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「そこまでだ、不届き者め!」
燕花の鋭い一喝とともに、庭園の闇を神術の光が鮮やかに切り裂いた。
無防備な朱雀へと襲いかかろうとしていた黒い影――氷嵐が放った刺客たちは、燕花が展開した目に映らぬ結界へと次々に捕らえられ、身動きを封じられていく。
「なっ、伏兵か……っ!?」
刺客の背後、庭園の影から様子を窺っていた静遠が、動転した声を漏らす。作戦の失敗を瞬時に悟った神官長は、すぐさま踵を返し、回廊の奥へと逃げ出そうと足を踏み出した。
だが、その退路はすでに完璧に塞がれている。
「おっと。どこ行くんだ、神官長殿?」
地響きのような低い声とともに、静遠の目の前に立ちはだかったのは、凄まじい神威を放つ白虎だ。その大きな図体で獲物を追い詰める野獣のごとく牙を見せ、鋭い眼光は完全に「狩る気満々」のそれだった。
「チッ……!」
静遠が初めて余裕を失い、苦々しく舌打ちを漏らす。しかし、そこは法を司る男だ。すぐに冷徹な表情を取り繕うと、平然と言い訳を並べ立て始めた。
「これは妙な誤回を……。私は、朱雀様のご様子が気になり、こうして夜回りをしておっただけです。まさか、白虎様がこちらにいらっしゃるとは想定外でした。それよりも、この刺客どもは一体――」
静遠が言葉を紡いでいる間にも、夜風が運ぶ仙煙草の毒々しい香りは、目眩がするほど枯山水へと充満していく。
室内で息を潜めていた煌は、その異様な濃さに胸を突かれ、ハッと襖の隙間から朱雀の背中に視線を走らせた。
(待て、おかしい……! いくら囮だからって、あいつ、匂いがこれだけ近付いてんのに何で動かねぇんだ!?)
よくよく考えてみれば、元々制御できるような状態ではなかったのではないだろうか?
(……元々暴走すら出来ないほど、本当は弱っているのだとしたら?)
嫌な予感が、冷たい冷気のように煌の背筋を駆け上がっていく。
――その、最悪の推測が的中したかのように。
縁側に腰掛けていた朱雀の身体が、糸の切れた人形のように、そのまま下の白砂の上へ、どさりと力なく崩れ落ちた。
「朱雀様……っ!?」
刺客を縛る結界を維持していた燕花が、驚愕に顔を青ざめさせる。
「おい、朱雀!? しっかりしろ、何やってんだ!」
静遠を睨みつけていた白虎の顔からも、一瞬で余裕が消え失せた。
三日間の調律不足。あの頑なな冷戦の間にも、朱雀の体内で澱のように溜まり続けていた穢れ。そこに、この空間へと容赦なく充満した仙煙草の毒が全身に纏わりつく状況は、元々弱っていた身体には相当堪えたはずだ。
人前ではいつも飄々としていて、弱さを見せない朱雀の事だ。高濃度の仙煙草に耐えられない事くらいわかっていたはずなのに……。隠し通せるとでも思ったのだろうか?
丹念に整えられていた枯山水の白砂が、朱雀の身体によって無残に乱れていく。
「――っ、この、クソジジイ……!!」
もう、お守り役として室内に引っ込んでいる場合ではなかった。
堪らず煌は襖を激しく蹴破り、夜の庭園へと飛び出した。倒れた朱雀の元へ駆け寄ろうとした、その刹那――。
キィィィン! と、鼓膜を鋭く刺すような凍てつく高音が響き渡る。
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煌と朱雀の間に、空間を断ち切るようにして巨大な氷の刃が突き刺さった。夜の白砂が、一瞬にして真っ白な霜に覆われていく。
「異界の巫女……行かせはせぬ」
闇を裂いて響く、冷酷で澄んだ声。
庭のさらに奥から、冷気を纏った圧倒的な存在――氷嵐が、ついにその姿を現した。
「チッ……うるせぇな! そこ退け! ぶっ飛ばすぞ!」
煌は溢れんばかりの激情のままに拳を強く握り締め、氷の向こうの敵を鋭く睨み据えた。朱雀の命を懸けた、緊迫の防衛戦がここに幕を開ける。
コメント
1件
うわぁ……一気に畳みかけてくる感じ、すごかったです🥀 ずっと飄々としてた朱雀がぽろっと倒れた瞬間、本当に心臓が止まるかと思いました。 「元々弱ってたんじゃないか」って煌の気付き、読んでるこっちもゾッとしましたね……。 静遠の言い訳とか、氷嵐が最後に現れる流れも、「ここで来たか!」って感じで熱かったです🔥 かんなさんのバトル展開、好きです……。