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#見捨てられた
リコりす@アナログタノピイ
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#shedletsky
ゆ(旧「ゆゆゆゆ」)
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あの騒動から、三日が過ぎた。
神殿は、ひどい有様だった。
柱は根元から折れ、壁は穴だらけ。
床には黒く腐食したコードが走り、修復用の資材があちこちに積み上げられている。
その惨状を前に、一人の男がぷるぷると肩を震わせていた。
「……おい、テラモン。」
低い声だった。
「はい。」
テラモンは反射的に背筋を伸ばす。
ビルダーマンは設計図を握り締めたまま、にこりともせず神殿を見渡した。
「これは何ですか。」
「えーっと。」
「これは。」
「芸術?」
「違います。」
「現代アート。」
「違います。」
「バリアフリー化工事。」
「できるか!!」
設計図で頭を叩かれた。
「いったぁ!」
「完全に爆破されているでしょうが!」
「いやぁ、ちょっと燃えただけで。」
「柱がありません!」
「風通しが良くなった。」
「屋根もありません!」
「星が見える。」
「壁もありません!」
「開放感。」
「開き直るな!!」
ビルダーマンの怒号が神殿中に響き渡る。
「ドゥームブリンガーが泣きながら来たんですよ!」
「泣いてた?」
「『テラモン様の周りに不気味な緑の化け物が住み着きました!』と半泣きでした!」
「大げさだなぁ。」
そう返事をしながらも、テラモンの視線は別の方向へ向いていた。
崩れた壁。
その陰。
そこから、赤い瞳がちらりとのぞく。
「……。」
1xだった。
見つかった。
そう思った瞬間、
さっ。
慌てて壁の裏へ隠れる。
「……。」
でも。
黒緑の炎だけは壁から思い切りはみ出していた。
「隠れきれてない……。」
テラモンは思わず笑ってしまう。
(相変わらず分かりやすいな。)
目が合う。
1xは「ッ!」と肩を跳ねさせ、
また壁の奥へ引っ込む。
炎だけ残して。
「……。」
「……。」
炎だけが、もぞもぞ動いていた。
「……テラモン。」
「はい。」
「手伝ってください。」
「はい。」
「今すぐ。」
「はい。」
返事だけして。
次の瞬間には走り出していた。
「あっ!」
ビルダーマンが叫ぶ。
「逃げるなぁぁぁ!!」
「ごめーん!」
「戻ってこい!」
「あとで!」
「あとでじゃありません!!」
テラモンは壁の陰へ飛び込んだ。
「1x!」
「ひっ!」
1xが飛び上がる。
「く、来るな!」
慌てて数歩下がる。
「近づくなバカテラモン!」
黒緑の炎がぼっと燃え上がる。
「お前みたいなヘラヘラした神なんか!」
腕を組んで顔を背ける。
「見てるだけで腹が立つ!」
「悪かった。」
テラモンは素直に頭を下げた。
「……。」
1xが固まる。
「この三日間は。」
「……。」
「俺も色々考えた。」
「……。」
「ごめん。」
「謝るな!」
即座に怒鳴る。
「お前が謝ると!」
拳を握る。
「調子狂うんだよ!」
「えぇ……。」
「それに!」
赤い瞳が揺れる。
「どうせ!」
少しだけ声が震えた。
「お前は……。」
俯く。
「俺に触れられないくせに。」
静かだった。
その一言だけは。
怒鳴り声よりずっと重かった。
テラモンは少し黙る。
そして。
「触れられるよ。」
「……は?」
ポケットをごそごそ探る。
「実は。」
取り出したのは。
ぐにゃっ。
どろり。
毒々しい蛍光緑色のスパゲッティだった。
「……。」
1xは真顔になる。
「何それ。」
「スパゲッティ。」
「見れば分かる。」
「2x2特製。」
「余計信用できねぇ。」
「魂の干渉率アップスパゲッティ。」
「名前からして怪しい!」
「試作品!」
「試すな!」
「成功率!」
「聞きたくない!」
「三割!」
「低っ!!」
テラモンは笑顔で麺を持ち上げた。
どろぉ……。
コードのような光が麺の間を走る。
「いただきます。」
「やめろ!」
ぱくっ。
「飲むな!」
ごくん。
数秒後。
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「どうだ。」
「……。」
「……。」
「……辛っ!!」
「だから言っただろ!!」
テラモンは床を転げ回る。
「苦い!」
「だろうな!」
「口の中でコードが暴れてる!」
「当たり前だ!」
「舌がバグった!」
「知らん!」
涙目で咳き込みながら、それでも立ち上がる。
「……でも。」
ふらつきながら。
ゆっくり。
1xへ近付いた。
「来るな。」
「いや。」
「来るなって。」
「一回だけ。」
テラモンは右手を伸ばす。
1xは目を閉じた。
(どうせ。)
(また。)
(すり抜ける。)
そう思っていた。
ぎゅっ。
「……え。」
頬に。
温かい手が触れていた。
ちゃんと。
しっかりと。
包み込むように。
「……。」
「……。」
1xは動けなかった。
「触れた。」
テラモンが嬉しそうに笑う。
「ほら。」
指先で頬を優しく撫でる。
「ちゃんと触れた。」
1xの赤い瞳が震える。
「冷たいな。」
くすっと笑う。
「でも。」
少しだけ握る力を強くする。
「中はちゃんと温かい。」
その一言で。
1xの頭が真っ白になった。
「ぅ……。」
炎が小さく弾ける。
「……あ。」
黒緑だった炎が。
ぱちっ。
ぱちぱちっ。
花火みたいな小さな火花へ変わっていく。
「え。」
テラモンも目を丸くする。
「綺麗。」
「き、綺麗とか言うな!」
顔が真っ赤になる。
「なんで!」
さらに真っ赤。
「頬なんだよ!」
「え?」
「手とか!」
あたふたしながら叫ぶ。
「肩とか!」
「うん。」
「普通あるだろ!」
「でも。」
テラモンはにやっと笑う。
「頬の方がモチモチしてそうだったし。」
「モチモチ言うなぁぁ!!」
暴れる。
「離せ!」
じたばた。
「燃やす!」
じたばた。
「ほんと?」
「ほんと!」
じたばた。
……そのくせ。
振り払おうとはしなかった。
むしろ。
ほんの少しだけ。
自分から手のひらへ頬を預ける。
「……。」
ぷいっ。
横を向く。
「勘違いするな。」
小さな声。
「お前が。」
照れ隠しに鼻を鳴らす。
「苦しそうに変なパスタ食ってたから。」
ちらっ。
「哀れんで。」
もう一度ぷいっと顔を背ける。
「触らせてやっただけだ。」
「はいはい。」
テラモンは笑う。
「ツンデレ。」
「言うな!」
どんっ。
思い切り足を踏まれた。
「痛っ!」
「ざまぁみろ!」
ようやく笑った1xの口元は、本人が気づいていないくらい少しだけ緩んでいた。
崩れた神殿の片隅で。
ようやく二人は、ほんの少しだけ近づくことができた。
その日、テラモンが口にした怪しげな術式入りスパゲッティ。
そして、その術式を作った2x2。
誰もまだ知らない。
この小さな実験が、やがて魂とコードを繋ぐ禁断の魔導書――ネクロブロキコン誕生の、最初の一歩になることを。