庵の告白に司狼の中の何かが切れた。先程話のタネに使ったゴムの個包装を破り、自らに着けると庵を仰向けにして両膝を腹の方に押さえつけた。本来の庵ならこのような仕打ち、恥辱さに耐えられないような性格ではあるが、場の雰囲気に流されてすっかりまな板の鯉と化していた。そんなこわばった体をほぐすように入念に愛撫していくと、恍惚とした表情が徐々に蕩けていく。
「そろそろか……キツかったら言えよ」
「どうせ……言っても止めない気がする……」
「分かってんじゃねーか……始めんぞ」
自分の中に司狼の体が入っていく。無理やりこじ開けられた体の深部からつま先、脳の果てまで甘く激しい痺れに包まれた。これは気持ちいいとか悪いとかじゃない。それ以前に表現する言葉を見つける余裕など無く、ただ情けない声を漏らし続けることしか出来なかった。完全に雌としての振る舞いを続ける庵にかつてない興奮を覚えた司狼は砂で出来た像を抱くよりも優しく、丁寧に動き始めた。感度が上がりきっている庵からすれば司狼の一挙手一投足に過敏に反応してしまうため、最も敏感な部位を弄られると意識が飛びそうになる。そうして気を失いそうになる所で強引に舌が絡んでくる。下腹部と口の中に同時に刺激を受け、相手の右手は自分の頭の下から押さえつけ、左手は常に自分の身体中を撫で回され続けている。すでに痕をつけられた所は全て弱点となっていたので太ももなどは撫でるだけで果ててしまうほど“開発”された体になってしまった。
その後も互いの体にマーキングしあった2人はいつしか用意していた全ての道具を使い、全身を使い相手の体を堪能しきっていた。庵の口にはずっと司狼の余韻が広がっていた。司狼はそんな庵に、互いの汗や唾液で塗れた体で覆いかぶさった。
「一度も“やめろ”って……言わなかったな……」
「そ、それは……舌……入れられてたから……」
耳元で囁かれ、小刻みに吐息を漏らしながら庵は答えたが、本当は途中で庵から舌を絡めるようになっていた事に気づき、司狼にとってはそれもまた堪らなく愛おしかった。
「照れ隠しとか可愛いじゃん、もっかいしよ♡」
「もう……出来ない、ってばぁ……」
そう言いながら体は受け入れる体制をとっていた。
「やっぱ庵は淫乱だな」
不敵な笑みを浮かべて司狼は咥えていた個包装を開けた。
気づくと4時間が経っていた。お互いぐちゃぐちゃに乱れきって睡魔に襲われかけている庵にイタズラ心を刺激された司狼は庵を抱き寄せた。
「何寝ようとしてんの、庵。まだ終わらせねぇよ?」
「ぼく……もぅ……限界、なんだ……眠いよ……」
「じゃあ起こしてやるよ……っ」
そう言いながら司狼は庵の首筋を舐めた。吸われるのとは別の感覚に襲われて、また庵の体が粟立っていた。
庵と負けじと首に痕を付けていたが思うように付けられず、落ち込みながら脳裏には司狼経験数とそれだけの相手が自分の前に居たという劣等感が過ぎっていた。しかし、そんな庵の崩れそうになる心を司狼は見逃さなかった。
「付け方教えてやるよ。お前にだけ、な?」
その後、司狼の体で何度も練習してやっと首元に綺麗なキスマークを付けることができるようになった。
「これでしろーはぼくのものだぁ〜えへへ〜」
「〜〜っ、やっぱお前すげーえろいわ」
しかし今度は手を出す前に庵の限界が来てしまった。次の瞬間には庵は大きな寝息を立てて裸で夢の中へと潜り込んでいた。そんな庵に布団をかけ、風邪をひかないように抱きしめながら司狼も寝ようとすると隣から寝言が聞こえてきた。
「ん……しろーに全部たべられちゃったぁ…… でも……“証明”、してくれてうれしかったなあ……」
そのまま寝息を立て始めた唇に、司狼は産まれてから最も優しい口付けをした。
「なんで裸なんだああああああああ!」
「うるせぇんだよ耳元で!!!」
午前10時、いきなり叫ぶ庵に司狼が怒鳴る。
「アンが先に寝たのが悪ぃんだろうが!」
「うるさいケダモノおおおおおおおおおお!」
「お前の方がうるせえんだよおおおおおお!」
司狼は近隣の迷惑にならないことを祈りながら急いで風呂場に向かう庵を眺めていた。
「うわっ、お前体中に……つけやがったな!!!」
「何をつけたってー?!」
「キs……絶対言わないからなばーーーか!!!」
司狼は頭を掻きながら昨日脱いだ服を洗濯機に入れ、こっそり風呂場に入り込もうとしていたが、突然のくしゃみに逆らえなかった。
「あっ!しろー!お前絶対、の、覗くなよ!入るのはもっとダメ!」 「あ゙〜。うるぜぇ……。クソ、風邪ひいたわ」
「体も拭かないで寝るからだ……ックシュ。……あれ?」
お互い風邪だった。裸で寝た庵の風邪が横にいた司狼に伝染ったのだろう。
「あー、これはアンのせいだな、看病しろ」
「僕も病人だし、今日誕生日なんだが!?」
思い出したように笑う司狼に庵はへそを曲げる。いつもの流れでいつものオチ。そうなるといつも最後は食卓を囲んで仲直りをするのが二人の仲で定番になっていた。
「そうだったかー?……って冗談だよ、ちゃんと覚えてるって。雑炊でいいか?作っとく」
「……卵焼きも食べたい、明太子入れるヤツ」
「あいよ、ハニー。楽しみにしてろよ〜」
そうして司狼は裸のままキッチンに立ち、庵が上がる前に雑炊を作った。その最中にとあることを考えながら。
一方庵は湯船に浸かっていると、台所から卵の匂いが漂ってきた。美味しそうな香りに期待を膨らませる中でふとこんな事を思った。
「「後でアイツに口移しで食べさせてやろう……!」」
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後書きに代えて
立喰 司狼(たちばみ しろう)
名前からしてタチの狼。ヤンチャでゴロついてたけど設定は激重。両親からのネグレクトと親戚からの性的虐待のサバイバー。けどえっちはだいすき。ノンケだったけど庵抱いたら相性抜群でイケちゃった。
夏目 庵(なつめ いおり)
吾輩は猫である、の夏目先生と中性的な名前をイメージ。元は裏設定が激重だったけどやめました。幸せであれ。あれから司狼との × × × 中毒状態で、毎晩求めるししないと拗ねる。
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