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──週末金曜日
山脇さんは、あの日から出勤せず会社を退職したようなので、もう会うことはないだろう。
智之は、時々会社に居ることもあるが、
私は、もう話すことはない。
観念したのか、噂で籍を入れたと聞いた。
なので、
たとえ会ったとしても、私の中では、会社に居る、特に部署も名前も分からない、顔だけ見たことがあるような〜という社員さんと同レベルで、《《会釈するだけの人》》になった智之。
同じ会社に居る以上、それは仕方のないことだ。
しかし、噂は、すぐに回り、面白おかしく言う人も居るのだろう。
山脇さん本人が辞めたことで、取り巻きだった人たちも、「山脇さんが《《彼女》》から寝取ったらしいわよ〜」と言っているのを聞いてドン引きした。
あんなに、山脇さん贔屓だったくせに、辞めたとたん、コロっと意見が変わったようだ。
なので、私は、『彼氏を寝取られた可哀想な元カノ』になってしまったようだ。
まあ、それも事実だけど、もうそんなことは、引きずってはいない!
匠のおかげで、私は、前に進めてる。
いつものように、美和と食堂でお弁当を食べる。
「ハハッ、まあ事実だし、どうでもいいけど、あの人たちホント暇よね〜」と私が言うと、
「ホントホント! いちいちコロコロ意見が変わって大変だね! 噂好きも」と言う美和。
「でも、良かったんじゃない?」と美和。
「ん?」
「《《屑之》》がクソな行ないをしたことが証明されたんだから」と言う。
屑野郎から屑之に変わった。
美和、上手いこと言うなと思った。
「そうだね。もうどうでもいいんだけどね。じゃあ、やっぱり私は可哀想な元カノなのね」と言うと、
「あ〜じゃあ、もうこの際だから、公表しちゃえば良いのに!」と言う。
「イヤイヤ、そんなことしたら、また《《乗り換えた》》って、暇な人たちに、うってつけのネタを与えるだけじゃん! もうイイよ、面倒くさい!」
と言うと、
「そのうち、バレそうだけどね〜」と、美和と話していると、
「何がバレるって?」と、匠が食堂に来た。
「あら、珍しい!」と美和。
「ホント! 仕事落ち着いたの?」と聞くと、
「うん、だいぶ落ち着いて来たから、俺もココで食べようと思って」と、お弁当を広げる匠。
──うわっ!
「え? 待って!」と美和。
「これ……」と、私のお弁当と匠のお弁当を見比べている。
「コレさっきココに入ってたの見たよね〜デジャヴか?」と言って笑っている。
「ふふふふ」と笑うと、
「凄っ! 綾、朝から2つ作ってんの?」と言う。
「うん、1つも2つも変わらないよ」と言うと、
「スゲ〜!」と感心している。
匠は、嬉しそうに「いただきます」と両手を合わせて食べ始めた。
「美味っ!」と言う。
「あ〜羨ましい! 私も誰かに作って欲しい」と言う美和。
「ハハッなんでよ! 美和も作って来てるじゃん」
「おにぎりとかだもん」
「おかず、ちょっと食べる?」と私が言うと、
「ううん、いいよ。あっ! 綾、お弁当2つも3つも同じじゃない?」と言うので、
「それは、違う!」と言うと、
「違うか〜〜残念!」と言う美和。
「ハハッ」
「うんまっ!」と美和におかずを見せながら食べている匠。
すると、お弁当箱から卵焼きを奪い取る美和。
「あ! 俺の卵焼き!」と言っている匠に、
「美味っ!」と美和。
「ふふ、子どもか?」と私は笑う。
「あ、まだ卵焼きあるよ。食べる?」と私が匠に言うと、
「食べる!」と、ニコニコしながら、私のお弁当箱から卵焼きを取って食べる匠。
「美味っ!」とご満悦。
それを見て、
「ふふ、良かった」と言う美和。
「ん?」
「ホント仲良しだよね。母ちゃんは、安心した」と言う。
「ふふ、いつから母ちゃんよ?」と笑うと、匠も
「ふふ」と笑いながら食べている。
「大切にしなよ!」と匠に言ってくれている。
「うん! 当然!」と微笑みながら言ってくれた。
嬉しかった。
そして、定時後、
珍しく匠も一緒に帰れることになったので、駅まで3人で仲良く帰っていた。
すると、私たちの前を智之が歩いているのが見えた。
以前は、朝によく見た光景。
今日は、隣りに1人だけ若い女性が居るようだ。
「ん? まだ1週間も経っていないのに、今度は誰?」と美和が言うと、
「新しいバディらしいぞ!」と匠は営業部のことを知っていた。
なるほど、今まで山脇さんが智之のバディだったが、退職されたことで、新しく変わったようだ。
美和が、
「今度は、あの|娘《こ》に言い寄られて、また同じことをするのか? 《《屑之》》は!」と言う。
「まだ、変わったばかりだし、いくらなんでもそんなバカなことをするかあ?」と匠が言ったが、
「分かんないよね〜? 誘われたら断れない男だから!」と美和は言う。
確かに、私も美和の言う通りだと思った。
それに……
もう一つ気になることもあった。
「今、《《奥さん》》妊娠中だしね〜」と美和が言った。
──そう! 私もそう思っていたのだ。
奥さんが妊娠中に旦那が浮気なんて、よく聞く話だから。
奥さんは、自分から誘うような|女《ひと》だから、それがパタリとなくなれば……智之は、
また、お酒が入ると簡単に誘惑される男だ!
──私は、いったい何を心配してるんだ!
もうどうでもいい! あんな奴! 同じことを繰り返して、地獄を見ればいいんだ!
コメント
1件
美和ちゃんと匠くんがいるから大丈夫だね╰(*´︶`*)╯