テラーノベル
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土曜日に、あの光景を見てから。 僕の心は、完全に壊れていた。
日曜日は、カーテンも開けずに布団にくるまったまま、薄暗い天井を見つめて過ごした。身体は鉛のように重いのに、頭がずっと冴えていて眠れない。
枕元で、スマホが何度も震えていた。
白石さんから、LINEが来ているのは分かっていた。画面を開かなくても、通知で分かる。
……でも、怖くて開けなかった
もしそこに、 『話があるの』 なんて書かれていたら?
そう想像するだけで、胃がぎゅっと縮む。
通知の数字が増えるたびに、寿命が少しずつ削られていく気がした。
僕は逃げていた。現実からも、彼女からも。
***
月曜日、寝不足で重たい頭を抱えながら出社した僕は、デスクで死んだようにモニターを見つめていた。
画面に並ぶコードは記号の羅列にしか見えず、何一つ頭に入ってこない。仕事に集中しているふりをしていないと、この惨めな気持ちに飲み込まれてしまいそうだった。
「……春川さん」
不意に、背後から声をかけられた。びくっ、と肩が跳ねる。
振り返ると——。
そこにいたのは、白石さんだった。
少し怒ったようで、でも今にも泣き出しそうな顔だった。
ざわっ、とシステム部の空気が一気にざわつく。むさ苦しい男ばかりのこの部署に、社内でも有名な彼女が来るなんて異例中の異例だ。周囲の視線が、痛いほど僕たちに突き刺さる。
「……白石、さん」
「ちょっと、いいですか。話があります」
なにかを決意したような声だった。
──終わった。
頭の中で、その言葉が虚しく反響する。
わざわざ部署まで来るなんて、よっぽどのことだ。とうとう、別れ話だ。
僕は公開処刑場へ引かれていく囚人のような足取りで、彼女の後をついて休憩スペースへと向かった。
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