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朝。
リビングにはまだ柔らかい光が差し込む。
ブランケットを肩からはずすと、こさめと手を繋いでいた温かさが、残っていた。
「……おはよう」
いるまがそっと声をかける。
テーブルに並んだ朝ごはんを前に静かな動作で座る。
まだ少し眠かった。
でも、今日は動けそうな気がした。
「……座ってもいい?」
小さな声。
「もちろん」
こさめが隣の席を指す。
いるまももう一方に腰を下ろす。
――挟まれる。
その安心感は言葉にできない。
俺は手をテーブルの上に置いた。
自然と、こさめといるまの間にいる自分が居心地よく感じられる。
すちが向かいで静かに食べ始める。
LANは少し離れた席で、考えごとをしているように見える。
みことは窓際に立って、外を眺める。
誰も急かさない。
誰も焦らせない。
箸を持つ手が少しずつ動く。
ゆっくり、味を確かめながら食べる。
「……これ、美味しい」
小さな声。
でも、自然に出た。
こさめがちらっと見る。
目を細めて、微笑みはしないけれど、確かに喜んでいる。
いるまも軽く頷いた。
感情の揺れがわずかに柔らかく見える。
箸を置くたびに、こさめといるまの顔を見る。
二人の距離に自然と安心感が生まれている。
――ここにいていいんだ。
心の奥で静かに思う。
ゆっくり、噛みしめるように、朝ごはんを食べる。
誰も邪魔しない。
でも、みんなが見守ってくれている。
そのやさしい空気の中で、
胸は少しずつ、軽くなっていった。
食器を片付けたあと。
俺はまだテーブルに座ったまま、手を握りしめていた。
「……なつ、手伝ってくれる?」
いるまの声。
いつも通り、強くない。
押し付けでもない。
ただのお願い。
少し考える。
手を出すのは怖いことじゃない。
でも、まだ自信はない。
こさめが横で静かに頷く。
「手伝ってくれるなら、嬉しいな」
その言葉に、少しだけ背中を押される。
手を伸ばす。
布巾を持つ指先が、少し震えた。
「……こう?」
ふたりに見守られながら、皿を拭く。
こさめの視線は温かく、
いるまは少し微笑んでいるように見えた。
「うん、そう」
小さな肯定が胸に落ちる。
――間違っても怒られない。
間違っても責められない。
「……なつ、自分から動けたね」
いるまが静かに言う。
褒めるのではなく、事実として。
頬を少し赤くして、でも、口は開かない。
心の中でただ喜ぶ。
「……もう少し、ここにいよう」
こさめの手が軽く手を包む。
握らない、けれど離さない。
リビングには朝の光と静かな家族の息遣いだけがある。
――誰にも押されず、でも、守られている。
俺は少しずつ、自分から距離を縮める。
その一歩一歩が、嘘じゃない温かさの証だった。
夜。
一日中、リビングでゆっくり過ごした。
朝から昼、昼から夕方、そして夜。
最初は平気そうに見えたけど、だんだん顔が赤くなり、手足も冷たくなっていく。
「……なつくん、大丈夫?」
こさめの声が耳元で柔らかく響く。
膝に頭を乗せていた昨日の感覚が今も残っている。
首を横に振ろうとするけど、体が思うように動かない。
「……熱、あるな」
いるまがそっと額に手を当てる。
表情は変えず、でも、体温を確かめるその手は優しかった。
「少し横になる?」
みことが未来を確かめるように、静かに言う。
すちも、布団を持ってきて静かにソファの横に広げる。
LANは少し離れて、必要なものだけ準備する。
――みんな、忙しなく動くけど、押さえつけない。
俺は弱々しく頷いた。
こさめがそっと手を握る。
握らない、でも離さない。
「……あったかい」
小さな声。
膝に頭を乗せていた昨日とは違う、
体全体に伝わる温かさ。
こさめは何も言わずに手を添える。
いるまもそっと毛布をかけてくれる。
その温度は、嘘じゃない。
守られている、という確かな温度だった。
俺は目を閉じた。
体はだるくても、心は軽くなる。
触れてくれる手も寄り添ってくれる存在も、
間違いなく、自分のためにあるものだと分かる。
そのまま、静かな夜がゆっくり流れていった。
――怖くない。
安心して、眠れる夜だった。