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鷹槻れん

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鷹槻れん

35,405
#恋愛
水無月 京
1,300
#オフィスラブ
草原草原

1,286
あれから、季節がひとつ巡った。
初めてふたりで出かけたあの川辺も、今はすっかり緑が濃くなって、夏の気配をまとっている。
「懐かしいですね、ここ」
すぐそばに立つ彼――朝陽さんが穏やかに笑った。
付き合い始めてから半年。
最初は緊張してばかりだった私も、今ではこうして自然に隣にいられるようになった。
それでもときどき、ふとした瞬間に思う。
どうしてこんなに素敵な人が、私の恋人なんだろうって。
「なに考えてる?」
「え?」
じっと見つめていたことに気づかれて、私はあわてて視線を逸らしかけたのだけれど……。
「逸らすなよ」
「あ……」
すぐに捕まって、思わず苦笑いがこぼれる。
「癖になっちゃってるの」
「知ってる。でも前よりちゃんと見てくれるようになった」
そう言って、彼は満足そうに目を細めた。
あのころよりも近くなった距離を実感して、胸の奥がじんわりとあたたかくなる。
「……成長してるってことですかね」
「かなりな」
軽く笑いながら彼が私の手を取った。
指を絡めてギュッと握られるこの感触にも、もうすっかり慣れてしまった。
だけど触れられるたびに、やっぱりうれしくて胸がドキドキする。
「そういえば、今日はどうしてここに?」
尋ねると、彼は少しだけ空を見上げてから、私に視線を戻した。
「君に、ちゃんと話したいことがあって」
「話……ですか?」
どことなく彼の声音が真剣で、思わず背筋が伸びる。
仕事の話ではないのだろう。だけど、ほかは見当がつかない。
「俺さ」
彼がゆっくりと言葉を選ぶように続ける。
「君と出会ってから、だいぶ変わったと思う」
「そうですか?」
「以前は仕事が一番だったし、アウトドア以外には興味がなかった」
これまでのことを思い返している彼の話に、私は黙って耳を傾けた。
「でも今は違う。どこにいても、なにをしてても、君の顔が浮かんでくるんだ」
真っすぐに向けられるその言葉に、心臓がドキンとひとつ大きく跳ねる。
「仕事もだけど、冴実といる時間が一番大切だと思ってる」
静かに発せられたその言葉には、十分すぎるほど重みがあった。
「私も……」
ようやく絞り出した声は、少しだけ震えていた。
「朝陽さんと一緒にいる時間が、一番好きです」
そう伝えた瞬間、彼の表情が一段とやわらかくなる。
「それも知ってる」
「え?」
「顔に出てるから」
「もう……」
少しだけ拗ねたように言うと、彼がクスッと笑った。
こんなふうに流れる空気があまりにも自然で、とても心地よくて。
この先もずっと続けばいいのに、と心の中で願ってしまう。
「冴実」
名前を呼ばれて顔を上げると、彼の表情がさっきまでとは違っていた。
目力の強い瞳には真剣さが宿り、私をじっと射貫いている。
「これから先も、ずっと一緒にいたい」
期待と不安が入り混じって落ち着かない。
それでも目を逸らせないまま、私は彼の唇の動きを見つめていた。
「楽しいときも、つらいときも」
彼が一歩距離を詰めてきて、私を正面から見据えた。
「君の隣にいたい」
息が浅くなって、胸の奥がキュッと締めつけられた。
彼の次の言葉を待つ時間が、永遠みたいに長く感じられる。
すると、彼がポケットから正方形の小さな箱を取り出した。
「俺と、結婚してほしい」
ゆっくりと開かれた箱の中で、指輪がきらりと光っている。
川の水面みたいに、静かにキラキラと輝いていた。
視界が滲む。なにも言えなくて、ただ彼を見つめることしかできない。
「……返事、聞かせてくれる?」
少しだけ不安そうにしている彼の顔なんて、初めて見た。
だからこそ、はっきりと気持ちを伝えたい。
「はい。……よろこんで」
私の涙がこぼれ落ちるのと同時に、彼は心から安堵したような満面の笑みを浮かべる。
「よかった」
小さくつぶやいてから、彼が私の左手を取る。震える指に、そっと指輪をはめてくれた。
ぴったりと収まるその感触に、これは現実なんだと実感が湧いてくる。
「似合ってる」
「……ありがとう」
もうそれしか言えなかった。胸がいっぱいで、言葉が追いつかない。
彼が私を引き寄せて、そっと抱きしめた。あの日と同じように。
でも今は、あのときよりもずっとたしかな関係になった。
「これからもよろしく」
「こちらこそ……よろしくお願いします」
顔を上げた途端、彼と視線がぶつかる。
「逸らすなよ」
「もう逸らしません」
ちゃんと見つめ返すと、彼が満足そうに笑った。そしてゆっくりと距離が縮まる。
重なった唇は、やさしくて、あたたかくて、胸がキュンとした。
川の流れは、あの日と変わらずおだやかに続いている。
出会って、惹かれて、ここまで来た。
――この縁を、大切にしていこう。
そう強く思いながら、私は幸せをかみしめた。
【END】
コメント
1件
最終話、完読したわ…!最初はお互い微妙な距離感だったのが、川辺でプロポーズまでいく流れ、めちゃくちゃ良かった。指輪の輝きとか「逸らすなよ」が最後に「もう逸らしません」に変わるところ、成長感じてじんわりきた。ずっと一緒にいてほしいふたりだなあ。素敵な話をありがとうございました!