【閲覧注意⚠︎】
この小説はnmmnです。
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又、
この小説は作者の妄想・フィクションです。
ご本人様(キャラクター等)には一切の関係・関連はありません。ご迷惑がかからぬよう皆で自衛をしていきましょう!
閲覧は自己責任です。
※その他BL要素有り( 🟦×🏺)
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それではどうぞ〜🫶✨
🏺『』その他「」無線「”○○○”」
いつも通りの忙しない日常の中に新たな刺激が舞い込むと、人はわらわらとそこに寄っては活気立つ。
この街の人間は好奇心旺盛で、老若男女問わず結構そういう人間が多い。
今日のネタとなる人物は一体誰だろうか。
大型事件が収束を迎えた一時の休息時間に、そんなくだらない事をふと考える。
ちょうど昼過ぎ頃の事だった。
少し遅めの昼食というか軽食を食べながら、廊下の二脚あるうちのひとつに座って、もぐもぐと無心でホットドッグを頬張る。
すると更衣室の方から奇声が聞こえて、今日も平和だなと独りごちる。
「あ、あ、゙あっ、゙あッ!、うわあーーーッ!」
何をそんなに騒いでいるのだろう。
バタンッ!と思い切り閉められた更衣室から出てきた伊藤ぺいんを青井は横目で眺めた。
「どうしたぺいん。何かあったか?」
ちょうど仕事がひと段落つき、本署へと足を踏み入れた皇帝が声をかける。
「皇帝!、皇帝やばい!、やばいよマジで!」
転ぶのではないかと思うほどの焦りようで皇帝に近ずき息を切らしたぺいんは、一呼吸置いてからその焦りの根源の名を口にした。
「つぼ浦が退勤するって!」
「いや端折りすぎて分からんぞ」
そんなことを話しているうちにどんどんと廊下には人が集まってくる。
「なんだなんだー?」
「オルカ!、オルカ聞いてくれ!、つぼ浦が退勤するんだよ!」
「ん?、なんでだ?」
外を見ればまだポカポカとあたたかい陽の光が照っている。
そしてつぼ浦がこんな時間に退勤するとは珍しい。
「それがッ、あいつ、」
グッと胸を抑えて“まじかぁッ!”と叫ぶぺいんはそれ以上言葉として言うのもはばかられるらしく、また脳を焼かれたかのように“ゔわ゙ぁ〜(泣)”と頭を抱える。
それを見た皇帝とオルカ、そしてそこに居合わせた成瀬やひのらんも失笑気味な腹の奥の笑いを堪え、咳払いをする程度に頑張って留めた。
「なんだろうね」
「さぁ?」
いつの間にか隣に座っていたドリーと二人で首を傾げながら、ホットドッグの最後の一口を胃に収めて合掌する。
「あんな姿見たくなかったぁ〜ッ」
そしてあまりにもぺいんが仮面と合致した声を上げるので、とうとう周囲はぷはッ、と笑いに包まれほのぼのとした空気が流れた。
『んだよイトセン。聞かれたから答えてやったのに ちと失礼じゃねぇか?』
そこへ現れたつぼ浦がとんでもなく別人のような格好をしていなければ、恐らくそののんびりとした空気は続いていた事だろう。
グレーのスーツに磨かれた革靴。
胸元までしっかりと止められたボタンにシックな色合いのネクタイ。
もちろんサングラスやピアスなど、つぼ浦のアイデンティティと言われるもの全てが抹消されたとんでもなく顔立ちの良い好青年がそこには立っている。
「ぉおお、お前、どうした?、」
『どうって…、ちょっと社交辞令に行ってくるだけですよ』
つぼ浦は面倒そうに首をかいて、ズボンのポケットに手を突っ込む。
「社交辞令ってお前…、まさかそういう事か?、」
皇帝は”そんな馬鹿な…”と目を見開くが、他の人間はその段階にはまだ頭が追いついていない。
「お前そんなにいいところの坊ちゃんだったのか」
『まぁそうですね。普段は全く関わらねぇから、こういう時だけ良いように使われてやるんですよ』
これもまぁひとつの親孝行というかなんというか。
自由に生きる道を選ばせてくれた分の恩は返すべきだとつぼ浦は常々思っている。
『てことで退勤するぜ』
無線で報告してからスタッシュにトランシーバーを押し込み、袖を整えて華麗につぼ浦が一歩足を踏み出す。
「待て待てまてまて!」
『゙あ?』
「え?、まって?、何の話?」
成瀬が皇帝とつぼ浦を交互に見返しながら問いかける。
『だから社交辞令だって言ってんだろ』
「いやその社交辞令っつーもんが分からないから聞いてるんすけど?」
オルカもひのらんも意識を取り戻したかのように強く頷く。
『だぁ〜めんどくせぇな。令嬢とデートだデート。親に頼まれたんだよ。ご機嫌取ってくれってな』
その余りにもわかり易すぎる言葉にぺいんがぶっ倒れる。
『時間ねぇから行ってくるぜ。じゃあな力二くん』
ポンポンっ…と軽くペンギンの被り物に手を添えてから、落ち着いた足取りでその場を後にしてしまう好青年もといつぼ浦匠。
「…まじか。いやマジかガチかやばぁッ!」
こんなにもトンデモな話をここだけで収められる訳もなく、成瀬は無線をオンにして速報する。
「“つぼ浦さんご令嬢とデートしに行くそうです”」
「「“…はぁぁああ〜?!、”」」
ノイズが飛び交うほどに無線が乱れたのは言うまでもなかった。
「ってことで尾行を始めた訳ですが、いかがでしょうかぺいんくん」
「そうですねぇ、今のところマジで紳士的な好青年です。どうなってるんですか成瀬くん」
「いや俺にも分かりません」
Violet Fizzの奥、バーカウンターで淑《しと》やかに会話をしているのであろうつぼ浦とご令嬢をこっそりと遠くから盗み見る二人。
そして何故か連れてこられた青井らだお。
「ねぇなんで俺だけ?」
「つぼ浦さんは被り物してる人の素顔見ても他人だと錯覚するので、尾行するなら適任かなと」
成瀬の的を得た真剣そのものの回答に思わずため息を漏らす。
「だからって私服で勤務するのはどうかと思うけど?」
特殊刑事課ならまだしも、我ら警察職員は常に市民対応や事件の解決ができるよう、見た目でも分かりやすい警官らしい服を着用する事が求められている。
「いやらだお。これは潜入捜査だ。いついかなる時も一般市民を守るのが俺らの使命、つまりご令嬢を守るのも俺らの使命だ」
ああ言えばこう言う二人の団結力に青井はとうとう諦めた様子で、静かにノンアルコールのカクテルをクルクルと回してから口に含む。
しばらく穏やかに言葉を交わし、何か面白い話題でもあったのか、周りに花がポンポンと咲くかのように弾んだ笑い声が聞こえてくる。
ふわりと笑みを漏らす女性とにこやかに笑みを浮かべる青年、その姿はとてもじゃないがいつも声を張り上げてメンチを切るつぼ浦とはまるで違う。
会計を済ませたつぼ浦がご令嬢の手を取り、歩幅を合わせてエスコートして行く。
「ひぇ〜…、バリかっこいいなおい…」
店を後にした二人を成瀬とぺいんは店内から眺め、次はどこに行くのかと車の向きを見定める。
すると二階から急いで降りてきた三人組と青井の視線がバチりと合った。
「…ひのらん、お前もか」
被り物を外したひのらん、マンゴー、逆に被り物をしているオルカ。
「だって気になるんだもんっ。ね!、マンゴー」
「ちょっトね。気になりはするヨ」
男三人、女三人で一人の男を尾行するという世も末な平和過ぎる一日。
「そっかぁ」
青井はそれ以上の言葉を返してもダメだと悟っているので生暖かな目で頷く。
「“次BLUE MOONです”」
突然無線から聞こえたその声に“あぁ本当にこいつらは…”と苦笑いが漏れる。
「“了解まるん!、ありがとう!”」
ぞろぞろと店を後にし、そのままBLUE MOONへと車を走らせる。
建物の前に高級車が一台停車していたので、恐らく情報に間違いはない。
「みんな集まれ。一旦会議だ」
ぺいんがそう呼びかければ、皆は一斉に輪になって話し合いを始めた。
「店内では男女二人組になって行動しよう。怪しまれることは無いと思うが、下手な動きや声は慎《つつし》んだほうが良い。みんな気をつけて観察するんだぞ」
「「了解」」
ぺいんとひのらん。
成瀬とマンゴー。
青井とオルカ。
話が長くなりそうなので、その合間にとタバコを吹かしていた青井はいつの間にかタッグになっていたオルカに連れられて建物内へと足を踏み入れる。
ブルームーンのガラス張りから見えるつぼ浦とご令嬢は、どうやらショーケースを眺めて談笑しているらしい。
青井は半ば引っ張られるようにその店内の縁を跨いだ。
「いらっしゃいませ。あら?、ふふふ」
ぺいんチームと成瀬チームより後から入ってきた二人は、もう既に察しがついていると言わんばかりにラピスりおがニコリと笑みを向ける。
「ほんとすいません」
「いいんですよ。大切なご友人ですものね。心配な気持ちも分かります」
「そうなんですかねー…」
「えぇ、きっとそうですよ」
どう見ても物珍しさでここまで来てしまっている奴らが大半に見えるが、店員さんがそう言ってくれるのであればそういう事に今はしておきたい。
「何かご覧になりますか?」
カモフラージュとして指輪関連のリーフレットを一枚渡される。
「あぁ、ありがとうございます」
「?、あまり乗り気では無いのですか?」
「まぁ…そこまで興味がないので」
つぼ浦匠という男がどこで何をしていようと、厄介事さえ起こさなければ問題はない。
ましてやいきなり沸点がブチ切れて素のつぼ浦が出てこさえしなければ本当に心配事はない。
「素敵な信頼の寄せ方ですね」
「はぁ、そうですかね」
お世辞まで言われてしまい、青井は薄く目を細めて乾いた笑いを漏らす。
「オルっ、わ、私はあっちから様子見てくるぞ」
「はいはい行ってらっしゃい」
全く気が付かれる様子がない為か、だんだんとまばらに見たい位置で二人の様子を伺い始めた自称潜入捜査班の一行。
仕方がないので受け取ったリーフレットを眺めつつ、キラキラと輝くショーケースの指輪をちらりと横目に流す。
「まぁ、綺麗な誕生石」
「……?」
くるりと一度だけ後ろを振り振り返れば、下手に動くなと慌ててジェスチャーを送ってくる奴らが多数。
「御機嫌よう。貴方も誰かに贈り物を?」
純白のワンピースに黄色い瞳が良く映える綺麗な女性。
「…あぁ。はい」
こくりと小さく頷けば、女性は両手をふわりと重ねて“素敵ですね”と笑みを漏らす。
「私はリングピアスを購入したんです。とても明るい方だったので、トパーズの宝石が付いたものを」
「そうなんですね〜」
世のお嬢様というのはこんな一般の服装の男にも声を掛けるものなのかと冷静に頭の中で考える。
「恋人の方への贈り物ですか?」
「……いや、友人に」
「そうなのですね。ふふふっ、とても良いと思います。指輪には”永遠”という意味合いが込められているので、貴方にその指輪を送られる方は幸せ者です」
Violet Fizzでも見た雰囲気の良い柔らかな物腰と花のような微笑み。
『お待たせしました』
コツコツと鳴る革靴の音に聞き覚えがある。
『さすがはレディジュエル(宝石店)のご令嬢、私にこのような上品な物を送って頂き、身に余る幸せです』
両耳に通った銀のリングに小さく揺れるトパーズの結晶。
「まぁ、とてもお似合いですよ」
『貴方が選んでくれたものですから。似合わない筈がありません。ありがとうございます、ご令嬢』
そう言ってつぼ浦は、懐からサッと純白のリングケースを取り出す。
『お返しと言ってはなんですが、私の気持ちも受け取っては頂けませんか?』
パカりと開かれたそのケースの中には、誕生石一覧に記されているトルマリンというジュエルがキラリと輝いていた。
「これを私に?」
『えぇ、貴方に出逢えた喜びをこの指輪に込めました。…付けさせて頂いても、よろしいですか?』
控えめに笑みを浮かべたつぼ浦が、首を少しだけ斜めに傾けてうやうやしく尋ねる。
「ふふふっ、もちろん。お願い致します」
女性が頷けば、つぼ浦は女性の左手にそっと触れ、その白い肌の親指にリングを通した。
『貴方の信念が実を結びますよう、心より願っております』
「!、ふふっ、お上手ですね。ありがとうございます。つぼ浦さん」
にこやかにお礼を述べる彼女の手を握り直して、そのまま店を後にする二人。
「ありがとうございました。…ふふ。あちらの方々は大丈夫でしょうか?」
「…いやー。だめじゃない?」
そんな事を言っている間にも、大人な雰囲気に飲み込まれ脳がキャパオーバーした人間がバタンっ!とまた一人、二人とぶっ倒れる。
「しっかりしろぺいんくん!」
「だっ、だめだ、俺はもうダメだッ、あんなん、あんなんつぼ浦じゃねぇよっ、誰だアイツ!、イケメンがよぉお!」
「オルカもだめだぁ、誰か運んでくれ〜」
同期の知らぬ一面を直で見てしまったオルカが、マンゴーにおぶられ“ありがと〜”とふにゃふにゃに礼を述べる。
「じゃあ帰ります。お騒がせしました」
「またの御来店お待ちしております」
ラピスりおがリーフレットを回収し、小さくひのらんやオルカに手を振る。
これだけ騒がしくしておいて何も買わないのは申し訳が立たないので、一応リーフレットで見た宝石を一つ購入してからその場を後にした。
つぼ浦を観察する茶番は複数の隊員のぶっ倒れによりこれ以上の潜入捜査は不可能ということになった為、本署に帰り幕を閉じる形となる。
「お。帰ってきたか」
本署に帰れば、小さなテレビの前に群がる警察がわらわらと沢山。
「…何してる?」
「つぼ浦だけを画角に収めたギリギリセーフな潜入捜査記録を見てる」
どうやら本署内だけでこっそりと先程の一部始終を見ていたらしい。
保存や共有はしないという約束で署長が許可したとか何とか。
「署長も見たかったかぁ」
「仕方がないな。我にとっては普通の事だが、みんなには馴染みのないものだろう」
「結構当たり前なの?、あぁいう感じ」
青井が皇帝に目を向ければ、皇帝はうんうんと頷いて腕を組む。
「いかなる時も紳士的であれ。そうみっちり教え込まれるからな。互いに心を開けるようになると、別人のように性格が反転するというのは良くある話だ」
「へぇーそうなんだ」
「まぁ、貴族というのは上っ面の関係で成り立っている事が多い。だからそうそう心を開けるような人間には出会わずに、生涯を終えるのがほとんどだ」
「…ふーん。そっか」
あんなに互いを尊重し、微笑み合っていたのに。
「なんか、大変だね」
「…そういうものだから、仕方がないさ」
皇帝は昔を懐かしむかのように小さく息を吐く。
つぼ浦も仕方がないの一言であんなにも自分を押し殺して行動できるものなのかと関心すら覚えた。
まるであのご令嬢を心の底から出会えて嬉しいと、この時間だけは貴方のことだけを考えていたいと、そんなおとぎ話に出てくる王子様みたいな事が出来てしまうなんて、凄くもあるし…裏を返せば自然と言動があぁなるまで、これまで多くの努力を積み重ねてきたのだろう。
二時間、三時間と時が経ち…つぼ浦が本署に帰ってきた頃には、皆のわ〜きゃーと言っていた熱がとっくに冷めて通常の真面目な勤務へと各々がジョブチェンジし終えている。
どうやら第三者視点で見ている分にはかっこいいが、やはりいつものドカーンっとみんなに元気を与えてくれる…そんなつぼ浦の方が性に合っていると口々に署員が言葉を漏らしていた。
『ふぅ…、』
首元のネクタイを緩めながら本署の廊下をコツコツと歩き、ガチャりと更衣室の扉を開ける。
『、あぁ、先客が居たのか。お疲れ様です』
“女じゃなくて助かったぜ…”と薄く笑みを浮かべて、もし女だったらどうなっていた事か…と最悪な結末を迎えそうな予感を頭の中から抹消する。
外から吹き込む柔らかな風に煽られて、カラカラと換気扇が回った。
疲労がどっと溜まった背中で上着を脱ぎ、貰ったピアスをケースに収め、ネクタイを外すために指を引っ掛ける。
しかし、そのネクタイは一向に外されることは無く、しばらくしてからくるりと後ろに顔を向けた。
『……?、』
更衣室のベンチに座ってスマホを眺めるその男が、一向に出ていかないのだ。
『…あの、どうかしたんすか?』
深海のような深い青色をした髪に、ちらりとこちらに視線を向けた瞳もまた青い。
窓の縁からだんだんと消える陽の光にゆらりと照らされて、その表情は一層影を落として深みを増した。
「別に。渡したい物があるから待ってるだけ」
『誰を?』
「君を」
不思議な人だ。
童顔な顔と落ち着きのある声、言葉遣いに特徴はなく、先輩なのか後輩なのかも分からない。
『……、ん。そうか』
このままだと本当に自分の着替えが終わるまでそこに居そうなので、一旦ロッカーの扉を閉めてからその男の真正面に立つ。
「先に着替えなくていいの?」
『いいっすよ。それよりなんですか?、俺に渡したいものって』
つぼ浦がそう問いかければ、男は悩む素振りもなくポケットに手を突っ込んで黒い小さな箱を差し出す。
『?、これって…』
見覚えのある形だった。
パカりと開けばやはりBLUE MOONで発売されている誕生石シリーズの指輪で、エメラルドの宝石がキラリと淡く輝いている。
「それあげる」
『…理由を聞いてもいいか?』
今日一日ご令嬢と過ごしていて、別に殺意や悪意を持った人間とすれ違った記憶はない。
これがもし仮に何かの脅しであったり、忠告であったりするのなら、一刻も早くコイツを捕縛して両親に引き渡さなければ。
「そんな怖い顔しなくても平気だよ。ただの気まぐれだから」
『気まぐれで俺に指輪を渡したくなったってか』
そんな訳の分からない理由で受け取れるほど、俺の思考はまだ馬鹿になっちゃいない。
「はぁ…だから着替えたあとに渡したかったんだよね。今のお前じゃダメだと思った」
困ったように眉を寄せて、軽く頬を指でかく。
「…理由、゙んー、理由ねぇ。そうだな…、強いて言うなら、その指輪の意味で…”幸福”?、だっけ。…お前が、お前らしく、これからも生きていけたらいいなって。そう思ってさ」
“みんな好きだってさ。トラブルメーカーなお前が”
『ぇ、』
それは一体どういう事だと口を開きたかったのに、何故か頭の中ではその意味が理解できてしまっている自分がいる。
トポトポと温かい何かが心臓を満たし、思わずその小さなリングケースをミシリと握りしめた。
「早く戻りな。いつものお前に」
グッと立ち上がった男の背丈は自分より気持ち少し低いくらいかの身長差で、その時ふわりと香った青髪からのタール臭が肺の中でとぐろを巻く。
『っ、てめぇ、』
「喧嘩を売ってるわけじゃない。…君が、近すぎるからこうなった。直ぐにどくよ」
近距離でその瞳を見て、香りを知って、頭の中でピースがパチリとはまる。
無言でこの場を後にしようとするその男の腕を引っ掴んで、そのままズルズルと扉横の壁に後退させて身体を押し込む。
「……なに?」
背中は壁、正面は俺、逃げられないはずだ。
そう、普通の人間であれば。
『いやなに。指輪をくれたお礼でもしておこうかと思ってな。後からいちゃもん付けられても敵わねぇし』
軽くその男の顎に触れて顔を近づける。
その瞬間何をされるのか理解したのか、男は一瞬目を見開いてからグーパンでつぼ浦の肩に強烈な一撃を放ち、特に慌てる様子もなく更衣室を後にした。
『゙いっ?!、、っ…てぇ〜…、、』
ジンジンと痛む肩がやはりそうだと訴えてくる。
あの男は間違いなく……。
『”つぼ浦匠帰ったぜ!、オンデューティー!”』
「「“ナイスデューティ〜!”」」
今日ばかりは誰もが口を揃えて、ガチのマジで心の底からそう呟く。
やはり、うちの(警察署の)つぼ浦匠はこうでなくちゃつまらない。
ひがみが四割、本音が六割と言った所だろうか。
特にぺいんや神子田は本当にいつものつぼ浦に戻ってくれて嬉しい様子だった。
「あいつは絶対ひがみ九割だな」
「…でしょうねぇ」
最初から最後まで騒がしかったぺいんは、誰がどう見ても十中八九そうだろう。
「うん。まぁでもいいか。戻って喜んでいるし、感謝まで述べているし、誰も傷ついてはいない。良い一日だ」
更衣室の扉の前で抱きつかれているつぼ浦を眺めながら、青井とキャップは腕を組んでそれを遠くから眺める。
「おかえりつぼ浦〜っ!、お前よく帰ってきたな゙ぁっ、本当はこっちだもんな!偉いぞつぼ浦〜ッ!」
『ぐっ、なんすか、ッちょっと!、離れろ、マジでッ、゙っ、だァッ!さっさとはなれんかァいッ!』
ぺいんをマンゴーたちの輪にポーンッと薙ぎ払い、つぼ浦は青井とキャップが佇む方へと一直線に走り込む。
「あ。これまずいか」
先に何かを察した青井がキャップの横に1マス空間を作れば、つぼ浦は駆け込む勢いを止めることなく、そのままグッと体制を低くして流れるようにスライディングをぶちかました。
「ぐわぁぁああっ!」
『ヒットーッ!』
つぼ浦は明るい声色でそれはそれは楽しげに笑みを漏らし、何事も無かったかのように青井に話しかける。
『あぁそういえばアオセン、俺アンタに言いたい事があるんすけど、朝の俺と今の俺、どっちなら最後まで聞いてくれる可能性高いっすか』
「?、朝だったらどうなるの?」
『連行して誰も居ない場所探します』
「今だったら?」
『このまま話します』
「えぇー…、」
意味のわからない二択を最初から最後まで丁寧に聞いては見たものの、やはりつぼ浦の言っている事は未だによく分からない。
「あー、連行は流石に困るから。今がいいかな」
青井がそう答えれば、つぼ浦はまた無邪気な笑顔をパッと咲かせて一歩距離を詰める。
『じゃあそうします』
青井の左手をぎゅっと握って、黒革のグローブを手際よく外す。
「…つぼ浦、なにしてるの?」
理解できないその行動心理を読み解こうと、いつも以上にゆっくりと尋ねる青井。
『わ、アオセン意外とゆび細いっすね』
「…そうだねー」
まるで子どもの戯言《たわごと》を聞くかのように、その声はとてもなだらかだ。
『ん、っと、あった。アオセン、じゃあこれアンタに返します』
「……ん?」
みるみるうちにキュッと左手の中指にはめ込まれるエメラルドの指輪を見つめ、青井の思考が一瞬停止する。
『俺も、アンタとずっと、こうやって生きていけたら良いなって思います。なにより、俺はこの色が好きだからアンタに持ってて欲しいんだ。アオセン』
青い鬼の被り物、その先に居る青い瞳をじっと見つめ、つぼ浦は嬉しそうにくくくっと喉を鳴らす。
『たとえ気まぐれでも、俺を思い浮かべて買ってくれた事には変わりないと思うから。ありがとな、アオセン』
尊敬してやまない先輩の名前を何度でも呼び、その手をクイッと手前に引く。
その以外にも大きく、細い指先を撫でながら…つぼ浦は軽くその手の甲にキスを落とした。
「ぇ、え、゙えっ、ぇえええ゙えッ!!」
本日二回目のぺいんの叫び。
「………あー…、バレてたか…」
『煙草の匂いで分かりました』
「スゥーーー…そっかぁ…、なるほどね」
こればかりは完璧に青井の甘い選択ミスである。
「…俺が持ってていいの?」
『はい!、アンタに持ってて欲しい』
信頼を寄せたその瞳で、つぼ浦はまた無邪気に笑みを浮かべて花のように笑った。
青い気持ちを捧げる[完]