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いつものように5番テーブルでぼんやりしていたら、ニコニコしながら大倉さんが傍にやって来た。
「どうしたんだよ? 随分とご機嫌だな大倉さん」
「そりゃあ、ご機嫌にもなるさ。君と出逢って、今日でちょうど2年目になるんだよ。記念日じゃないか」
「あー、そうなんだ……」
気だるげに答えてやったのだが、実は覚えていた。分かっていたけれどそれを口にしたら、何だか女みたいだと思ったからあえて反応せずに、ふいっと顔を背ける。まさか大倉さんが指摘してくるとは、夢にも思っていなかった。
「去年は店が忙しくて、気がついたら終わってしまっていたけど、今年はきちんとカウントダウンして、今日に備えていたんだよ」
「ふっ……俺はちゃんと覚えていたのにな。1年前のその日に大倉さんの胸ポケットに、赤い薔薇を差してプレゼントしたのにさ」
「そういえば、そんなことがあったね。しかもかなり濃い色の珍しい赤い薔薇を、確か2本だったよなぁ」
顎に手を当てて何とか思い出してくれる姿に、吹き出しそうになる。必死に考えなきゃいけないくらい、その頃は忙しかった――メンズキャバクラ・シャングリラの系列店のホストクラブ・パラダイスの元ナンバーワンの井上穂高が店からいなくなって、一気に売り上げが減った時だった。
それまでの賑わいとは一変した店の雰囲気に、店長である大倉さんだけじゃなく、店で働いてる全員がヤバイって思ったんだ。たった一人抜けただけなのに、何だよ、これはって感じで。
経営の見直しやイベントを企画したりと、当時相当忙しかった時期だから覚えちゃいないと思ったのに、さすがというべきか。
「オーナーから送られてきた、FAXを見ながらだったから、妙に覚えているのかも。レインくんの表情まで覚えているよ。『そんな、つまんなそうな顔すんなって。これやるよ』って言ったよね?」
「そうだったかな。俺バカだから、よく覚えてないわ」
「赤い薔薇の花言葉は知ってるよ。愛情とか情熱とか、あなたを愛してます、みたいなのだったろ?」
(さすがは元ホスト。当たり前すぎる知識ってトコか。だけど濃い色ってトコが、実はミソなんだけどな――)
「正解。じゃあ薔薇の本数についての意味、知ってる?」
耳元にくちびるを寄せて、ちゅっと耳朶にキスを落してやった。いつもされてるから、お返ししてやるよ。
「薔薇の本数についての意味、か――さて、何だろうね」
クスクス笑いながら背中に隠し持っていたものを、ばばんと目の前に掲げ、どうぞと言って手渡す。
「うおっ! いきなり大量の白い薔薇って、何なんだ?」
両手で持たなきゃならないくらいの、たくさんの白い薔薇。それをまとめるために、ピンク色のリボンでかわいらしく括られていた。花束と大倉さんの顔を、交互に見てしまう。
「白い薔薇の花言葉は、純潔・清純・心からの尊敬。それと、私はあなたにふさわしい」
「大倉さんが俺に、ふさわしい?」
「ああ。店でナンバーワンの君にふさわしい男でありたいと、いつも思っているんだ。その気持ちを込めて」
柔らかく微笑み、俺の肩を抱き寄せて顔を近づける。
「ちょっ、たんま! 薔薇が潰れちまうって、勿体ない! ちなみにこれ、何本あるんだよ?」
「ははっ、99本だよ。意味は永遠の愛・ずっと一緒にいようなんだけどな」
「99本の意味を知ってて2本の意味、知らねぇのかよ?」
呆れてしまい、ため息をついて背中を向けてやった。この人は基本、自分中心に動いてる。俺の気持ちなんて、知らなくていいのかもしれない。
「……レインくんの口から、直接聞きたい。なぁ、教えてくれないか?」
強請るように呟いて、後ろからぎゅっと抱きついてくる大倉さん。言わないでいたら、きっとあらゆる手で、俺を責め立てるに違いない。マジでワガママで、困った人だけど。
「濃紅色の薔薇の花言葉は、死ぬほど恋いこがれてるっていう意味で、2本の薔薇の意味は、この世界はふたりだけってことだよ」
吐き捨てるように言ったのにも関わらず、後ろ手から薔薇の花束をさっさと取り上げ、傍にあるテーブルに無雑作に放り捨てるように投げると、その勢いのままに俺をソファに押し倒した。
「ちょ、おいおい、いきなりどうしたんだよ?」
「レインくんが、すっごく嬉しいことを言ってくれたから、サービスしてあげようと思って。だってこの世界は、ふたりだけなんだし、ね」
魅惑的に微笑んだ大倉さんのくちびるが、想いを押し付けるようにキスをする。はじめてキスされたのも、この場所だったっけ。
そうあれは2年前の――