コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
朝、目が覚めた瞬間から、心臓の音が耳の奥で響いていた。
「今日で……全部、変わるかもしれへん」
その覚悟と、それに比例する不安が、ゾムの喉を締めつける。
鏡の前で髪を整えても、落ち着きはしない。
ジャケットを羽織る手が、少しだけ震えていた。
今日は、ロボロと初めて行ったあの遊園地。
迷ってしまった道も、笑って歩いた帰り道も──全部、ちゃんと覚えている。
ロボロは、何も覚えてへんかもしれん。
でも、俺は今日を「終わらせるため」に行くんじゃない。
もう一回、始めるために行くんや。
携帯を手に取って、ロボロに「今から行くな」とだけ送る。
言葉はそれ以上いらん。…怖くて、これ以上、打てんかっただけかもしれへんけど。
それでも、今朝の空はやけに青くて、
今日という日が、“何かの節目”やってことだけは、空気が教えてくれていた。
⸻
「……なんでこんな緊張してんねん、俺」
ロボロは鏡の前で、シャツの襟を何度も直していた。
べつに特別な日ってわけじゃない。ただの遊び。そう思いたかった。
でも、どこか落ち着かない。
あの夢のこと、アルバムの写真、ノートの落書き、「Zくん」って名前。
あれから、頭の中でずっと回ってる。
どれもふわふわしていて、確信には届かない。
でも、触れたら泣きそうになるくらい、大事な何かやってことだけは、ずっと感じてる。
「もし……思い出されへんかったら、どうしよう」
ゾムががっかりするかもしれない。
それが、怖い。
でも行かなきゃいけない。そう思ってた。
ピロン、とスマホが鳴った。
「今から行くな」──ゾムからのメッセージ。
あぁ……ほんまに、今日なんや
胸に手を当てて、深く息を吸う。
カーテン越しの光が、少しまぶしくて、
今日だけは、普段の朝よりもずっと重かった。