹「ほらな」
北斗「大丈夫だって」
ジェシー「大丈夫じゃないって」
高地「水ちゃんと飲んだ?」
きょも「ゆっくりでいいよ」
北斗「……平気」
でも足取りは重い。
〇〇が気づく。
〇〇「北斗」
北斗「……ん」
〇〇「ほんとに大丈夫?」
北斗「……」
一瞬だけ目が合う。
北斗「……平気」
短く返す。
〇〇「無理しないで」
北斗「してねぇ」
すぐ視線を逸らす。
外に出ると、夜の空気。
ジェシー「涼しっ」
慎太郎「ちょうどいいな」
樹「タクシー呼ぶぞ」
タクシーを待つ時間。
少しだけできた間。
周りではメンバーが呼び出しや手配で動いてる。
その少し外側で、
〇〇と紫耀。
紫耀「ねぇ」
〇〇「ん?」
紫耀「さっきのさ」
〇〇「……なに」
紫耀「ほんとにいないの?」
〇〇「いないって言ったじゃん」
紫耀「いや絶対いる」
〇〇「いないって」
少しだけ笑って流そうとする。
紫耀「……さ」
一歩だけ距離を詰める。
紫耀「もしかして」
〇〇「……」
ほんの一瞬、空気が止まる。
紫耀「言えないだけ?」
〇〇「違う」
少し早めに返す。
紫耀「じゃあなんでそんな否定すんの」
〇〇「普通でしょ」
紫耀「普通じゃない」
真っ直ぐ見る。
〇〇「……」
視線を少し逸らす。
紫耀「誰かいる顔してる」
〇〇「してない」
紫耀「してる」
少しだけ声が低くなる。
〇〇「……」
言葉が詰まる。
紫耀「……もしかしてさ」
さらに一歩踏み込む。
紫耀「知ってる人?」
〇〇「……」
沈黙。
ほんの一瞬。
でもその間が答えみたいになる。
紫耀「……やっぱいるじゃん」
〇〇「違うって」
少しだけ強く否定。
紫耀「いや今のは」
〇〇「違う」
被せるように言う。
〇〇「ほんとにいない」
紫耀「……」
少しだけ引く。
でも納得してない顔。
紫耀「そっか」
軽く笑う。
〇〇も無理やり笑う。
そのタイミングで——
タクシーのドアが開く音。
樹「来たぞー」
慎太郎「はいはい乗るぞー」
動き出しかけた、その瞬間——
ジェシー「……え?」
動きが止まる。
全員の視線が、同じ方向に向く。
〇〇と紫耀。
紫耀が一歩踏み込む。
そのまま——
〇〇を引き寄せる。
ぎゅっと、抱く。
慎太郎「……は?」
樹「おい……」
高地「……え」
きょも「……」
北斗「……」
空気が一瞬で止まる。
〇〇も一瞬固まる。
〇〇「ちょ、」
小さく声が漏れる。
でも紫耀は離れない。
そのまま、少し顔を寄せて——
耳元で何かを言う。
周りには聞こえないくらいの声。
〇〇の表情が一瞬だけ変わる。
驚きと、戸惑いと、
少しだけ言葉にできない何か。
紫耀はすぐに離れる。
何事もなかったみたいに。
紫耀「じゃ、またな」
軽く言う。
〇〇「……」
返せない。
慎太郎「……今のなに?」
ジェシー「いやいやいや」
樹「えぐ」
高地「ちょっと待って」
きょも「……」
全員、理解が追いついてない。
北斗は——
何も言わない。
ただ、
その光景を見たまま固まってる。
北斗「……」
さっきまでの酔いが、
一瞬で引いたみたいに。
胸の奥が一気にざわつく。
でも言葉は出ない。
〇〇もまだ動けない。
さっきの言葉が頭に残ってる。
タクシーの運転手が「どうします?」と声をかける。
樹「……あ、乗ります」
現実に戻る。
でも空気は完全に変わってる。
誰も軽く流せない。
北斗はゆっくり視線を落とす。
北斗「……」
何も言わずにタクシーに乗り込む。
その背中は、
さっきまでよりも明らかに静かだった。
紫耀とは仕事関係で別行動になる。
ーーーーーーーーー
〇〇side
紫耀に抱き寄せられた瞬間。
〇〇「……」
頭が一瞬真っ白になる。
近い。
距離も、声も。
紫耀の声が耳元に落ちる。
紫耀「……隠すの下手」
一言。
低くて、はっきりした声。
〇〇「……っ」
言葉が出ない。
そのまま離れる。
紫耀「じゃ、またな」
いつも通りの軽さ。
でも、さっきの言葉だけが残る。
〇〇「……」
返事が遅れる。
周りの空気でやっと現実に戻る。
慎太郎「今のなに!?」
ジェシー「え、普通じゃないよね!?」
樹「説明しろ」
高地「びっくりした……」
きょも「……」
〇〇「……なにもない」
少し遅れて、そう言う。
でも声がいつもより低い。
〇〇「ほんとに」
軽く笑って誤魔化す。
でも内心は全然笑えてない。
“隠すの下手”
その言葉が頭から離れない。
〇〇「……」
小さく息を吐く。
タクシーが来る。
樹「乗るぞ」
慎太郎「はいはい」
流れに乗る。
自然に。
北斗も同じ車。
〇〇もそのまま乗り込む。
ドアが閉まる。
車が動き出す。
——
車内。
少し静か。
さっきまでの騒がしさが嘘みたい。
慎太郎「いやでもさっきのはさ」
ジェシー「びっくりしたって」
樹「紫耀やるなぁ」
高地「急すぎて」
きょも「……」
会話はあるけど、
どこか探る感じ。
〇〇は窓の外を見る。
〇〇「……」
さっきの感触。
言葉。
全部残ってる。
そして——
隣じゃないけど、
同じ車にいる北斗の存在。
意識してしまう。
〇〇「……」
ふと、視線を少しだけ動かす。
北斗。
窓の外を見たまま。
何も言わない。
表情も見えにくい。
〇〇「……」
何考えてるか分からない。
それが少しだけ気になる。
でも聞けない。
聞くタイミングもない。
車は進む。
街の灯りが流れていく。
さっきとは違う静けさ。
〇〇はもう一度外を見る。
〇〇「……」
胸の奥が少しざわつく。
理由は一つじゃない。
紫耀の言葉。
自分の気持ち。
そして——
隣じゃないのに、
やけに近く感じる北斗の存在。
何も言わないまま、
そのまま同じ方向へ帰っていく。
タクシーがゆっくり止まる。
樹「ここな」
慎太郎「先ここか」
ジェシー「おつかれ〜」
高地「ゆっくり休んでね」
きょも「おやすみ」
ドアが開く。
〇〇が先に降りる。
北斗も少し遅れて降りる。
〇〇「ありがとう」
運転手に軽く頭を下げる。
北斗も何も言わずに降りる。
ドアが閉まる。
車はそのまま走り出す。
——
夜。
静か。
さっきまでの賑やかさが嘘みたい。
〇〇「……」
少しだけ歩き出す。
北斗も隣に並ぶ。
距離は近いけど、
会話はない。
足音だけ。
〇〇「……」
何か言おうとするけど、
言葉が出ない。
さっきのこと。
紫耀のこと。
北斗の様子。
全部混ざってる。
北斗「……」
視線は前。
少し酔いは残ってるけど、
意識ははっきりしてる。
玄関の前に着く。
〇〇が鍵を出す。
少し手元が遅い。
北斗「貸せ」
〇〇「え?」
北斗「開ける」
〇〇「……ありがと」
鍵を渡す。
北斗が無言で開ける。
ガチャ。
扉が開く。
先に〇〇が入る。
北斗も続く。
扉が閉まる。
——
室内。
静か。
外の音もほとんど入らない。
〇〇「……」
靴を脱ぐ。
北斗も無言で脱ぐ。
少しだけ間。
〇〇「……北斗」
北斗「……ん」
〇〇「さっきのさ」
北斗「……」
止まる。
〇〇「ごめん」
北斗「……は?」
〇〇「なんか、変な空気になったし」
北斗「……別に」
〇〇「でも」
北斗「関係ねぇだろ」
少しだけ強い。
〇〇「……」
言葉が止まる。
北斗「……」
一瞬だけ〇〇を見る。
でもすぐ逸らす。
北斗「気にすんな」
短く言う。
そのまま奥に歩こうとする。
〇〇「……」
その背中を見て、
何も言えなくなる。
さっきまで感じてた距離とは違う、
少しだけ遠い感じ。
〇〇「……」
玄関に立ったまま、
小さく息を吐く。
同じ家にいるのに、
空気だけが少し変わっていた。
玄関の静けさ。
北斗が奥へ行こうとする。
〇〇「……待って」
足が止まる。
北斗「……なに」
振り返らないまま。
〇〇「さっきの」
北斗「……」
〇〇「紫耀にさ」
その名前で、北斗の指がわずかに止まる。
〇〇「耳元で言われたこと」
北斗「……別にいい」
遮るように言う。
〇〇「よくない」
少しだけ強くなる。
北斗「……」
沈黙。
〇〇「言うね」
逃げないまま続ける。
〇〇「“隠すの下手”って」
一瞬、
空気が止まる。
北斗「……」
何も言わない。
でも肩がほんの少しだけ固まる。
〇〇「それだけ」
〇〇「変な意味じゃないと思う」
自分に言い聞かせるみたいに言う。
北斗「……」
ゆっくり振り返る。
目が合う。
さっきより少しだけ酔いが抜けた顔。
北斗「……それで?」
〇〇「え」
北斗「それで、お前はどうなんだよ」
低い声。
〇〇「……」
言葉が詰まる。
北斗「図星だから誤魔化してんだろ」
〇〇「違う」
北斗「さっきもそうだった」
〇〇「違うって」
北斗「じゃあなんで否定すんの」
〇〇「……」
また詰まる。
北斗「……」
小さく息を吐く。
北斗「分かりやすいんだよ」
ぽつり。
〇〇「……なにが」
北斗「全部」
短く。
〇〇「……」
何も返せない。
北斗は視線を逸らす。
北斗「……もういい」
それ以上は言わない。
そのまま背を向ける。
〇〇「……」
止められない。
言いたいことも、
整理できてない。
ただ——
さっきの一言と、
今の北斗の言葉が、
胸の中で重なっていく。
静かな部屋に、
言い残された空気だけが残る。
〇〇「先入るね」
北斗「……ああ」
短いやり取りだけ残して、〇〇はバスルームへ。
扉が閉まる音。
しばらくして、水の音が聞こえ始める。
——
北斗はそのままリビングへ。
ソファに腰を落とす。
北斗「……」
背もたれに体を預ける。
静か。
さっきまでの空気が嘘みたいに静か。
遠くで水の音だけが続いてる。
北斗「……」
天井を見上げる。
今日のことが、頭の中を回る。
紫耀のこと。
〇〇の言葉。
自分が言ったこと。
北斗「……はぁ」
小さく息を吐く。
酔いはまだ少し残ってるのに、
頭は妙に冴えてる。
ソファに肘をついて、
軽く顔を覆う。
北斗「……」
水の音がやけに大きく聞こえる。
〇〇がすぐそこにいるのに、
さっきより距離を感じる。
北斗は何もせず、
ただその音を聞きながら待つ。
時間だけが、ゆっくり流れていく。
バスルームの扉が開く。
〇〇「……ふぅ」
髪をタオルで軽く拭きながら出てくる。
さっきより少しだけすっきりした顔。
リビングに目を向けると——
ソファに座ったままの北斗。
〇〇「……まだいた」
北斗「……待ってた」
低い声。
〇〇「入っていいよ」
北斗「……ああ」
ゆっくり立ち上がる。
すれ違う距離。
少し近い。
でも目は合わない。
〇〇「タオル置いてあるから」
北斗「……ん」
短く返す。
そのままバスルームへ向かう。
扉の前で一瞬止まる。
北斗「……」
何か言いかけて、
結局何も言わずに扉を開ける。
バタン、と閉まる音。
——
〇〇はそのままソファに座る。
さっきまで北斗がいた場所。
〇〇「……」
まだ少しだけ温もりが残ってる気がする。
タオルを膝に置いたまま、
ぼーっと前を見る。
水の音がまた聞こえ始める。
〇〇「……」
さっきの会話。
紫耀の言葉。
北斗の言葉。
全部ぐるぐるしてる。
〇〇はソファに体を預ける。
同じ家の中。
すぐそこにいるのに、
さっきからずっと、
距離の測り方が分からないままだった。
それから時間が経つ。
気づけば1:00
ベッドに入る。
部屋は静かで、灯りも落としてある。
それぞれ自分のスペースに入るけど、同じ空間。
〇〇「……」
少しだけ寝返りを打つ。
北斗も隣で静かに横になってる。
しばらく無言。
でも完全な無音じゃない。
お互い起きてる気配だけがある。
〇〇「ねぇ」
小さく声を出す。
北斗「……ん」
〇〇「なんかさ」
少し間。
〇〇「へんなかんじ」
正直な一言。
北斗「……」
すぐには返さない。
〇〇「今日」
〇〇「ずっと」
言葉を探すみたいに続ける。
〇〇「いつもと違うっていうか」
北斗「……」
静かに聞いてる。
〇〇「なんか、うまく言えないけど」
〇〇「落ち着かない」
本音。
北斗は少しだけ息を吐く。
北斗「……そりゃ」
低い声。
北斗「色々あったからだろ」
〇〇「……そうかな」
北斗「そうだろ」
短く返す。
また少し沈黙。
〇〇「北斗は?」
北斗「……なにが」
〇〇「へんなかんじ、しない?」
北斗「……」
少しだけ間が空く。
北斗「……する」
ぽつり。
〇〇「やっぱり」
少しだけ安心したような声。
〇〇「だよね」
北斗「……」
それ以上は続けない。
言葉にすると崩れそうな空気。
〇〇もそれを分かってる。
〇〇「……寝よっか」
北斗「……ああ」
短い会話。
でもさっきより少しだけ、
距離が戻った気がする。
目を閉じる。
静かな夜の中で、
それぞれ考えながら、
ゆっくり眠りに落ちていく。
ーーーーーーーーー
北斗side
部屋が静かになる。
〇〇の寝息も、少しずつ落ち着いていく。
でも——
北斗だけ、全然眠くならない。
北斗「……」
目を閉じても、浮かぶ。
今日の光景。
〇〇と紫耀。
並んで笑ってた顔。
自然な距離。
耳元で話してた姿。
北斗「……はぁ」
小さく息を吐く。
天井を見る。
昔からなんとなく知ってる。
〇〇と紫耀は仲がいい。
かなり昔から。
二人とも関西ジュニアだった時期があって、
その頃からずっと距離が近い。
入所で言えば〇〇の方が先輩。
でもそんな上下を感じないくらい、
ずっと一緒にいたイメージ。
気づけば隣にいる、みたいな。
北斗「……」
思い返すだけで、胸がざわつく。
紫耀が笑えば〇〇も笑う。
〇〇が話せば紫耀が聞く。
その空気感が、出来上がってる。
北斗「……」
今日だけじゃない。
昔からそうなんだろうなって、
見てるだけで分かる感じ。
それが余計に嫌だった。
北斗「……」
寝返りを打つ。
隣には〇〇。
近い。
でも今日一日、
ずっと遠く感じた。
北斗「……」
紫耀に抱き寄せられてた姿がまた浮かぶ。
耳元で何か言われて、
一瞬固まってた〇〇。
あの距離。
北斗「……くそ」
小さく呟く。
自分でも珍しいくらい、
感情がぐちゃぐちゃだった。
嫉妬なのか、
焦りなのか、
分からない。
でも確かなのは、
あの二人を見てるのが苦しかったこと。
北斗「……」
隣を見る。
〇〇はもう寝てる。
無防備で、静かな寝顔。
北斗「……」
好きだからこそ、
余計にしんどい。
近くにいるのに、
自分だけ置いていかれてるみたいな感覚。
北斗は目を閉じる。
でも、
頭の中の〇〇と紫耀だけは、
全然消えてくれなかった。
時計の音だけが小さく響く。
北斗は眠れないまま、横を向く。
隣。
〇〇は完全に寝てる。
無防備な寝顔。
さっきまであんな空気だったのに、
今は何も知らないみたいに穏やか。
北斗「……」
じっと見る。
暗い部屋の中でも、表情は分かる。
北斗はゆっくり手を伸ばす。
触れる直前で、一瞬止まる。
でも——
指先が、そっと〇〇の頬に触れる。
柔らかい。
少しだけ温かい。
〇〇「……ん」
小さく寝息が揺れる。
北斗「……」
すぐ離そうとして、
離せない。
親指で軽く頬をなぞる。
今日ずっとモヤモヤしてた感情が、
そこに触れた瞬間だけ静かになる。
北斗「……」
紫耀の隣で笑ってた顔。
抱き寄せられてた姿。
頭に浮かぶのに、
今こうして自分の隣で眠ってる。
北斗「……ずるい」
小さく漏れる。
もちろん返事なんてない。
〇〇は眠ったまま。
北斗は少しだけ目を伏せる。
本当は、
ずっとこうやって触れたかった。
でも簡単に触れられる関係じゃない。
だから余計に、
今のこの距離が苦しい。
北斗はゆっくり手を離す。
でも最後にもう一度だけ、
頬を軽く撫でる。
北斗「……」
静かな夜の中、
その温もりだけを確かめるみたいに。
北斗「……」
頬から手を離したはずなのに、
視線が離せない。
〇〇は眠ったまま。
無防備で、近い。
北斗は小さく息を吐く。
理性で止めようとしても、
今日はうまくいかない。
ゆっくり体を寄せる。
起こさないように、
本当にそっと。
腕を伸ばして、
〇〇を優しく抱き寄せる。
〇〇「……ん」
小さく動く。
でも起きない。
北斗「……ごめん」
掠れた声。
胸の中に〇〇の温もりが入る。
シャンプーの匂い。
柔らかい体温。
全部近い。
北斗「……」
抱きしめる力は弱いまま。
苦しくならないように、
壊れものみたいに触れる。
でも、
離したくない。
今日ずっと感じてた焦りも、
モヤモヤも、
少しだけ落ち着く。
〇〇は眠ったまま、
無意識に少しだけ北斗の方へ寄る。
北斗「……っ」
心臓が大きく鳴る。
抱きしめた腕に、
さらに力が入りそうになって、
慌てて抑える。
北斗「……やば」
小さく呟く。
好きだと実感する瞬間ほど、
苦しい。
でも今だけは、
離したくなかった。
北斗は目を閉じる。
〇〇を抱いたまま、
その温もりだけを静かに感じ続けていた。
〇〇の体温が近い。
腕の中にちゃんといる。
北斗「……」
眠れない。
鼓動だけがずっと速い。
〇〇は完全に寝てる。
無防備で、
安心しきったみたいに小さく呼吸してる。
北斗はその髪に少しだけ顔を埋める。
ふわっとシャンプーの匂いがする。
北斗「……好き」
ほとんど息みたいな声。
起きてたら絶対言えない。
今だから漏れる。
〇〇「……ん」
小さく動く。
北斗の服を無意識に少し掴む。
北斗「……っ」
また心臓が跳ねる。
〇〇はそのまま、
抱き枕みたいに北斗へ寄る。
距離がさらに近くなる。
北斗「……やめろって」
困ったみたいに笑う。
でも離す気はない。
むしろ、
もっと抱きしめたくなる。
北斗は〇〇の頭をそっと撫でる。
優しく、
起こさないように。
今日一日、
ずっと苦しかった。
紫耀と並ぶ姿を見るたび、
どうしようもなくざわついた。
でも今、
自分の腕の中にいる。
それだけで、
全部壊れそうになるくらい嬉しい。
北斗「……」
目を閉じる。
〇〇の呼吸に合わせるみたいに、
ゆっくり息を吐く。
離れたくない。
このまま朝まで、
ずっとこうしていたかった。
コメント
3件
やばすきる!!!! だんだん、感情が薄くなってきてる!
読ませていただきました。第94話、すごく好きなエピソードでした。 朝の起き抜けの“無理無理”から一転、“CanCam”の仕事を受けてパッと切り替わる〇〇さんのプロ根性、本当にかっこよかったです。でもその後の紫耀さんの登場で一気に空気が変わって——北斗くんの無言の視線に、胸がぎゅっとなりました。“好き”の気持ちが溢れて深夜にそっと抱きしめるシーン、心臓が痛くなるくらい伝わってきました。北斗くん、そっけないのに優しくて……そこがまた切ないです。 お互いの距離感と言葉にできない本音が、静かに、でも確かに描かれていて、読み終えた後、胸の奥にじんわりと温かいものが残りました。続きが待ち遠しいです🌷