「手を伸ばす勇気」
リビングの真ん中に、全員が静かに集まった。
割れたグラスや倒れた椅子はそのまま。
だけど——さっきまで荒れ狂っていた空気は、少しずつ柔らかさを取り戻しつつあった。
俺は深く息を吐き、みんなを見渡す。
「……よし、誰から謝る?」
その声に、最初に小さく手を上げたのはいむだった。
泣き腫らした目のまま、震える声で口を開く。
「……僕、いふくんに酷いこと言った……。勝手に傷つけられたって思い込んで、全部ぶつけた。……ごめん」
顔をまろに向けると、その視線は不安でいっぱいだった。
「……でも、ほんとに悔しかった。いふくんが嫌いだからじゃなくて……大事やから余計に、ムカついて」
まろは黙って聞いていたが、その肩は小さく揺れている。
「……あほやな」
「えっ……」
「そんなもん、俺も一緒やっちゅーねん」
まろはため息をつき、後頭部をぼりぼり掻いた。
「俺も、いむの言い方にムカついて、引かれへんかった。……ほんま、ガキみたいやった」
一歩、いむに近づく。
「……悪かった」
その一言に、いむの目からぽろりと涙が落ちた。
次の瞬間、いむは思わずまろの胸に顔を埋めた。
「……っ、ばか……いふくんのばか……!」
「おい泣くなや……余計アホになるやろ……」
不器用な抱きしめ方だったけれど、それでもしっかりと腕を回すまろの姿に、りうらと初兎が小さく息を吐いた。
「次、初兎」
俺の声に初兎は少し顔を上げた。
「……おう。僕も、キレた。止める側やったのにな」
初兎はりうらの方を見る。
「りうらにも……ごめんな。巻き込んでもうた」
りうらは少し驚いた顔をしたが、ふわっと小さく笑った。
「りうらも怒っちゃったから……しょーちゃんだけが悪いわけじゃない」
「せやけど……怒鳴ったのは事実や。ほんま、ごめん」
「うん」
初兎が頭を下げると、りうらも同じようにペコリと下を向いた。
「りうらも……ごめん。勝手に怒って、みんな傷つけた」
その素直な謝罪に、初兎は優しくりうらの頭をくしゃっと撫でた。
「ええ子やな。もう泣くなよ」
「泣いてないもん……!」
その声にいむが思わず笑い、まろも「ぷっ」と吹き出してしまう。
空気が、少しずつ、柔らかくほどけていった。
—
「……じゃあ、最後にな」
全員の視線が、自然とないこに向いた。
「今日な……たぶんみんな、疲れてたんやと思う。ちょっとしたすれ違いで爆発しただけ。でも、そんなときに“仲間”に当たるのは違う」
俺の声は、怒鳴りでもなく、泣きでもない。
ただまっすぐで、強くて、優しい。
「俺はリーダーとして、怒ることもある。でもな、みんながこうやってちゃんと謝れるなら——それで十分や」
まろも、いむも、初兎も、りうらも、それぞれ目を伏せながら頷いた。
俺はまろといむの間に立ち、肩を軽くぽんと叩く。
「喧嘩してもいい。でも、ちゃんと向き合え。逃げんな」
「……うん」
「……わかっとる」
初兎とりうらにも目を向け、柔らかく笑った。
「怒ったり泣いたりするのは、仲間やからできることや。……だから、そのぶん、ちゃんと支え合えよ」
「うん」
「りうら、もう大丈夫」
—
全員がひととおり謝って、気持ちを吐き出したあと。
俺は軽く手を叩いて言った。
「よし、んじゃとりあえず……リビング片付けるか。グラス踏んだら危ないし」
「「「「……はーい」」」」
重かった空気の中に、小さな笑い声が混じった。
さっきまで泣いていたいむがティッシュを握りしめたまま笑い、まろがその頭をぽんと叩く。
初兎がりうらの頭をわしゃわしゃ撫で回し、りうらがむくれている。
ぎこちないけれど、確かに——仲直りの空気だった。
—
片付けを終え、テーブルの前に並んで座ったとき。
まろがぼそっと呟いた。
「……なあ、ないこ」
「ん?」
「やっぱ、リーダーやな」
「はぁ? なにそれ」
「いや、かっこよかったっちゅー話や」
その瞬間、いむがぷっと吹き出して笑い、初兎が「まろちゃん珍しく素直やん」と茶化す。
りうらも少し笑って、「りうらもそう思う」って小さく頷いた。
ないこは苦笑いしながら、肩をすくめた。
「ったく……お前らほんとめんどくさい仲間だな」
その声に、全員が笑った。
泣き顔のまま笑い合える関係。
それが、俺らの絆だった——。
コメント
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あにきどこいったー!!???