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見目麗しい証券マンを時折眺めながらの運転は、毎日がとても楽しいものになっていた。


『橋本さんにとって、俺はお客という立場でしょうが、遠慮せずに下の名前で呼んでくれませんか? プライベートでも仲良くしたいです』


そんな榊の申し出を嬉しく思いながら、要求通りに名前呼びをし、車内では懐かしの学校ネタや会社での愚痴で盛りあがった。

その感じは、ドライバーと客という関係よりも、昔馴染みの悪友と再会したものと思わずにはいられない。

他にも、自分を慕って懐いてくる榊が可愛くて仕方なかった。6つの年の差を感じさせずに話を広げていく年下の彼に、どんどん興味が湧いてしまった。

そんなある日、週の半分を飛び石で早朝出勤しただけじゃなく、帰りがいつもより遅くなった榊が、ハイヤーが発車した直後に寝落ちした。

疲れきったその様子をルームミラーで窺ったので、起こさないようにしなければと、信号に引っかかるたびに、アクセルとブレーキを柔らかく踏み込み、車を振動させないように運転させた。

数十分後に、榊が住んでいるマンションに到着して停車したが、起きる兆しがなかったので、橋本自らドアを開けてやった。降りるように促すべく、榊に手を伸ばしかけてハッとし、すぐに引っ込めた。

白手袋をしたままのてのひらじゃなく、素手で榊を起こしてやろうと考えついた。

手早くそれを脱ぎ捨てて、ポケットにねじ込んでから、榊の頬に触れる。柔らかくてしっとりした肌を指先に感じた瞬間、彼が欲しくて堪らなくなった。

男子高出身の榊なら、同性同士の恋愛を垣間見ているはず。自分が求めても、そこまで嫌悪を表わさないだろう。

そんな考えのもとで、顔を寄せる。

ルームランプが程よく榊の顔に陰影を与えるせいで、眉目秀麗さに磨きがかかっているように見えた。仕事の疲れが多少見えているものの、それさえも味方につけているイケメン具合に、すげぇなと思わされた。

橋本を欲情させた原因はそれだけじゃなく、榊の躰から漂ってくる、得も言われぬ甘い香りが、踏みとどめようとする気持ちに誘いをかけた。

いつもは整えられている前髪もちょっとだけ額に落ちていて、どことなく幼さを醸し出している。


「恭介……」


いつものように呼びかけて、起きないことを確認してから、唇を重ねようとしたまさにそのときだった。目の前にいる榊が、いきなり目を開けた。

不器用なふたり この想いをトップスピードにのせて

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