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昼休み。生徒たちのざわめきが遠くに聞こえる。
ゾムはいつもより静かで、缶コーヒーを手のひらで転がしながら言うた。
「シャオロン……この前ロボロと遊園地行ってん」
シャオロンはペットボトルのキャップを締めて、こっちを見た。
「お、行ったんや。どやった?」
「楽しかったよ、ちゃんと。でも……正直、つらかった」
「……やっぱり?」
ゾムは少しだけ笑った。
「なんかさ、全部“初めてみたい”な反応でな。ティーカップも観覧車も、懐かしさはある言うてたけど……“思い出した”わけじゃないねん」
「……そっか」
「俺だけやねん。知ってんの。あの頃、どんな順番で乗ったとか、何食べたとか、どの道迷ったとか」
缶コーヒーがぬるくなってるのに気づいて、ゾムはそれを一口だけ飲んだ。
「でな、観覧車の中で、ロボロが言うたんや。“なんか悔しい”って。“あんたは知ってるのに、俺は覚えてへん”って」
シャオロンの目が少し揺れた。
「……それ、ロボロの口から出たんや?」
「うん。あいつな、ほんまは気づいてんねん。自分の中に“何か”あるって。でもそれが何かわからんことが、たぶん一番怖いんやと思う」
「……そっか……」
「なんか俺、泣いてもうた。観覧車の中で」
「ゾム……」
「俺、ずっと思ってた。ロボロが記憶思い出してくれたら、全部元に戻るって。けどたぶん、戻らへん。俺が知ってるロボロは、もうおらんのかもしれん」
シャオロンは黙って聞いてた。
その表情に、何か言いたそうな迷いが見えたけど、言葉にはしなかった。
ゾムはそれにも気づいてた。でも、今は聞かなかった。
「でもな……それでも、今のロボロが俺の前で笑ってくれるんやったら、それでええって、ちょっと思えた」
「……強いな、ゾム」
「ちゃうよ。ずっとしんどい。でも、シャオロンが聞いてくれるから、なんとかなる」
少しの沈黙のあと、シャオロンがふっと笑った。
「俺はいつでも味方やで。……まぁ、たまには俺にも頼れよ?」
「……おう、ありがとな」
ほんの一瞬、雲の切れ間から光が差して、ふたりの影が階段に並んだ。