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「悪口なんて聞いていませんよ。朱里さんは美奈歩さんと仲良くなりたがっています」


彼女は少し安堵したものの、信じ切れていない表情をしている。


なかなか根深いな。


「あなたと朱里さんは巡り合わせで姉妹となりました。本当の〝姉〟ではないので同じ家にいれば違和感があるでしょう。お父さんやお兄さんが、それまで他人だった〝母〟や〝姉〟に気を遣う姿を見て、本来の上村家を否定された気持ちになるのも当然です。そんな状況になれば、誰だって新しい家族にどう接したらいいか分からなくなるでしょう」


美奈歩さんは表情を歪め、唇を引き結ぶ。


「私は篠宮の家では〝邪魔者〟でした」


そう言うと、彼女はハッとして俺を見る。


「私の父親と実母は学生時代からの付き合いでしたが、父親は祖父に勧められて継母と結婚する決意をしたそうです。それでも父親は実母を忘れられず、私が誕生してしまった。……実母亡きあと、私は篠宮の家に引き取られましたが、毎日針のむしろのような生活でした。継母が私を嫌うのは勿論、継兄が私とどう付き合うべきか判断できず、空気のように振る舞っていたのも無理のない話だと思っています」


手段としてはずるいが、上村家より悲惨な例を出せば「自分よりマシ」と思うだろう。


俺はもう篠宮家の事については大体踏ん切りがついているから、朱里と彼女の関係を改善するためなら、ネタとして使ってもいいと思っている。


「だからこそ、私は朱里さんと共通点を見いだし、惹かれ合いました。新しい家族に馴染めず、本当は仲良くしたいのに、どう接したらいいか分からない気持ちも理解できます。深く傷付く出来事があったからこそ、家族になりたての頃は心を開けなかった。落ち着いた頃に話しかけようと思ってもとっかかりが見つからず、次第によそよそしい関係が当たり前になってしまう。……お互い嫌いになるには相手を知らなすぎますし、何をされたわけでもない。なら嫌う理由はないと思いませんか?」


最後の言葉を聞き、美奈歩さんはハッとしたように目を瞠った。


「第三者の私から見て、朱里さんも美奈歩さんも、まともに話していないのに『あの人は私を嫌っているに違いない』という思い込みを持っているように思えます。喰わず嫌いと同じです。食べてみたらとても美味しいかもしれないのに、口にするのが怖いのでテーブルにすらついていないんです」


美奈歩さんの表情は次第に変わり、それまでの虚勢を張っていた顔から、自身なさげな素顔が見えてくる。


「……私はろくな育ち方をしてこなかったので、家族の愛情に飢えています。だからこそ、朱里さんには温かな家族に囲まれていてほしいと願っています。これから朱里さんと結婚し、彼女をいつも笑わせていたいと思っていますが、人間同士ですからイライラする時もあるでしょうし、いずれ彼女が妊娠したら女性にしか分からない感覚も芽生えると思います。その時、実家に戻ったとしても安心できる環境でいてほしいんです。そのためにも、家庭でのすれ違いを解消して結婚できたらと思っています」


「……あの人、話し合ってくれるでしょうか」


美奈歩さんが、ぽつんと呟く。


「絶対、応じてくれます」


彼女の目を見て頷くと、美奈歩さんは少し考えたあと、「ここにいてくれますか」と言ってからリビングに向かった。






やきもきしながらドアのほうを見ていると、母が笑う。


「心配しなくても美奈歩ちゃんにとられたりしないから、安心しなさい」


「姉妹で三角関係って泥沼だな……」


亮平が呟き、私は奴をギロリと睨む。


(心の狭い事考えたくないのに、モヤモヤしちゃって駄目だな)


溜め息をついた時、廊下に続く引き戸がカラ……と開き、美奈歩が顔を出して私にちょいちょいと手招きした。


「ちょっと……」


「う、うん」


ゴクリと喉を鳴らした私は、立ちあがってリビングを出た。


階段前には尊さんがいて、私たちはチラッと視線を交わして「……お、おう」みたいな顔をする。


「朱里、美奈歩さんが話をしたいって」


けれど尊さんにそう言われ、とうとう決着をつける時がきたのだと覚悟した。


美奈歩は階段に座ったので、私は尊さんの隣に座る。


継妹はしばらく私を見つめたあと、一つ溜め息をついて尋ねてきた。


「私の事、嫌い?」


「え? なんで?」


ズバッと尋ねられ、私もズバッと素で聞き返す。


「嫌いじゃないよ。逆に美奈歩こそ、私の事嫌いじゃない? 今まで私がいるとわざとらしく溜め息ついたり、言葉に棘があったりで、快く思われてないんだなっていうのは感じていたけど」


「……お父さんやお兄ちゃんに、私の目の前でわざとらしく甘えていなかった?」


「なんですと?」


初耳だったので、思わずまた聞き返してしまった。

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