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一行はようやくギルドの追手を振り切り、森の中の古びた小屋に身を潜めていた。疲れ切ったローザリンドが焚き火のそばで座り込み、ため息をつく。
「はぁ…追手も避けられたけど、この先どうするの?資金も尽きてきたし、食料も残り少ないわ。」
フィンがポケットをひっくり返すと、わずかなコインが音を立てて転がった。
「これが全部だよ。…明日からどうやって生き延びる?」
ドーベンはじっと火を見つめながらつぶやく。
「お嬢様、私に一つ提案があります。」
「何よ、ドーベン?」
「次に訪れる街で、私がギャンブルに挑戦します。」
翌日、一行は隣町の薄暗い酒場に足を踏み入れる。そこはギャンブル好きたちが集まる危険な場所だった。テーブルごとに人々が札束を賭け、喧嘩が起きる寸前の空気が漂っている。
「ここで勝てるのか?」フィンが不安そうにささやく。
「心配ありません。」ドーベンは落ち着き払った様子で答えた。
「私には必中があります。カードの配列をすべて計算し、勝利することは可能です。」
「でも、それってズルじゃない?」ローザリンドが眉をひそめる。
「命をつなぐための手段です。」ドーベンは真剣な表情で答えた。
ドーベンは中央のテーブルに座り、豪華な服を着た男たちに囲まれた。彼らはこの酒場で最強のギャンブラーたちだった。
「新人がこんな場に来るとはな。命知らずめ。」豪華なマントをまとった男が挑発的に笑う。
「勝負を始めましょう。」ドーベンは無表情でカードを配り始める。
勝負が進むにつれ、ドーベンは淡々と勝利を重ねた。その圧倒的な正確さと無駄のない動きに、周囲の観客も次第に息を呑む。
「おい、こいつ…本当に人間か?」
「カードすら見ないで動いてるぞ!」
ドーベンはすべての賭けに勝ち、膨大な金貨を積み上げた。しかし、最後の対戦相手は、一筋縄ではいかない男だった。
「さて、新人。これが最後の勝負だ。」対戦相手の名はヴィクター。酒場で最も恐れられるギャンブラーだ。
「ルールは簡単だ。命を賭けようじゃないか。」ヴィクターは冷酷な笑みを浮かべる。
「命を賭ける?」ローザリンドが叫び声を上げた。
「待て、ドーベン!そんな条件を飲む必要はない!」フィンも慌てる。
「お嬢様、必要な賭けです。」ドーベンは静かにテーブルに座り直した。
「ここで勝てば資金を手に入れるだけでなく、街での安全を確保できます。」
「だが、負けたら?」ローザリンドが問い詰めるように聞く。
「その場合、私は命を失うだけです。」
「そんな簡単に言わないで!」
勝負が始まり、ドーベンはいつものように冷静だった。しかし、ヴィクターも並外れた技術を見せつける。
「お前、ただの従者じゃないな。剣も強いが、ギャンブルでもこれほどとは。」ヴィクターがニヤリと笑う。
「それはどうも。」
最後のカードが配られた瞬間、ドーベンの目が鋭く光る。
「必中はギャンブルでも適用される。」彼はそうつぶやきながら、カードをそっとテーブルに置いた。
「フルハウスだ。」
観客が一斉にざわめく中、ヴィクターは驚きの表情を浮かべた。
「なんてこった…こんな手で俺を打ち負かすとは。」
ドーベンは金貨の山を抱えてテーブルを立つ。ローザリンドとフィンは駆け寄り、安堵の表情を浮かべた。
「ドーベン、すごいじゃない!これで資金は十分よ!」ローザリンドが笑顔を見せる。
「だが、彼らは私を完全に信用していない。」ドーベンは周囲の観客を鋭く見渡す。
「今夜中にこの街を出なければ、追手が再び現れるでしょう。」
「せっかく勝ったのに、また逃げるのか?」フィンがため息をつく。
「ギャンブルとは、勝った瞬間に次のリスクが始まるものです。」ドーベンは静かにそう言うと、荷物をまとめ始めた。