放課後、夕焼けに染まる誰もいない校舎の廊下。
ゾムとシャオロンがどこかで話していたのは知ってたけど、今はもう姿が見えへん。
ロボロはゆっくり階段を下りながら、胸の奥でくすぶる感覚に向き合ってた。
――夢の中。あの観覧車の景色。
目の前で笑ってた男の子の顔。それが、昨日一緒に遊園地へ行ったゾムと重なった。
ずっと、ただの「懐かしい気がする」で済ませてたけど――ちゃう。
「……思い出したんや」
校門を出ると、少し先のフェンスのとこでゾムがぼーっと空見てた。
ロボロは歩いて、そっと横に立った。
「なあ、ゾム」
「ん?」
「昨日の遊園地のことなんやけどな……」
ゾムはこっちを見た。目の奥に一瞬、不安がよぎったのがわかった。
「……あそこな、俺、ちっちゃい頃にも行っとった。ほんで、観覧車も、ティーカップも、ポップコーンの匂いも……全部、夢の中と同じやった」
ゾムは何も言わへん。ただ、じっと耳を傾けてた。
「夢で見てたんは、あんたやったんやな。俺の隣におったん、ゾムやった。あの顔……笑い方……ゾムやったんや」
声が震えそうになるのを、ロボロは噛みしめながら続けた。
「ごめんな。忘れてたん、ほんまに……ごめんな……」
ゾムの目が、少し潤んで見えた。
「……おいおい、急に謝られたら泣いてまうやろ」
「泣いてもええんやで?」
「いや、ロボロが先に泣けや」
「いやや、俺は泣かへん」
そんなアホみたいな会話をして、ふたりは並んで笑った。
けど、その笑いの奥には、ちゃんと想いがあった。
心の奥にずっと置いてきぼりになってた“思い出”が、ようやく歩き出した気がした。
――それでも、全部はまだ戻ってへん。
でも、きっとこの先また思い出せる。ゾムと一緒なら、きっと。