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私は昨日、美輝ちゃんと外に出た。
使われていない教会は近くだったし、その時間は夜だったため、すぐに着いた。けれど念の為、パーカーの上着を着せて行った。
あの日、美輝ちゃんと約束したんだ。スマホで調べながらだったけれど、誓いの言葉といわれるもので、私たちがもし離れても永遠に互いを愛し続けるために、誓ったのだ。
あの時、美輝ちゃんは言ってくれた。わたしも、きふちちゃんとずっといっしょにいたい!そう言って純粋な笑顔を向けた。
瞳は、濁っていなかった。
それが幸せだった。美輝ちゃんの瞳を濁らせたくない、絶対に。私への愛が、なくなってしまいそうで、怖いから。
「…きっ、きふちちゃん」
美輝ちゃんは昼飯を食べ終わると、私にそう話した。
「きのう、ずっといっしょにいるっていったの、ほんと?」
美輝ちゃんはそう不安そうに聞いてきた。意味がわからなかった。離れても永遠に互いを愛し続けると誓ったのに、本当か嘘かを聞くだなんて。
「…え?なん、で?」
私は予想外の言葉に戸惑って、情けない言い方をして美輝ちゃんに聞いた。
「…ちかった、ちかったよ?でも…それまでずっとつめたかったし…それに、さいきんはなんか…ずっとなやんでるかんじするんだもん…」
美輝ちゃんの気持ちを考えていたつもりだった。
どうして?考えようとしたのが間違いだったの?でも、考えてもいいはずだ。だってこれら全て、美輝ちゃんのためだから。
「…わたし、はじめて愛されて、すごくうれしかったの。だから、わたしもきふちちゃんのこと、愛すってきめたの。でも………きふちちゃんがわたしのこと、愛してくれないなら、わたしはきふちちゃんのことをきらいに、なる……よ…」
泣きそうに潤んだ瞳で、悲しそうに美輝ちゃんは私を見つめて言った。
「…………なんで……?」
私は弱々しい声を出した。私の愛が足りなかったのか、美輝ちゃんに悩みを全て話せばよかったのか。全部美輝ちゃんのためだった。なのに、なにがいけなかったのか。
「どうして……私の事、嫌いだなんて言うの…?」
私は愛する人に嫌われてしまうの?愛が伝わらなきゃ嫌われてしまうの?伝わらなきゃ意味がないって、こういうことなのかな。
そんな時、私は自分のバッグが目に入った。自然とバッグに手が伸びて、バッグの中から包丁を出していた。
「きふち、ちゃ……?」
美輝ちゃんは泣きそうになっている。不安そうに私を見つめて、逃げる体勢になっている。
『殺したら自分のものになるわけ』
『殺す理由も結構あるんだよ』
あの時、確か俳優さんはそう言っていた。
「どうして…?昨日誓ったよね、離れても互いにずっと愛し続けるって。でも、どうして美輝ちゃんは私を嫌うの?」
私は美輝ちゃんを包丁で刺そうとした。けれど、美輝ちゃんはそれを避けた。
美輝ちゃんは私のものになるんだ。
私だけの美輝ちゃん。
私だけの、誰にも渡さない。
美輝ちゃんは私たちの部屋で転んだ。自分の足に引っかかったのだろう。今がチャンスだと思い、起き上がろうとする美輝ちゃんを、うつ伏せから仰向けにし、包丁を刺そうとした。
その時、インターホンが鳴った。私は驚きで動きを止めてしまった。だけど、刺さなければと思い、腕を振り上げた。その瞬間、ガチャ、とドアノブを捻る音がした。
…………あれ…。
昨日私、玄関の鍵閉めたっけ…。
「美輝ちゃんっ!」
私が考えている内に、男が私と美輝ちゃんの部屋のドアを開け、この状況を見て叫んだ。
私は反射的に振り返ってから、男の腹を刺した。春香さんが後ろにいて、春香さんが、青也くん!と大きな声をあげた。
私は何度も何度も男の腹を指した。男の上に跨って、何度も何度も。男の腹は血や肉などでぐしゃぐしゃになっていて、お腹の中の臓物が微かに見える。
お腹がぐしゃぐしゃになってから、一応のため、首を何度か刺した。何度目かで時間がないことに気がつき、春香さんを殺そうとした。
いや、美輝ちゃんを先に殺した方がいいか?でも、春香さんを殺さないと警察に言われる。でも美輝ちゃんを殺さないと、私のものにならない。だって時間があるんだ。
美輝ちゃんを殺した方がいいのか、春香さんを殺した方がいいのか迷っていると、警察だ!と言う大きな怒号が廊下に響き渡り、春香さんが、こっちです!と大きな声で案内する声が聞こえた。
私が我に返ったときは、もう既に男は死んでいた。
「青也…くん…?嫌だよ…やだ………しんじゃ、…やだよ……」
春香さんはそう言って泣いていた。ポロポロと涙を沢山流して、腹がぐしゃぐしゃで、所々臓物が見えるような死体になってしまった男を抱きしめて、声を上げて泣いていた。
春香さんの綺麗な顔や綺麗な服、足や腕に血が着いているのに、それが気にならないくらいに泣いていた。
「ごめんね……ごめんねっ、青也くん………ごめんね……」
そう謝罪の言葉を男の死体に放っていた。
辛く悲しいかもしれないが、なんだかその姿は、儚かった。
夏でもないのに、夏を思い出させるような、そんな姿だった。
私はふと美輝ちゃんの様子が気になり、美輝ちゃんの方を見た。すると、美輝ちゃんも小さく声を上げて泣いていた。
美輝ちゃんを泣かせたのは、私だ。美輝ちゃんにトラウマを植え付けたのも、全て私だ。
私が、美輝ちゃんの瞳を濁らせ始めたんだ。そう思うと、涙が溢れてくる。全て私が悪いというのに。
美輝ちゃんのため、なんてことは全て言い訳にしかならない。
自分だけのものになるだなんて嘘だ。
私はもう、美輝ちゃんに嫌われたんだ。
恩人のような人を特別だと言って殺して、パパ活で出会った人やその妹などを意味もなく殺して……。
なぜあんなことをしたんだろう。
なぜ人を殺したりなんかしたんだろう。
なぜ美輝ちゃんのためだなんて言ってトラウマを植え付けてしまったんだろう。
ごめんなさい美輝ちゃん。
ごめんなさい。
その言葉は泣き声によって出てこなかった。
出てきたのは、醜い私なんかの、意味のわからない泣き声だった。