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「縄って……縄跳びならある」
「…まあそれでもいいや。早く貸して。で、クローゼットの突っ張り棒のところに結んで」
俺は奇縁ちゃんに指示され、俺の部屋にあるクローゼットの突っ張り棒に縄跳びを結んだ。そして、首が簡単に通るくらいの大きさの円も、言われて作った。結んだ縄跳びは、まるで首吊り縄みたいだった。
「…はい、首吊って」
奇縁ちゃんが真顔で俺にそう言った。俺は突然そう言われて驚き、焦ったように言う。
「いやいや、普通に死ぬからな!?俺まだ死にたく…」
「大切な人に暴力振るったこと、懺悔しなよ。贖罪だよ、これは。それで罪が滅ぶこともないけど」
確かに奇縁ちゃんの言っていることはごもっともだ。俺は今まで春香に暴力を振るい、春香を不幸にしてきた。そりゃ青也にとられる訳だ。
春香を悲しませ、痛がらせたことに対して、俺が自殺なんてしたら、それはもう楽になるだけだ。春香は辛いながらも必死に生きていたのに、なにも辛くない俺が自殺なんてしたら、懺悔にも、贖罪にもならない。罪が滅ぶことなんてないんだ。
だけど、命を捧げることが出来たなら、それは立派な贖罪に、懺悔になるのかもしれない。
俺は考えながらこっそりスマホを操作し、あるアプリを開いてから、奇縁ちゃんに聞いた。
「でも、ひとつだけ聞かせて欲しい。奇縁ちゃんは人を殺したの?美輝…だっけか?あの女の子は奇縁ちゃんの家にいるのか?」
俳優さんは私にそう聞いてきた。もう死ぬとしても、油断はできない。それに、死ぬとしても美輝ちゃんのことを話したくない。愛する人に暴力を振るったクズみたいな人間に、話すようなことはない。
けれど、スイーツをくれたりしたから、少しだけならと思い、私は話し始めた。
「…本当に少しだけならいいよ。………私は人を殺した。でも、たったの六人だけだよ。俳優さんは自殺するし、私が殺したことにはならない。美輝ちゃんは………」
どうだろうね。 私がそう言おうとした時、どこからか分からない雑音が聞こえた。それがどこから聞こえてきたのかはすぐに分かった。俳優さんのポケットの中だ。
私は俳優さんのポケットの中に手を入れ、中からスマホを取り出した。
「……これ、どういうこと?」
私はイライラしながら言った。電話の相手は青也だった。あの警察官になろうとしている男だ。春香さんと一緒に私の元へ来ていた、あの男だ。
私はすぐに電話を切って、スマホを床へ投げ捨てた。
「…さっさと死んでくれない?」
もう俳優さんの首は縄跳びの縄に通っている。もうすぐなんだ、こいつが自殺するのは、もうすぐなんだ。だから、早く死んでもらわないと、美輝ちゃんと話し合うことが出来なくなる。
「…まぁ、青也には言ったからな。多分奇縁ちゃんはこのまま警察に言われるだろうな。人を殺したことも電話で聞いてたと思うし。すぐ家に……っ!?」
私はすぐにでも美輝ちゃんの元へ帰るために、突っ張り棒にかかった首吊り縄で、俳優さんの首を絞めた。縄跳びの持ち手の部分を思っきり引っ張って、ひたすらに首を絞めた。
俳優さんはいきなりのことに縄をつかもうと必死だったが、縄は首にくい込んでいて、つかめるところがなかった。
最終手段だったのか、私の手を掴もうとしていたが、私が思っきり力を入れていたので、すぐに俳優さんの力はすぐに抜け、そのまま動かなくなった。
「っただいま!!!!」
げんかんのとびらがあいて、きふちちゃんの大きな声がきこえてきました。
「おかえり!きふちちゃ…」
きふちちゃんの足音がバタバタときこえてきて、きふちちゃんが見えた時、わたしのことをぎゅっとだきしめました。
「きふちちゃん…?どうしたの?」
わたしがそうきくと、きふちちゃんは、わたしの手をとって、左手のおねえさんゆびに、なにかをはめました。
「…それ、指輪。ハート型が可愛いし、凄い綺麗だったから……確かそれ、ウェディングブライダル…みたいな名前のハートの指輪だった。美輝ちゃんがハートで、私が月」
いつものきふちちゃんは、なかないし、かっこいいのに、今のきふちちゃんはないていて、かわいそうです。
「…きふちちゃん、なかないで…。わたしもかなしくなるから…」
わたしがそういったら、きふちちゃんは、ありがとう、といって、えがおになりました。
わたしは、きふちちゃんのえがおが、大好きです。
「…あ、そうだ……。あの男が来る前に、美輝ちゃんとやりたいことがあるんだけど…」
きふちちゃんはそういいました。わたしは、きふちちゃんに、かなしんでほしくなくて、いいよ、といいました。
「えー……っと……」
「きふちちゃん?どうしたの?」
私が悩んでいると、美輝ちゃんが純粋で綺麗な目で私を見てくる。ここはつい最近使われなくなった協会。
さっき私は、美輝ちゃんの薬指に指輪をはめた。私も玄関に入る前、指輪をはめた。
このハートの指輪と月の指輪は、お姉さんが買ってくれていたのだ。
家に帰る時、お姉さんと私が人を殺した部屋の前に、郵便局の人が立っていた。私は何かと思い話しかけると、郵便局の人は、佐藤すみれさんですか?と私に聞いてきた。
佐藤すみれ、それはお姉さんの名前だ。私はお姉さんは自分の姉だと言って郵便物を受け取った。そのままお姉さんの家へと入って、荷物を開けた。すると、月の指輪とハートの指輪が入っていた。
わからなかった。お姉さんが玖字という人と結ばれたいから買ったものなのか、私たち宛なのか、なにも。だって、もう殺してしまったから。
でも、もうお姉さんはいないから、私が美輝ちゃんとつけようと思ったのだ。
でも一応、お姉さんの部屋を見て、なにか書いてないかと思い辺りを探していると、メモを見つけた。
そのメモは、お姉さんが私と美輝ちゃんに買ってあげたいものが書いてあった。そのメモの最後に書かれていた、月の指輪とハートの指輪。
私は、私が殺したお姉さんが買ってくれた月の指輪をはめて、お姉さんの家を出て鍵を閉め、美輝ちゃんの元へと帰った。
せっかくお姉さんが買ってくれたのだから、つけないと勿体ないじゃないか。
「健やかなるときも」
お姉さんは優しい。
「病めるときも」
最期まで私たちの幸せを望んでくれた。
「喜びのときも」
ただ漫画の材料にしたかっただけかもしれないけれど。
「悲しみのときも」
それでも、最期まで警察に通報はしなかった。
「富めるときも」
それが優しさなのか、漫画の材料にしただけなのかはわからない。
「貧しきときも」
けれど、お姉さんが優しいのは確かだろう。
「これを愛し、これを敬い」
そんなお姉さんを、私は殺した。
「これを慰め、これを助け」
けれど、罪悪感などはない。
「その命がある限り」
お姉さんのことは嫌いでは無い。
「真心を尽くすことを誓いますか?」
だけど、好きでもないから。