テラーノベル
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ここ数日、水戸屋の花魁、桃梅花魁はげっそりしていた。理由はいくつかある。まずひとつめは、6歳で吉原の水戸屋に売られる直前、母がくれた、紅珊瑚の帯留めが無くなっていたことだ。以前、桃梅花魁の、やりてのお柚が、帯留めを盗もうと寝ている隙に取ろうとしたらしいが、主人たちに見つかり、きっちり説教されたらしい。反省しているようだったが、元女郎のやりてなので演技の可能性もなくはない。お柚も帯留め探しに協力してくれたが結局見つからず。
次、お柚が色々言ってくることだった。
「あんな古くさいものよりもすばらしいものがありますよ。松葉屋の松の井花魁はこの前来た宝石商に翡翠で帯留めを作るように注文し、それはそれは立派な帯留めを持っているそうですよ。花魁。あんたも見習ってもう諦めたらどうだい」などと小馬鹿にもしており、それがとても嫌なのだ。
でも花魁としての仕事はやらねばならない。めんどくさい客がいても、あの帯留めが慰めてくれていた気がしてやってこれたのだ。
なんとしても、あの帯留めを取り返さなくては。わっちはあれなしでは生きていけんす。
そればかり考え、体調不良がずっと続いた。荒れ狂うときだってあった。馴染みの客はあれやこれやと、紅珊瑚の首飾りや髪飾りなどをプレゼントしてきたが、それも全て断った。
そしてあることに気がついた。
今、帯留めが大きな怒りと恨み、憎しみ、悲しみを溜め込んで、どんどん邪なものにねじくれていくことを。
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神すぎんか…?