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#キモくても多めに見てちょ
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朝。
リビングにはやわらかい光が差し込む。
昨日の夜より少し明るいけれど、まだ眩しすぎない。
俺はソファで目を覚ました。
熱は下がっている。
体は軽くなり、少しだけ元気を取り戻していた。
「……なつ、朝ごはんだよ」
いるまの声。
手伝わなくてもいい、急がなくてもいい、そんなやさしい呼び方。
目をこする。
でも、昨日みたいに動くのが怖くない。
手を伸ばせば、こさめといるまがそばにいるから。
「……座ってもいい?」
自然に聞く。
こさめが隣、いるまがもう一方。
挟まれる安心感は昨日よりさらに心地いい。
「うん、ゆっくりでいいよ」
「無理しなくていい」
二人の声に笑顔はなくても、温度がある。
手を置けば、軽く触れ合う。
握らなくても、離さなくても、十分に伝わる。
箸を手に取り、ご飯を口に運ぶ。
一口一口、味を確かめながら心が少しずつ開いていく。
「……美味しい」
小さな声。
でも、自然に出た。
こさめもいるまもちらっと目を合わせて微笑む。
口には出さないけど、ちゃんと喜んでいるのが分かる。
ゆっくり、噛みしめる。
誰も急かさない。
でも、みんなが見守ってくれている。
俺は、思う。
――ここにいていいんだ。
――ここで、守られているんだ。
手を軽く重ねたまま、朝ごはんを終える。
リビングには家族の呼吸と、
温かい光だけが残った。
そして、今日もまた、
静かに一日が始まる。
午後。
太陽は高く、家の中の光も少し強くなっていた。
俺はこさめといるまに手を引かれて、外に出ることになった。
「……外、久しぶりだな」
小さな声。
まだ少し緊張している。
こさめは静かに頷く。
「無理に走ったりしなくていい」
いるまも隣で手を添える。
――触れられる距離に安心がある。
三人で歩き出すと、風が顔に触れる。
路地の向こうで少しだけ妖怪がちらりと見えたけど、怖くはない。
手を握らなくても、こさめといるまがそばにいる安心感が体を支えていた。
「……あ」
突然、足元に小さな石が転がる。
よろけそうになった。
「大丈夫?」
こさめが腕を添え、軽く支える。
いるまもすぐに手を貸して二人で支える体制を作る。
「……うん、大丈夫」
小さく返事。
でも、心臓は少し速くなる。
――怖かったけど、守られている。
歩きながら、ふと目にしたのは小さな猫の影。
こっちをじっと見ている。
「……かわいい」
つい声が出る。
いるまもこさめも笑わず、でも目が柔らかくなる。
路地の角を曲がると、小さな水たまりに石が落ちて、音が跳ねる。
思わず避けようとしたけど、こさめの手といるまの手が同時にそっと体を支えてくれた。
「……危なかった」
息を整えながら、三人で少し笑う。
昨日までなら外でこんなふうに笑うことも、支えてもらうことも、考えられなかった。
「今日は、このくらいにしようか」
こさめが静かに提案する。
「うん」
いるまも頷く。
三人は手を軽く握ったまま、ゆっくり家に戻る。
外の空気も、音も、光も、昨日よりも怖くない。
――温かさがそばにあるから。
家に戻ると、リビングにはまだ昼間の柔らかい光が残っていた。
小さなハプニングも温かく守られた体験になったのだと、初めて分かった。
午後。
三人は、もう一度外に出た。
ゆっくりと外を歩く。
空は明るいけれど、どこか雲が厚くなっているのが見える。
「……天気、ちょっと怪しいかも」
いるまが空を見上げる。
風が少し冷たくなってきた。
「え、なんで?」
小さな声で問い返す。
まだ外の空気に慣れていない。
突然、パラパラと雨粒が落ちてきた。
「あ、雨……!」
思わず立ち止まる。
「大丈夫、すぐに行こう」
こさめが静かに言い、そっと肩に自分の上着をかけてくれる。
「寒くない?」
いるまも隣で手を添え、体を少し寄せてくれた。
――温かい。
布越しじゃない、手と体の温度。
頭で理解する前に体が安心を覚える。
雨粒が強くなってきた。
思わず小さく体を縮める。
でも、こさめといるまが同時に手を添えてそばに寄せてくれる。
「大丈夫、逃げないから」
こさめの声は低く、でも確かに心地よい。
いるまも頷いてゆっくり歩きながら家に戻る。
道に落ちる雨粒の音。
街のにおい。
いつもなら怖いはずの光景も今日は違う。
守られていることが全部をやさしくする。
家に着くと、三人は濡れた服を着替え、ブランケットに包まる。
ふとこさめの手に触れ、軽く握ってみる。
「……ここは、安心だ」
小さな呟き。
こさめは笑わず、でも手を離さない。
いるまも隣で静かに微笑む。
――雨に濡れた体は冷たいのに、心は温かい。
――触れる温度は、嘘じゃない。
初めて、外の世界で心から安心を感じた。