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「おじさん、これ見ていい?」

「はあ?」


おじさんって誰だよ。俺か?

突っ込みを入れそうになって、やめた。


「いいぞ」


大地が手にしていたのは俺が気に入って集めているマンガ。

少し前のスポーツものだが、学生時代から何度も読み返している名作だ。


「ありがとう」

本棚から数冊を手に取りリビングの床にゴロンと寝転ぶ大地。


子供の頃、ちょうど俺がこの子くらいの頃はかわいげのない子だった。

『なんで俺の家は周りと違うんだ』と文句ばかり言っていて、反抗ばかりしていた。

間違っても『ありがとう』なんて言葉を素直に言える子じゃなかった。


「もうすぐお母さんが来るからな」

「うん」

元気のない返事。


それでも、このまま逃げ続けることはできない。

自分の行動には責任を持たなくちゃな。


***


今日一週間の大阪出張から直帰した俺は、マンションの敷地内にある小さな公園で大地を見つけた。

平日の昼間に小学生が一人でいるのも気になったし、寂しそうな背中が子供の頃の自分と重なって声をかけてしまった。


「僕、一人なのか?」

「うん」

「学校は?」

「・・・休んだ」

「何で?」

「風邪を、ひいて」


嘘つけ、元気そうじゃないか。とは言わないでおこう。


「おじさんはさぼり?」

「はあ?」


生意気な奴だなあ。

でも、かわいい顔をしている。どこかで見た顔なんだが・・・


「俺は出張の帰りで、今日は休みだ」

「ふーん」

「よかったらうち来るか?大阪の土産があるぞ」

「うん、でも」


当然だが、『知らない人について行ったらいけない』と言われているはずだ。

ためらうのが普通の反応だろう。


「こんなところにいたら補導されるぞ」


俺が気になるくらいだから、周りの大人たちの目にもとまったはずだろう。

補導とまではいかなくても、誰かが声をかけるのは時間の問題だ。


「おじさん、ここの人?」

振り返ってマンションを指さす。

「ああ、ここの最上階」

「ふーん」

「来るか?肉まんもあるぞ」

大阪駅で買った肉まんの袋を掲げて見せた。


「え、551?食べたい」


ふっ、かわいいじゃないか。


「じゃあ、来い」


***


マンションについた時点では、大地の素性は知らなかった。

目元と口元に見覚えがあるなとは思っていたが、


「えっ、川田、大地?」

「はい」


名前を聞いて俺の方が動揺した。


「もしかして、お母さんは川田礼さん?」

「はい」


ああ、やっぱり。


「おじさん、お母さんを知っているの?」

「ああ、同じ会社で働いている」

「ふーん」

一瞬マズイって顔をした大地。


どうやら悪いことをしたって自覚はあるようだ。


「なんで学校をさぼったんだよ」

「風邪を」

「嘘だろ」


子供の頃、俺も相当悪ガキだったから大地の気持ちはわかるつもりだ。

それに母一人ってところも同じだし、あの頃の俺を見ているようだ。


「母さんに言うの?」

不安そうに俺を見る大地。


「まさかバレないで済むなんて思っていないだろう?」

「うん、まあ」


きっともうすでに学校から連絡が入っていると思う。

礼さんがどれだけ驚いてショックを受けているかと思うと、かわいそうな気がする。

でも、大地のやり場のない気持ちもわかる。


「お母さんが帰ったら迎えに来てくれるように連絡するから、それまでここにいたらいい」

「わかった」


大地は平気な顔をしているが、本心では不安でしょうがないはずだ。

俺もそうだった。


「さあ、肉まんを温めてやる」

「ヤッター」


やっぱり大地はかわいい。


***


ピンポーン、ピンポーンピンポーン。

玄関のチャイム。


夕方、礼さんが帰った頃を見計らって電話をかけた。

大地がここにいることだけを伝えて、迎えに来るように頼んだ。

それから数分後、俺の部屋のチャイムがけたたましく鳴った。



「いらっしゃい、早かったですね」

「・・・」

挨拶もせずに俺を睨む礼さん。


「何ですか?」

親切にも大地を保護して連絡まで入れたのに、睨まれる覚えはないぞ。


「大地は?」

「中にいます」


おじゃましますも言わずに、礼さんは玄関を上がっていく。


「待ってください」

通り過ぎようとした礼さんの腕をつかんで止めた。


「何よ」

苛立ちを隠すこともなく俺の腕を振り払おうとする礼さん。


「大地の言い分をちゃんと聞いてください」

こんなことをするからにはそれなりの理由があるはずだから。


「わかっているわよ」

「本当に?」

「しつこい」


あぁ、ダメだ。

いつもの礼さんじゃない。


「ねえ、ちゃんと冷静に話せますか?」

「だからっ」

聞いたことがないような礼さんの声。


「やめましょう、礼さん。いつものあなたじゃない」

とても冷静に話ができるとは思えない。


「うるさいわね。早く大地に会わせて」

「ダメです」


今のままじゃ礼さんは大地を傷つけてしまうかもしれない。

そんなことはさせられない。


***


「いいですか、怒鳴らない、叫ばない。約束してください」

「わかったわ」


とにかく大地の顔を見ないと安心できないという礼さんに負けて、リビングへ通した。




「お、母さん」

直立不動で礼さんを見る大地。


「大地、あなたねえ」


ああ、ああ、もう。


「礼さん、約束が違います」

「うるさいっ、黙ってて」


大地に近づき腕を引こうとする礼さん。


「ごめんなさい、お母さんごめんなさい」

大地の方は泣きだしている。


「やめろっ」

俺は礼さんから大地を引き離した。


こうなる予感はあったんだ。

でも、大地に会いたいという礼さんを止められなかった。


「高野君、いい加減にして。これは私と大地の問題なの。これ以上かまわないでちょうだい」

「ダメです。今の礼さんは普通じゃない。こんな状態で大地と向き合えば傷つけてしまいますよ」

「たとえそうでも、高野君には関係ない」

「あります」

「え?」

驚いたように、礼さんの動きが止まった。


「わかるんです。今の大地は俺の子供の頃にそっくりだから」


まさか礼さんにこんな話をすることになるとは思わなかった。

誰にも話さないと決めていたのに。


***


「落ち着きました?」

「うん」

先ほどまでの威勢は消えてしまった礼さん。


「安心してください、俺が話を聞いてみますから」

「ありがとう」


あの後、大地は泣き出してしまいそれを見た礼さんも放心状態になった。

今回の件で悪いのは間違いなく大地だが、いきなり怒鳴りつけてしまうことで大地の気持ちを追い込んだと礼さんにもわかったらしい。


「母親失格ね」

「違いますよって言ってほしいですか?」


なぜだろう、今日の俺は意地悪だ。

礼さん相手にこんな口をきいたことなかったのに。


「ごめんなさい」

「謝る相手が違いますね」

「うん。わかってる」


今夜一晩、大地のことはうちで預かることにした。

男同士少しは話してくれるかもしれないし、今は俺の方が大地の気持ちがわかるはずだから。


「俺も家族は母親しかいなくて、いつも休みなく働く母に気を使う子でした。だから大地の気持ちが少しはわかるんです」

「でも、社長が」

「ああ確かにおじさんと同居していましたが入籍してはいませんし、あくまでも母さんの恋人で隣家のおじさんです」

「そう、なの?」


もし俺がいなければ母さんがおじさんと結婚できたのかもしれない。

俺は母さんのお荷物で、俺なんていなければいいんだといつも思っていた。

だから、反抗期もすごかった。


「でも、社長は高野君のことをうちの息子って言っているわよ」

「それは、」

長い時間一緒にいたせいで情が移っただけだ。


「まあいいわ、みんないろんな事情を抱えているんだから」

「そうですね」


***


「それにしても、俺やおじさんの気持ちがよくわかる礼さんが、なんで大地にはダメなんですかねぇ」

「それは」

「自分の息子だからですか?」

「うん、そうね」


礼さんでも息子のことになると冷静ではいられないってことか。


「ごめんね、迷惑かけて。そして、泊めてくれてありがとう」

「いえ」


俺も過去に同じような場面を経験しているから、黙っていられなかっただけ。

いや、それだけじゃない。俺は礼さんと話がしたかった。

この春突然HIRAISIに異動になって以来、一度きちんと話したいと思っていた。


「礼さん、怒ってますか?」

「え?」

「一年間教育係として面倒を見てもらったのに突然HIRAISIに行ってしまったことを、怒っていますよね?」

「いいえ、もう怒ってはいない。もちろん、初めはショックだったわよ。かわいい後輩だと思っていた人が社長の息子だって聞いたんだから」

「息子のような、です」

「同じことでしょ」

「そこは違います」


俺はあくまでも高野空で、平石の人間ではない。

その一線はきちんとしたい。


「社長は息子だと思っているわよ」

「それは・・・」


「とにかく、私は怒っていないわ。それより、同じマンションだったことに驚いた」

「ええ、俺も驚きました」


考えてみればここは平石財閥の所有するマンション。

平石のおじさんや琴子おばさんがかわいがっている礼さんが、ここに住んでいるのは不思議ではない。



「夕食を作るから持って行ってくれる?」

「ええ。朝食は連れてきますから、俺も一緒に食べてもいいですか?」

「そうね、お願い」


やっといつもの表情に戻って台所に立つ礼さん。

こんな状況なのに礼さんの手料理が食べられることがうれしくて、俺は一人にやけてしまった。

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