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安浦はそういうとティーカップ片手に私に頭を下げる。私はその真摯な態度を見て、何にも装いがないことに気付き動揺した。安浦を前から知っていなかったら頭を疑っていたかも……。けれど、何度か死線を潜ってきた仲なので、安浦の自分に対しての態度をあまり気にしないことにしてやることにした。
「それにしても、恵ちゃん……」
呟くように呉林も何か言いたそうだったが、口を噤んで次からでる言葉を飲み込んだ。
私は呉林に向かって、苦笑いを浮かべると、三人で接触し合って、携帯の目覚まし機能を消した。
…………
「何も起こらないですよ。ご主人様?」
私は携帯片手に呉林の方を見た。
「やっぱり……駄目か……この刺激だけじゃ元の世界に戻れないわね」
呉林は少し諦め顔だ。呉林が頼りにならないと、こちらも不安になるのだろう。けれども私と安浦も他の方法を探そうとした。諦め顔で何か方法を考えている呉林は何かぶつぶつ言いながら俯いてしまった。
三人はしばらく立ち往生をするしかなかった。
木々の匂い、暖かい日差し、眠くなってきた。
「なあ、確かここは夢の世界なんだよな」
呉林はぶつぶつ言うのを止め、こちらへ向いた。
「そうよ。でも、正確には違うかも。取り敢えずは夢に似た世界よ」
「だったら、寝てみるのはどうだろう。元の世界で起きるかも知れない」
呉林は少し顔を上げ、
「うーんと。その手もあるかも。ここが夢の世界だとしたら出来るのかもしれないわ。ここで寝ると元の世界で起きられるのかも知れない。何となく間の抜けた話ね」
早速三人はその場で横になった。みんなで横になると、こんな世界へと迷い込んだ恐怖と混乱が幾らか薄らいだ。
「こんな世界に来たりすると、現実って何なのって、思えてしまうわ」
呉林は隣の私に向かって呟く。
「ああ。以外と現実って強いものだけど、それよりこの世界は強いって感じだね。頭が混乱しそうだが……」
私はそう受け答えをした。呉林は目を大きく開け、
「もし、元の世界に戻れなくなったら、やっぱりこの世界で三人で生きていくしかないんじゃないのかな」
呉林は冗談半分の口調で呟く。