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とびたつ夜景に想いを馳せて

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とびたつ夜景に想いを馳せて

12 - バニラアイスのように甘い嘘

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2023年06月06日

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「結局、届きませんでしたね」

「魅麗ちゃん、もういいのよ」

暗い路地を歩きながらそんな話をした。先生たちに促されて、ルカのことを諦めて帰るところだった。もう魅麗ちゃんが家に帰るための交通機関は無くなっていたから、それにあたしもなんだかいつもより人恋しい気分だったから、今夜も泊めてあげることにした。

「なんでですか!なんで!だいたい碧波先輩って毎回突発的なんですよ!なんで屋上から飛び降り自殺なんて!」

「悪いのは止められなかったあたしよ。」

言っていて情けなくなった。あいつがあいつ自身で責任を取るべきだって言えない自分が嫌になった。

魅麗ちゃんは腹を立てているのでなく行き場のない悲しみをどうすればいいのかが解らないのだろうと思った。

「いいの、あいつが死ぬなら死ぬで……。仕方がないことなの。そう、人間いつか死ぬんだもの。それが少し早いから何よ——あたしの命だって同じよ、別にあいつの後を追っても……」

「追わないでください!」

魅麗ちゃんが、強くあたしの腕を掴んだ。

「絶対、許しませんから」

ぐらぐらと、魅麗ちゃんの体の中で何かが煮詰まっているのを感じた。それはきっと、あたしが嫌うようなものだと思う。例えば愛とか良心とか、そんな氷菓のように冷たいもの。

「あたしね、連れて行ってほしかった。上着を脱ぎ捨てたりなんてしないでほしかった。どうせ死へ堕ちるなら」

そこで、あたしは躊躇った。そしてひとつため息をついた。しばらく、冷たい夜の空気が2人の間を通り抜けていくだけの時間があった。

「大丈夫です。わたしは先輩のこと、絶対置いていきませんから」

本当に離さないでほしかった。絶対に。

分かってる、そんな意味じゃないこと。

でも…………



家に着いた。玄関は家を出た時のまま。雨のにおいが部屋に充満している。

「ただいまー」

魅麗ちゃんが楽しそうにそう言って、まるで自分の家のようにしてあたしのことを引っ張っていく。

「あんたね、ここあたしの家なのよ。」

魅麗ちゃんが子供のような笑い声をあげた。

あたしは、家に帰ってきた途端感情が押し寄せてきて、どうしようもなく泣いた。

「あたしの周りにはもう誰もいないじゃない」

「私が付いていますよ」

私が、付いて、いる。

今1人になったら勝手に心臓の鼓動が止まってしまいそうだった。

ご飯を食べている間も、涙の塩味でよく味がわからなかった。

魅麗ちゃんは親切にも、あたしから離れることはしなかった。




魅麗ちゃんが寝静まった後のことだった。あたしは目を覚ました。華奢な横顔がすぐ隣に臥ている。

起き上がると、なんだか辛くなった。

なんで、あたし、あいつのこと、最期まで一度も、大事にしてやれなかったんだろ。

もう少し、一緒にいてやれれば。

もう少し、優しくしてあげられてれば。

もう少し、あたしが強ければ。

ううん、違う。

もう少し、あいつが、普通だったら。

きっと、こんなことには……

みんなみんな、結局ルカのせいだった。全部ルカが悪かった。あたしがクラスでうまくやっていけないのも、魅麗ちゃんが辛い目に遭うのも。

きっと、あたしたちの周りは平和になるだろう。


こんな辛い時でも両親はいない。魅麗ちゃんもそうだけど……

魅麗ちゃんの親はいつか帰ってくる。でも、あたしの親は……

誰もいないんだ。あたしには、何も残らないんだ。何も、何も。



桃畑魅麗

「ピロロン」

スマホが鳴った。


碧波先輩からのようだ。

しかし、携帯電話からは見知らぬ声が流れてきた。

「もしもし?先輩、大丈夫なんですか?それとあのー!」

「ええ、もしもし。すみません、わたしはルカじゃないの」

女の人の声だった。

「いつもお世話になっています。ルカの母です。ルカの容態が急変しました。」

「え、何が起こったのですか」

「意識が失われました。大量出血でいま大変危険な状態です」

「どうして……」

「死にたいっていうルカの言葉に耳を貸してやれなかったからこんなことになりました。魅麗さんには申し訳ない」

「いえ悪いのは私です。それに……とにかく、ルカ先輩に寄り添ってあげてください。私に連絡するよりも、そばにいてほしいです。」

「そうよね。その通り……」

「では、失礼します。」


心臓がバクバクしていた。

でも、よかった、連絡が来たのが私で。

もし螺鈿先輩だったなら…………


「プルル プルル」

螺鈿先輩のスマートフォンを私は取り上げるとすぐにその電話を拒否した。勝手に螺鈿先輩の寝顔をスマートフォンに映して顔認証をすると、着信履歴を削除した。

そうして、夜が更けていくのを待っていた。明日は学校だから、螺鈿先輩には、なにも……

なにも知らないでいてほしい。

誰かに思いを吐き出したくなった。

仕方なく布団の中に潜る。私は大して強くない。でも分かっています、螺鈿先輩、貴女は私に縋りたいんですよね?

だったら、強くならなきゃ、ですよね。

碧波先輩。あなたの代わりに私が螺鈿セイカを守らなければなりません。あなたの意志を継ぐとしたら後輩である私ですから。

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