テラーノベル
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上空で旋回するヘリの巨大なローターが、凍てつく新宿の空気をかき乱す。
猛烈な風圧が、降り積もったばかりの純白の雪を激しく舞い上げ、燃えるセダンの炎を禍々しく煽り立てた。
「……国家安全保障局だと? 笑わせるな」
志摩が遮蔽物の陰から銃を構えたまま、光り輝く空を忌々しそうに睨みつけた。
逆光で機体は見えないが、その殺気は肌を刺すほどに鋭い。
「中臣を助けに来たんじゃない。……証拠隠滅のために、中臣ごと俺たちを『清算』しに来たんだよ!」
その言葉が現実となるのに時間はかからなかった。
ヘリのドアから突き出された重機関銃の銃身が、容赦なく火を噴く。
ドカドカとアスファルトを爆ぜさせ
コンクリートを砕く大口径の弾丸が、中臣を護衛していたはずのPMCの兵士たちを
敵味方の区別なく肉塊へと変えていく。
「ひっ、あ、ああっ…!!!撃つのをやめろ!私だ、中臣だぞ!!助けてくれ、私はまだ、こんなところで死ねないんだ!」
俺の腕の中で、中臣が無様に暴れ、情けない悲鳴を上げる。
俺は奴の髪を力任せに掴み、熱を帯びたボンネットにさらに強く押し付けた。
「見ろ、中臣。これがお前の愛した『国』の答えだ。…お前が拓海を切り捨てたようにな。お前もまた、ただの使い捨ての駒に過ぎなかったんだよ」
俺は中臣の首筋にドスの刃を食い込ませた。
薄く皮が裂け、どす黒い鮮血が滲み出す。
だが、そのとき、背後から志摩が俺の肩を強く掴み、引き寄せた。
「黒嵜、ここで心中する気か!建物の中へ逃げ込め!ここにいたら、あのヘリに文字通りミンチにされるぞ!」
「……志摩。俺はもう、逃げるのに飽きたんだ」
俺はサーチライトの眩い光を見上げた。光の向こう側に
拓海の穏やかな笑顔と、親父の厳しい横顔が幻のように浮かぶ。
ようやく、重い荷物を下ろせる場所へ辿り着いたのだという確信があった。
「逃げる必要はない。……迎えに来たんだ。すべてを終わらせるための時間がな」
俺は中臣の体を盾にするように抱えたまま、銃弾の雨を潜り抜け
すぐ側にある工事現場の資材置き場へと飛び込んだ。
そこには、俺が山城に命じて事前に用意させていた「最後の切り札」が鎮座していた。
ガソリンの詰まったドラム缶。
そして、志摩が警察内部から持ち出した、広域警察用無線の中継器だ。
「志摩。あんたの言っていた正義が本物なら、これを使え」
俺は中継器のスイッチを入れ、無線機を志摩に放り投げた。
「この周波数は、今、新宿中に配備されているパトカーと機動隊、全回線に直結している。中臣の断末魔を、この街を、この国を動かしている連中全員の鼓膜に叩き込んでやれ」
志摩は一瞬だけ躊躇いを見せたが、すぐに覚悟を決めたような不敵な笑みを浮かべ、マイクを握りしめた。
「……こちら志摩。全ユニットに告ぐ。…今から、この国の『王』を自称する男が、自分の犯した罪を告白するそうだ。一言も漏らさず聞き届けろ」
俺はドスの先を中臣の喉元に深く突き立て、耳元で悪魔のように低く囁いた。
「さあ、喋れ。お前の汚れた手で殺し、踏みにじってきた奴らの名前を、一人ずつ、心を込めてな」
燃え盛る新宿の中心で、一人の男が絞り出す醜い真実が
電波に乗って冬の夜の街へと静かに、だが確実に溶け出していった。
その声は、システムの崩壊を告げる弔鐘のように響いていた。
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