テラーノベル
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スポットライトが落ち、音楽が止む。
歓声が遠くの海鳴りのように響く中、
ボムギュはひとり、心臓の奥で何かが崩れていく音を聞いていた。
ステージ上で、ミスをした。
一瞬のタイミングミス。
普段なら笑って流せるような、そんな些細なこと。
だけど今日は違った。
「……っ、くそ……」
楽屋へと戻る通路を早足で歩く。
誰とも目を合わせたくない。
拍手も笑顔も声援も、いまは全部、自分には似合わない。
ガチャ、と扉が開いて、入ってきた気配がした。
「ボムギュ……大丈夫?」
振り返らずとも、声でわかる。
スビンだ。
いつもみたいに、優しい声。
でもその優しさが、今の自分には残酷で――
「……ほっとけよ」
「え?」
「だから、ほっとけって言ってんだろ!」
振り返って叫ぶように言った。
その瞬間、スビンの肩がびくりと震えた。
「……ごめん。俺、心配で……」
近づこうとしたスビンの手を、咄嗟に振り払ってしまった。
パシン。
乾いた音が、耳に残った。
そのとき、ようやく自分の中で何かが“間違っている”と気づいた。
はっとして顔をあげたボムギュの視界に映ったのは、
ほんの少し涙を浮かべたスビンの瞳だった。
「……ご、ごめん……っ、ボムギュ、俺、なんかした……?」
か細く、震える声。
涙を堪えているのがわかる。唇がわずかに震えていた。
「違う、俺が……ちが、……っ」
手を伸ばそうとしたそのときだった。
「……もういいよ。泣かせるくらいなら、近づくなよ」
聞き慣れた低い声が、背後から割って入った。
「ヨンジュ二ヒョン…」
いつの間にか、そこにいた。
スビンの肩をそっと抱き寄せ、涙をこらえてうつむく彼の顔を、手で隠すようにして覆った。
「お前がそんなんなら、俺がスビンを幸せにする」
静かに、でも確かに。
ヨンジュンはそう言って、スビンの背中をそっと押した。
「行こ、スビン」
スビンは何も言わず、ただヨンジュンに連れられるようにその場を離れていった。
何もできなかった。
止める資格なんて、自分にはなかった。
扉が閉まる音がやけに重く響く。
楽屋の空気が、静まり返る。
「……ボムギュ」
ようやくかけられた声は、テヒョンのものだった。
でも、その言葉の続きを彼も見つけられないまま、唇を閉ざした。
ヒュニンカイも何も言わなかった。
ただ、少し心配そうな目でボムギュを見つめていた。
だけど今は、誰が何を言ったって、響かない。
――見せたくなかった。
スビンにだけは、こんな情けない顔、絶対に見せたくなかった。
それなのに、自分で、全部壊した。
かっこ悪いのは、あのミスなんかじゃない。
素直になれなかった自分だ。
握りしめた拳が、震える。
戻したい。
でも、戻れない。
静かに、泣きたくなるほど静かに。
ボムギュはその場に立ち尽くした。
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