コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
その時、ベッドの上の朋也さんが少し動いた気がした。
「朋也さん!!」
一弥先輩がすぐに先生を呼んできてくれた。
先生は朋也さんに何か話しかけている。
目が覚めたのだろうか?
しばらくして、先生が出てきて、私達に言ってくれた。
「良かったですね、意識が戻りました。もう、大丈夫でしょう。素晴らしい生命力です。あの傷から、よく頑張りました」
「ああ……あ、あり……がとう……ございます」
私はイスにドスンと腰を落とし、顔を伏せて泣いた。
一弥先輩は、そんな私の背中を優しくさすってくれた。
「良かった。本当に良かった……。朋也さん……」
「ああ、良かったね……」
ずっと心臓が張り裂けそうだった。
朋也さんがいなくなる恐怖から、今、ようやく抜け出し、心から安心できた。
看護師さんが来て「個室に移しますが、まだしばらくは無理させないようにして下さいね」と言われた。
ドキドキして待っていると個室に呼ばれて、私達は中に入れた。
やっと、朋也さんに会える――
「朋也さん……」
「……恭香……」
「大丈夫?」
私は、近づいて顔を見た。
朋也さんは、ゆっくりうなづいた。
涙でぐしゃぐしゃになった汚い顔の私とは反対に、死ぬ思いをしたはずの朋也さんは、本当に綺麗な顔をしていた。
髪も目も鼻も、頬も口も……
全て変わらず、朋也さんだった。
当たり前のことがこんなに嬉しいなんて……
「恭香、ありがとう。もしかして、ずっといてくれた?」
「……うん。ずっといたよ。ずっとずっと……朋也さんが目覚めるのを待ってた」
「そっか……本当にありがとう」
「一弥先輩も一緒にいてくれたんだよ」
「一弥君……。君も来てくれたんだ。悪かった」
「いいよ、そんなの。恭香ちゃんから連絡もらってびっくりしたよ。社長にも連絡ついたから。つい、今、無事だって連絡したら、とても喜んでおられたよ」
一弥先輩の言葉に、朋也さんはホッとしたような表情をした。
「そっか……父さんは海外だから……。いろいろ助かった、2人がいてくれて良かった。心からお礼を言いたい。本当に……ありがとう」
「あんまり無理させたらダメだろうけど……。いったい何があったの?」
一弥先輩が聞いた。
その質問の答えが知りたいけれど、聞くのが怖かった。
「……知らないやつだった」
「えっ、朋也さんの知らない人?」
「ああ。誰だかわからないやつにいきなり刺されて、体が急に熱くなって、倒れて……。誰かが救急車を呼んでくれたみたいだった。俺は、気づいたら恭香に電話してた」
「そんな大変な時に何で電話なんて……」
朋也さんは、少し黙った。
「……大変な時だからだ」
「えっ」
「恭香の声が聞きたかった。これが最後かも知れないって……思ったから」
「そんな……」
「声が聞けたからか、安心してそのまま気を失ったんだな」
朋也さんが微笑む。
「何だか……僕は邪魔みたいだね」
一弥先輩が笑いながら言った。
「いや……いろいろありがとう。一弥君には本当に感謝してる。恭香は1人では不安だっただろうから、君がいてくれて、支えてくれて……良かった」
「だ、だから、いいってそんなこと。恭香ちゃん、ものすごく心配してたから。だから、ちゃんと……優しくしてやって。じゃあ、僕は……」
「一弥先輩、本当にありがとうございました。先輩のおかげです」
「……ううん。僕は何も。じゃあ」
一弥先輩は、そう言って部屋を出ていった。
私は朋也さんのベッドの横のイスに座り、手を握った。
しばらく握っていると、その手がとても温かくて、心から朋也さんが生きていると実感できた。
ずっと、このぬくもりを感じたかったんだ。
「失礼しますよ」
「はい」
ホッとしているところにやって来たのは、警察だった。私はイスから離れ、刑事さんが朋也さんに話をした。
防犯カメラの解析も終わり、衝撃的なことがわかった。
朋也さんを襲った犯人、それは――
菜々子先輩のお兄さんだった。