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二人の間に流れる、他者を寄せ付けない色濃い空気。それを強引に引き剥がすように、燕花がパチンと巻物を閉じた。その乾いた音が、静まり返った部屋に厳かに響く。
「……では、各自配置の確認は以上です」
全体の空気を引き締めるように、燕花が一段と低い声を張る。
「明日の深夜。静遠殿が動くにせよ、氷嵐の刺客が放たれるにせよ、ここが正念場となります。皆さん、くれぐれも油断なきよう」
「おう、任せとけって! 腕が鳴るぜ」
白虎が拳をぶつけ合ってニカッと笑い、燕花が深く一礼する。こうして、それぞれの思惑を孕んだ作戦会議は幕を閉じた。
――そして、決行の夜。
宮殿の南棟に位置する枯山水は、不気味なほど静まり返っていた。
雲に隠れがちな月が、時折、白砂の波紋を青白く浮かび上がらせる。夜風が通り抜けるたびに、周囲の竹林がザワザワと不穏な音を立てていた。
庭園に面した縁側に、朱雀は薄い白単衣のまま、静かに座して目を閉じている。
神力を内側に集中させ、穢れを抑え込むための「無防備な瞑想」。その背中は、四日前の夜に見たときと同じように、どこか危うげで、触れれば消えてしまいそうな頼りなさを漂わせていた。
そのすぐ後ろ、襖を一枚隔てた薄暗い室内に、煌は控えている。
手元には、いつでも飛び出せるように、握り慣れた己の拳があるだけだ。物陰には燕花と白虎が潜んでいるはずだが、その気配は完全に消されている。
(……静遠の野郎、本当に来るんだろうな)
胸の奥が、嫌なテンポでドクドクと脈打つ。
朱雀を罠の「囮」にすると決めたのは自分だ。アイツの嘘が許せなくて、突き放したのも自分だ。なのに、いざこの瞬間を迎えると、襖の向こうにいる男の背中から目が離せない。
昨日の昼間、会議で見せた、あの縋るような黄金の瞳が今も脳裏に焼き付いて離れない。
じっとりとした沈黙が、果てしなく続くかと思われた、そのとき。
夜風の向きが変わった。
庭園の隅から流れてきたその空気に、煌の鼻腔がピクリと跳ねる。
(……っ、この匂い……!)
風に混じって漂ってきたのは、怪しく、脳をじわじわと痺れさせるような甘い香り。間違いない、宮殿を揺るがしているあの『仙煙草』の匂いだ。それが、夜の闇に溶けるようにして、どんどん濃くなっていく。
続いて、肌を刺すような冷たい殺気が、静かに枯山水へと流れ込んできた。
本当に奴らが来た。静遠か、あるいは氷嵐の刺客か。
思わず体が前に出そうになり、煌は慌ててそれを自制した。
(落ち着け、俺の仕事は飛び出すことじゃねぇ。ジジイのそばにいることだ……)
ぎゅっと拳を握りしめ、襖の隙間から外の様子を睨み据える。縁側では、朱雀が白い単衣のまま、相変わらず無防備に目を閉じたままだ。仙煙草の毒々しい香りがこれだけ満ちているというのに、ピクリとも動かない。
その背中を守るように、煌は部屋の隅の薄暗がりに気配を潜め、じっと息を詰めた。
外の白砂の上に、音もなく、いくつかの不気味な黒い影が落ちる。
影たちは、瞑想を続ける朱雀の首元へ向けて、一斉に冷たく光る刃を突き出した。
――その瞬間。
コメント
1件
この夜の静けさと不穏な空気、めっちゃ好きです……。煌が朱雀の背中から目を離せないの、わかるなあ。あんなふうに「囮にするって決めたのに」って葛藤してるの、切ないし熱い。最後の一斉に刃が向かうところで止まるの、ずるい!続きが気になって仕方ないです🥀✨