テラーノベル
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気がつくと、童がこちらに注意深い視線をくれていた。
「交霊じゃねぇな。 あっちの電波が届くわきゃ無え」
「は………?」
「子孫でもねぇ。 親父に内ら以外の子はいなかった」
訝しげな表情で、まるでこちらを値踏みするように、ジロジロと目を凝らしている。
先の白昼夢が原因か。
少なくとも、彼の興味が史さんやほのっちの元から一旦は離れたようで、ひとまず安堵する。
あまりの危機的状況に、感覚がバグっていたのかも知れない。
「宿命通か? いや、どう見ても仙人にゃ見えねぇよな? お前さん、ホントに人間か?」
「う………?」
この窮地を、どう切り抜ける?
いや、少しでも時間稼ぎを。
1分でも長く、彼の興味を引き付けておく事ができれば。
「まぁいいや。 身柄ひん剥いて、とっくり改めさせてもらうぜ?」
ダメだこの子。 気が短すぎる。
一刀をくるりくるりと玩びつつ、私たちの居る拝殿へと、童が歩みを寄せた。
「人間に決まってんだろ!?」
そこに、幸介の怒鳴り声が降って湧いた。
やってから“しまった”と思ったのか、こちらに向けた背中に、わずかな狼狽が見て取れた。
思えば、この幼なじみはこういう奴だった。
考えるよりも、まず動く。
そこに損得勘定はない。
何事に対しても、ただ一生懸命にぶつかって行くのが彼だった。
だから、時には大きな壁に跳ね返されることもあるし、坂道の途中で蹲ることだってある。
「人間に、決まってんだろ……‥っ」
「あん? なんだてめぇは?」
でも、いつだって幸介は、すぐに立ち上がって走り出す。
どんなに挫けようと、また顔を上げて、まっすぐに。
足元なんて確認しない。
ゆえに
「あんた、人間は斬れねぇんだろ!?」
「あ………?」
そうとは知らず、平気で薄氷を踏み抜いたり、地雷の上で飛び跳ねることが屡々あった。
これはもう、持って生まれた性分なので仕方がない。
彼を責めることなんて出来やしない。
私にしがみついたタマちゃんが、「バカぁ………」と絞り出すような声で発し、神楽鈴を構えた明戸さんが、「え?ウソだよね?」と青い顔をして呟いた。
「そうかよ………。 さすがに。 いやさすがに、あの野郎とツルんでるだけのこたぁあるぜ。 肝が据わってやがる。 そこだけは認めてやらぁ」
「え? おう………」
“え?おう”じゃないんだわ。
愛すべきバカも、ここまで来るとさすがにフォローのしようが無い。
とにかく、なにか弁解の言葉を用立てようと、必死に胸中をひっくり返して模索するも、間に合わない。
「斬れるか斬れねぇか、てめえで計ってみんかいオラァ!!!」
「え、ちょ………っ!?」
一刀を振りかざした童が、幸介の身柄に飛び掛かろうとした矢先のことだった。
弾丸のように飛来した銀光が、幼気な横っ面に衝突し、派手に火花を咲かせた。
甲高い噪音と共に、大きくバウンドしたそれは、やがて欄干の架木にざっくりと切れ込んだ。
定寸よりも、やや寸法の嵩む美刀。
先の衝撃が元で、全身にビィィィンと細かな動揺を来している。
恐らく、結桜ちゃんの得物だ。
「小娘ぇ………」
横合いをジロリと苛んだ童は、途端に目を大きく見開いた。
機敏に“自分”を操作し、頭上から襲い来る豪壮な刃を、ガッシリと受け止める。
欠け損じた緋々色の小片が、丸餅のような頬を掠めていった。
「用は無ぇっつったよな………っ?」
「………………っ」
歯噛みして不平を鳴らす童に対し、眉根を寄せた友人は、手の小刀をグイグイと押し込み、無言の圧力を加えた。
片手打ちに特化した兵具とは言え、重厚く身幅広く、一種の鉄塊を思わせるほのっちの愛刀である。
そこに当人の並外れた膂力も加われば、そのプレッシャーが如何に過酷なものか、容易に想像がつく。
しかし、これに真っ向から対する童は、恐るべき体幹で直立を保ったまま、1ミリも退かず、膝を屈しようともしない。
ただ、すべての重圧を引き受けた木履が、短冊状の板材を用いた簀子縁に、ミシミシと音を立てて沈下を始めていた。
「ち………っ!」
このままでは、体格差の不利がより明確になると判断したのか。 童が臨機の窮策に踏み切った。
柄前をとる両腕の張力を、微かに弛緩させると同時、わが身を横合いにふらりと逃がす。
それでも不足と見るや、間髪を容れず“己”の鎬に掌底を打ち込み、拮抗する二口の刃を、外側へ弾き出した。
ほのっちの体躯がわずかに揺らぐ一方、窮策の煽りを食った矮躯は、体勢の取り留めが利かず。
石段の中途に膝をつく不体裁をさらした。
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