よく晴れた月曜日の朝。
溜まったゴミと共に俺は一人暮らしをしているアパートの一室を出た。
何気ないいつもの日常。
「おお、お隣さん。こんにちは」
何も変わらない。
「あれ、聞こえてないのか……?」
いつもと同じように、寂れた古い扉の前に立ちガチャリと鍵をかけ、念の為一度引いて鍵がかかっていることを確認する。
(えーっと、財布も持ったよな……)
両手に持ったゴミを今一度コンクリートの床に置き、ゴソゴソとカバンを漁る。
数秒後、そこに財布があるのをみつけ、安堵する。
「今回もダメなタイプかなぁ……。まぁ一応……」
前日と同じ行動。
そう、何も変わらな……
「おーーーーい!!」
「ひゃいっ!?」
いきなり耳元で大声を出され、俺は飛び上がりそうに、というか飛び上がった。
予想外の刺客に思わず戦闘態勢をとる。
周囲からはひょろひょろと揶揄されるが、これでも黒帯を持っている……師匠に教わった身だ。
有段者には敵わないだろうが、一般人よりかは強いと思う。
……思いたい。
とは言えど、目の前にいるのは長身の男で痩せ型には見えるが油断はできない。
よく見れば金髪だし、何かヤバい人ではないだろうか。
あ、ピアスも空いてる……
より一層警戒の色を強くした俺に気がついたのか、 金髪さんは弁明をしようと慌てていた。
「あ!あの!私怪しいものでは……」
ワタワタと手を横に振りながら涙目になる目の前の金髪に、俺は何か悪いことをしてしまった気分になり、警戒を解いた。
その事が金髪さんにも伝わったのか、固くなっていた表情が穏やかになり、落ち着いて話し出した。
「私隣に越してきた者で……」
「隣に……?」
でも確か隣って……
「すみません、俺のお隣さんって確か若いお姉さんとそのお子さんだったはず……」
「はい、その通りです」
金髪さんはニコニコと笑っている。
「引っ越したとしても昨日は静かだったし……子連れということは結構荷物が多くなりそうなのでそんなに早く引越しなんてできるはずが……」
「はい、ですね」
金髪さんは、未だ笑っている。
その笑顔が不思議と不気味に見えて、俺は慌てて目を逸らした。
「ふふ、その親子はですね、」
金髪さんの顔がまともに見られない。
なにか、何か触れてはいけないものに片足を突っ込んでいるようなそんな気がした。
「私が、祓いました」
パッと、顔を上げると、変わらない笑顔で笑う金髪さんが見えたが、その笑顔には裏がある気がした。
途端に、背筋に寒気が走る。
ゴミがドサリと音を立てて落ち、膝の力も抜けて崩れ落ちる。
「ふふ、近くに霊感が強い子がいて助かりましたね。これは嬉しい大誤算だ」
という金髪さんの声を聞きながら、俺は何の変哲もないアパートの一室の前で、意識を手放した。
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