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ゆゆゆゆ
ゆゆゆゆ
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「……」
チャンスは、ソファの上で目を覚ます。
見慣れない天井。
いや、正確には——
“見慣れ始めた”場所。
「……はぁ」
ゆっくり息を吐く。
体が、重い。
だるい、というより
使い切った後の重さ。
「……マジかよ」
小さく呟く。
腕を持ち上げる。
わずかに震える。
指先まで、感覚が残っている。
(……やりすぎだろ)
昨日の記憶が、途切れずに繋がる。
途中で切れていない。
全部、覚えている。
「……は」
乾いた笑いが漏れる。
「普通、ここまでやるか?」
自分でも呆れる。
だが——
嫌じゃない。
むしろ
(……悪くねぇ)
その感覚が、残っている。
ゆっくりと体を起こす。
首元に違和感。
無意識に触れる。
「……まだ残ってるな」
指先に感じる、わずかな凹凸。
完全には消えていない歯型。
数日前のものに、さらに重なったような感覚。
(しつこいな)
だが、その指はすぐには離れない。
軽くなぞる。
昨日の記憶が、鮮明に蘇る。
距離。
圧。
逃げ場のなさ。
そして——
自分が崩れた瞬間。
「……チッ」
舌打ち。
だが弱い。
(完全にやられたな)
認めるしかない。
あそこまで押し切られたのは初めてだ。
普通なら腹が立つ。
負けた、ってなる。
でも
「……楽しかったな」
ぽつりと漏れる。
その言葉に、自分で少しだけ止まる。
「……は?」
眉をひそめる。
「何言ってんだ、俺」
だが否定しきれない。
あのギリギリの感覚。
崩れる直前の、あのライン。
あれは——
完全に“当たり”だった。
「……やばいな」
ソファに背を預ける。
天井を見上げる。
「ハマるやつじゃねぇか」
小さく笑う。
自嘲気味に。
だがその時——
視界の端に、黒が映る。
「起きたか」
低い声。
チャンスがゆっくり顔を向ける。
そこに、マフィオソ。
すでに身支度は整っている。
だが——コートはまだ着ていない。
シャツ姿のまま。
だが——
チャンスの視線が、ふと止まる。
背中。
シャツ越しに、わずかな乱れ。
(……あそこ)
昨夜、自分が掴んだ場所。
「……おい」
チャンスが声をかける。
「背中」
マフィオソは一瞬だけ動きを止める。
「何だ」
「見せろよ」
少しの沈黙。
だが拒否はしない。
ゆっくりと背を向ける。
シャツの背中。
うっすらと残る線。
爪の跡。
完全には消えていない。
「……は」
チャンスが笑う。
「ちゃんと残ってんじゃねぇか」
「お前のものだからな」
淡々とした返答。
だが、その言い方。
軽くない。
チャンスの眉がわずかに動く。
「……何だそれ」
「事実だ」
マフィオソは振り返る。
その視線はまっすぐ。
「消えるだろう」
「そりゃな」
「だが」
一歩、近づく。
距離が詰まる。
「消えるまでには、少し時間がかかる」
「……は」
チャンスが笑う。
「いい気味だ」
軽く言う。
だがその声には、どこか満足感が混じる。
「お前も同じだろう」
「……」
一瞬、沈黙。
チャンスは首元を指で叩く。
「まぁな」
隠す気はない。
でも、見せつける気もない。
微妙なライン。
「で?」
チャンスは立ち上がる。
まだ少しだけ体が重い。
だが問題ない。
「次はどうする?」
マフィオソは少しだけ目を細める。
「もう次の話か」
「当たり前だろ」
チャンスは笑う。
「一回で終わるわけねぇじゃん」
その言葉は軽い。
だが——
完全に本音。
マフィオソは数秒、黙る。
そして
「……そうだな」
低く答える。
「終わらせる気はない」
その言葉に、
チャンスの目がわずかに細まる。
「奇遇だな」
口元が歪む。
「俺もだ」
沈黙。
だがその沈黙は重くない。
むしろ——
続く前提の空気。
「ただし」
マフィオソが続ける。
「次は少し条件を変える」
「条件?」
「勝負に、別の要素を加える」
チャンスは眉を上げる。
「へぇ」
興味が湧く。
「例えば?」
マフィオソはわずかに間を置く。
そして——
「奪ったものの話だ」
空気が、変わる。
一瞬で。
チャンスの笑みが、少しだけ薄れる。
「……ああ」
思い出す。
あの夜の、最初の因縁。
「まだ諦めてなかったのかよ」
「当然だ」
静かな返答。
「だが」
一歩、近づく。
「それだけではない」
視線がぶつかる。
「お前自身にも、興味が出た」
「……は」
チャンスは笑う。
でも今度は少し違う。
「厄介だな、それ」
「そうだな」
マフィオソも否定しない。
沈黙。
だが——
逃げる気は、どちらにもない。
「いいぜ」
チャンスが言う。
「全部まとめてやってやるよ」
口元が歪む。
「次は、もうちょい面白くしろよ」
「望むところだ」
マフィオソの声が落ちる。
「次は——」
わずかに間。
「もっと深くなる」
その言葉に、
チャンスの目がわずかに光る。
「……いいね」
小さく呟く。
「最高じゃねぇか」
………END