目の前にユウが居た。
気づけば周りは知らない場所で。
でもどこか見たことあるような。
懐かしいような。
そんな気持ちが心には広がった。
『ハグは抱擁でもあり、抱擁はぎゅっと抱きしめることでもある』
ユウはたった一言そう言ってどこかへ歩き出した。
なぜだかユウと離れてはいけないような気がして、頑張って追いかける。
結婚式場のような教会のような場所。
螺旋階段や上下逆さまの階段が幾つもある場所。
酷く重い布団を被った場所。
全て知っている場所だった今通ってきた道。
それらの景色が今言った通りの場所だった。
そして新たな場所、何も無い場所。
何も見えなくて何も無い。
白い世界が広がってるとかそんなんじゃなくて、本当に何も無い。
目には何も映らず。
でも感じる場所。
温かい場所。
ふとユウの声が聞こえた。
『大好きだよ。いつまでも』
どの方向から聞こえたのかは分からない。
ただただ響いて聞こえたから。
返事しようと口を開いた。
だが
『ここじゃないどこかでまた会おうね』
というユウの言葉に邪魔される。
そんな時、また違う声がした。
今度は誰だろうか。
『大好きなんて嘘ばっかり吐かないで』
あ、アイの声だ。
アイは少し冷たくてでも根はきっと優しいんだと思う。
でも後で後悔するんだろうね。
分かる。
そう感じるから。
ユウは明るくて微笑み上手だった。
そんなんだからアイも惹かれたんだろうな。
そんなことを思ってもアイは否定するんだけれどもね。
気づけばアイとユウは添い寝していた。
アイはユウに背を向けながら寝ていて。
ユウはアイを抱き締めている。
しばらく経つとアイはユウの方を向いて抱き締め返した。
ユウの表情はどんなんだろうか。
ユウは今何を思っているのだろうか。
考えているのだろうか。
見ても分からないからそんな疑問が浮かぶんだ。
こちらからは見えない。
アイには見えてるのかな?
数日後、ユウは泣いていた。
声を殺して必死に涙を止めようとする姿を見つけた。
何も出来ない。
ただひたすら見つめることしか出来ない。
こんなユウを見ているアイはどう思っているのかな?
泣かないでとでも声をかけるのだろうか。
それとも加害者であり被害者でもある人達のように自分を浮かべるのだろうか。
『泣いても助けないよ』
たった一言アイは捨て台詞のようにそう言って、その場を離れてった。
気づけば螺旋階段を上がっていた。
いや。
下がっているのだろうか?
錯覚でよく分からない。
この場所は酷く寒くてトゲトゲしている。
なんとも嫌な場所だった。
ここにはユウもアイも居ない。
孤独の螺旋階段。
意味の無い上がり下り。
だけど明日もまたライやァィに逢えるのを待つしかないものだ。
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