ラウール
冬の肌寒い 今日
私は ひとり街を歩く
見慣れた 景色
聞こえる 街の 音
楽しそうに 話す 人達
なぜだろう
私だけ 違う世界に 居るみたいに 寂しく、
孤独 だった
隣に いたはずの 彼は
私を 置いて
私の 届かない 場所へ
行ってしまった
幸せだった 毎日が
一瞬にして 奪われた
あの日 から_
数年前
私は今日大好きな彼と一緒にこの街を歩いていた
「○○ちゃんあれ美味しそう!」
『めっちゃ美味しそう!』
「食べる?」
『どうしよう…?』
「買おうよ!」
『えーでも太るし、』
「大丈夫!!○○ちゃんはもう少し太らなきゃ!」
『え、でも』
「僕、○○ちゃんが美味しそうに食べてるところ見るの好きなのに……」
口を尖らせて言う彼が可愛くて、ニヤニヤがとまらない
『じゃあ、らうくんが言うなら……買う?』
「やった!」
嬉しそうに私の手を握る彼を愛しく感じた
「じゃあ、○○ちゃんはここで待ってて」
『私も行くよ、』
「大丈夫!今日たくさん歩いたし、少しは休んでて」
『わかった』
「じゃあ、いってくるね!」
『ありがとう、いってらっしゃい!』
この会話が私達恋人にとって最後の会話になるなんて
誰も思わなかっただろう
今日こっそり撮ったらうくんの写真を見ながら
『可愛いなぁ……』
そう呟いたとき
後ろの方から大きな音が聞こえた
慌てて振り向くと
歩道にのりこんだトラックが
壁に衝突してとまっている所だった
この時なぜか凄く嫌な予感が私をよぎった
〔キャーー〕
誰かが叫ぶ
その声を聞きながらトラックの下の方に目をやると
そこにはトラックに敷かれた人の手が見えた
それと同時に私が見えたのは
私と同じ指輪を右手の薬指にはめた人だった
一瞬何が起こったのかが私にはわかった
『ラウくん!!』
『ねぇ、らうくん』
『ねぇ、ラウールってば!!』
何度呼びかけても彼からの返事はない
『うそだよね、』
泣きじゃくる私を周りは静かに見つめていた
それから何分たったのだろう
誰かが救急車を呼び
私は彼の元から離される
そこからの記憶はない
後から聞いた話では
彼を目の前で亡くしたショックで意識を失ってしまったらしい
トラックの運転手は飲酒運転で捕まった
あの後、何度も何度も自分を追い詰めた
私がデートに誘わなければ
私が”買う”なんて言わなければ
彼はまだ、私の隣にいたのかなぁ
ねぇ、らうくん
元気にしてる……?
らうくんがいない世界なんてつまらない
私もそっちに逝ってもいいかな
“ダメだよ、○○ちゃん”
らうくん!!
“まだ、○○ちゃんは俺の大好きな笑顔でこの世界を楽しんで欲しいな”
………らうくん
“ゆっくりでいいから、俺はいつまでも待ってるよ”
微かに聞こえた声は
どんどん小さくなっていき
聞こえなくなった
冬の肌寒い 今日
私は ひとり街を歩く
あの事故があった場所
聞こえてくる あの時の 音
何もなかったように楽しそうに 話す 人達
なぜだろう
私だけ 違う世界に 居るみたいに 寂しく、
孤独 だった
隣に いたはずの 彼は
私を 置いて
私の 届かない 場所へ
行ってしまった
だけど、もう少しだけ彼の大好きな
笑顔で
私は今日も生きていきます
私の 愛した 彼と
幸せだった 毎日は
今までも、これからも
ずっと私の心の中に生きている
END