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放課後の帰り道、ゾムがぽつりと呟いた。
「ロボロ、遊園地誘った。今度の土曜」
シャオロンは一瞬、立ち止まって空気を飲み込んだ。
いつもより小さな声。
冗談も皮肉もない、まっすぐすぎて、逆に苦しくなる言い方。
「……ほんまに、行くんやな」
ゾムはうなずいた。
その目に迷いはなかった。
けど、不安がないわけでもないことを、シャオロンはすぐに察した。
「……あの場所、初めて行った日やろ。ロボロと、ふたりで迷ったっていう」
「うん。……たぶん、最後まで覚えてへんかもしれん。でも、俺は……そこに賭けてみたかったんや」
シャオロンは、何も言えなくなった。
こいつ、ほんまはめちゃくちゃ怖いやろな
中学からずっとそばで見てきた。
ゾムがロボロのことを想い続けてることも、
思い出されへんたびに、何度も諦めかけて、でも結局いつも戻ってくることも。
「ゾム」
シャオロンは声のトーンを落として言った。
「それで……ほんまにええん?」
「……ええ、って何が?」
「思い出されへんかっても、また『覚えてへん』って言われても、それでも……、それでも行きたいって思えるんか?」
ゾムは少しだけ笑った。
その笑みは、どこか泣きそうで、無理してるようにも見えて、でも強がってるわけでもなかった。
「うん。思い出されへんかってもええ。……けど、せめて、“いまの俺ら”で、一緒に過ごしたい。記憶が戻るかどうかより、それの方が……、いまは大事やねん」
その言葉に、シャオロンは目を伏せた。
そうやな。お前は、そういう奴や
けど――それでも心のどこかで、思ってしまう。
……ロボロ。お前、気づいてや。
ゾムがどれだけお前のことを、忘れたことすら責めずに、ただ側に居続けたか
「……わかった。気ぃつけてな」
それしか言えなかった。
自分はただの“橋”や。
ゾムとロボロ、どっちにも真っ直ぐ寄り添えない自分が、どこかもどかしくて、悔しかった。
けど願わずにはいられなかった。
──どうか、思い出せなくても、
2人がもう一度、“同じ場所”に立てますように。