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教室に入ると、いつもと変わらない朝のざわめきが広がっていた。
けど、ゾムにとってはどこか音が遠く、世界に膜が張ったような感覚だった。
──あの夜から三日。
家に来たロボロとシャオロンの顔、
アルバムを見たロボロの曇った表情、 「これ、ゾムやんな? で、こっち……俺?」 と自信なさげに呟いた声、 何もかもが胸に刺さったまま、まだ抜けていない。
「……よし」
自分に言い聞かせるように小さく呟いて、ゾムは席に向かう。
ロボロはすでに席についていて、窓の外をぼんやり眺めていた。
声をかけようとして、何度かためらった。
けど、このままじゃ何も変わらない──そう思って、ゾムはゆっくり近づく。
「なあ、ロボロ」
呼びかけると、ロボロは顔を向けた。目が合う。少しだけ緊張してるようにも見えた。
「ん?」
「……今度の土曜、空いてる?」
「え?」
「ちょっと、出かけへん? 前にも行った場所。遊園地、覚えてへんかもしれんけど」
その言い方に、ロボロは一瞬戸惑った顔をした。でも、少し考えて、ゆっくりと頷いた。
「……うん、ええよ。行こか」
ゾムはふっと力が抜けたように、小さく笑う。
「じゃあ……また連絡するわ」
それ以上、何も言わなかった。
本当は「思い出してほしい」って言いたかったけど、それは言葉にしちゃいけない気がした。
彼が思い出すのは、あの場所の空気と、道筋と、自分の心でなきゃいけない
そうじゃないと、意味がない。
チャイムが鳴って、生徒たちが席に戻りはじめた。
ロボロは最後にもう一度、ゾムの方を見て、何か言いたそうな顔をしたけど……何も言わずに前を向いた。
ゾムはその背中を静かに見つめていた。