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「ほくと」(𝓡𝓲𝓷)『ジェシー』(友達)「じゅり』(友達)
『あ!今の後ろ姿、優吾かな……いや、違うな。あ、あっちの髪型は……!』
大通りの安全なルートに入った瞬間から、ジェシーの目は完全に泳いでいた。
右を向いてはキョロキョロ、左を向いてはキョロキョロ。
長身の体を不自然に揺らしながら、人混みの中で優吾先輩の姿を血眼になって探している。
「……なあ、北斗』
急に樹が、僕の肩に腕を回したまま耳元でニヤニヤと囁いてきた。
「あいつ、マジで歩き方不審者すぎて一緒にいるのちょっと恥ずかしいわ。……今のうちに置いてかない?』
「は?いや、さすがに置いていくのは可哀想だろ。待ち合わせしたんだから」
一応は良識派として止めてみたものの、樹の悪巧みに満ちた楽しそうな目は完全に本気だった。
「いーのいーの。ほら、置いてくぞー』
「ちょっと、引っ張るなって……うわっ!?」
樹は僕の腕をグイッと強引に引いて、一気に歩調を速めた。
僕はこれ以上進むまいと、靴の底が擦り切れる勢いで地面を踏ん張って抵抗した。
……が、朝の肩組の時と同様、僕のささやかな腕力など目の前のチャラ男には一ミリも通用しない。
「あはは、北斗まじで抵抗の仕方が子犬(笑)必死に踏ん張ってる割に、ズルズルついてきてんだけどー?』
「っ……!うるさい!お前が無駄に強すぎるんだよ、離せ……っ!」
必死の訴えも虚しく、僕はまるで捕獲された子犬のように、樹にズルズルと引きずられていく。
「……っ、もうマジでいい加減にしろ!」
あまりのウザさと腕の重さに限界を迎えた僕は、意地になって自分の体をひねり、樹の脇の下をくぐり抜けるようにして、強引にその腕の中から自分の体を引っこ抜いた。
「お、脱出成功?(笑)』
ニヤニヤと笑う樹から、僕はこれ以上捕まるまいと二歩ほど距離を取る。
「……はぁ、マジで疲れた。お前のせいで朝から無駄に体力使ったんだけど」
ようやく樹の腕から解放された僕は、乱れた制服の襟元を直しながら、大きくため息をついた。
「あはは、お疲れー(笑)』
ちっとも反省していない樹の横で、僕ははるか後方に残してきたジェシーの姿をチラリと振り返る。
人混みの向こうで、まだ長身の体をキョロキョロと不自然に揺らしているのが見えた。
「……それにしても、ジェシーって本当に分かりやすいよね」
「だな。あんなに直球で先輩のこと好き好きオーラ出せるの、ある意味才能だわ。北斗はあいつの恋バナ、毎朝付き合ってんだろ?お疲れ』
「本当に疲れてるよ。特に今日は、朝から誰かさんにだる絡みされたせいで一段とね」
「あ、それ俺のこと?』
「自覚あるなら今すぐ反省して。……まぁ、ジェシーに関しては呆れることも多いけど、見てて飽きないからいいよ」
そんな話をしながら樹と並んで歩いていると、後ろの方から、聞き慣れた大きな声が響いてきた。
『あーーーッ!!!ちょっと二人とも!?待ってよ!!』
慌てて長い足をバタバタさせながら、猛スピードで追いかけてくるジェシー。
周りの生徒たちが何事かと振り返る。
「声が大きいってば!」
『ひどいよ北斗!樹も!俺が優吾を探すのに夢中だからって!』
「いや、お前が遅すぎるんだよ。ほら、早く歩かないとチャイム鳴るぞ』
樹に頭を小突かれ、ジェシーは『うぅ……』と口を尖らせながらも、僕の左側に回り込んで無理やり腕を回してきた。
これで右には樹、左にはジェシーという、僕が二人に挟まれる最悪のサンドイッチ構造が完成し、再び三人で歩き出した。
「ちょっとジェシー、前見て歩けって。あと単純に挟まれて狭い」
『いーじゃん、こうすれば二人とも俺を置いていけないでしょ!』
さらに最悪なことに、右側にいた樹まで「お、じゃあ俺もー』とニヤニヤしながら僕の右肩に腕を戻してきた。
せっかくさっき必死の思いで樹から脱出したというのに、わずか数十秒で、僕は左右を高身長男にガッチリと固められた最悪のサンドイッチ構造へと逆戻りした。
「……っ、ふざけんな、両方ともマジで離れろ……っ!」
僕は再び脱出を図るべく、体を必死にジタバタとよじり、今度は二人を左右に押し退けようと腕に力を込めた。
ーーが、右の樹はニヤニヤと余裕の笑みを浮かべて密着してくるし、左のジェシーにいたっては『え?なに北斗、ダンスの練習~?』とでも言いたげな無邪気な顔で、びくともしない壁のように僕をホールドしている。
二馬力になった高身長男たちの圧倒的な肉壁を前に、僕の非力な抵抗は完全に無力化されていた。
一ミリも動けない。
「あははは!見てジェシー、北斗が本気でジタバタしてる(笑)』
『AHAHAHA!北斗なにそれ、カブトムシがひっくり返ったみたいでウケるー!』
「……っ、誰がカブトムシだ!笑ってないでどけ!」
ゲラゲラと楽しそうにハモる二人の笑い声が、僕の頭にガンガンと虚しく響き渡る。
この騒がしさに、僕はただ頭痛を堪えるしかなかった。
僕のささやかな抵抗の歴史は、大型犬の乱入とチャラ男の便乗によって、あっけなく悲惨な敗北で幕を閉じたのだった。
コメント
5件
樹くんに子犬みたいにズルズル引きずられる北斗くん、さらに左右から挟んでくる高身長コンビ……もう完全にお笑いでした(笑)「カブトムシがひっくり返ったみたい」の例えに吹き出しました。ジェシーくんの恋する必死さも可愛くて、この三人のうるさくて温かい空気感がたまらないです。次話も楽しみにしています!