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数日後、武司、麗子、美咲はリビングのソファに座り込み、今後の事を話し合った。美咲が頭を抱えて悲痛な声で言う。
「25年も前にあたしのやった事が、今こんな結果になるなんて。あたしがタケちゃんを不幸にするなんて!」
麗子が冷静な口調で訊く。
「美咲、よかったら話して。卵子の凍結保存をしてたのは知ってるけど、武司君が生まれた時に廃棄してもらったんじゃなかったの?」
「本当は売ったのよ」
「売った?」
「タケちゃんを妊娠している最中にアメリカ発の世界不況が起きたでしょ。あたしも麗子も収入が激減して途方に暮れてたよね」
「そうだったわね。何とかなりはしたけど、あの頃は食べるだけで精一杯だった」
「その時に、凍結保存しているあたしの卵子を買い取りたいという話が来たの。その買い手が、あのエージェント・ストークという団体だった」
武司が不審そうな表情で訊き、麗子が答える。
「卵子を売ったって、そんな事できないはずじゃ?」
「あの頃は精子や卵子の売買を規制する法律や制度が日本には無かったの」
「じゃあ、僕が生まれた精子は?」
「あれはアメリカのきちんとした会社をあたしが念入りに確認して買ったの。精子の提供者の身元確認、将来の面会なんかを完璧に管理していて、今でも存続してる。武司君も何度もアメリカへ、遺伝子のパパに会いに行った事あるでしょ」
「うん。なんか変な感じだったけど、自分のルーツがちゃんと分かって安心できたよ」